モノを買うことは世界を方向づける手段:フェアトレードを全国に広める胤森なお子さん

 フェアトレードとは、貧困、過酷な労働環境、児童労働、環境問題を解決するため、生産者と消費者が対等・平等に繋がり、適正な価格で取引きを行うなど協力し合うことで関係する問題を解決しようとする運動だ。

胤森なお子(たねもりなおこ)さんプロフィール
活動地域:全国
経歴:1999年ボランティア参加を経てピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社のブランド名)のスタッフとなり編集や広報を担当。フェアトレードのスポークス・パーソンとしてセミナー講師などを務める。2006年~2016年まで同社常務取締役。現在、同社の母体NGOグローバル・ヴィレッジにてフェアトレードの啓発・推進活動を担当。
現在の職業及び活動:一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム 代表理事/NGOグローバル・ヴィレッジ 代表
座右の銘:
「起こることにはすべて意味がある」(無駄な経験というのはないと思っています)

Qどんなきっかけでフェアトレードの世界に入っていったのですか?
胤森:私が、このピープルツリーの活動にボランティアで関わるようになったのは、偶然商品カタログを手にしたことからでした。それを見て、これを買うことが途上国の支援になるというコンセプトがとても気に入ったんです。
親の仕事の関係で8歳から11歳までメキシコに住んでいたことがあります。中南米の国々は貧富の差が非常に激しく、当時道を歩けば物乞いの人がいたり、観光地に行けば私よりも小さな子がお土産を売ったり靴磨きをしたりしているんですね。それを目にして、どうしてこんな事が起こるんだろう?自分よりも小さな子が働かされていることや物乞いをしていることはおかしいと疑問を持つ経験をしています。
大人になった時に途上国の支援に興味を持ち始め、チャイルドスポンサーシップといって毎月寄付を送って途上国の子供たちを支援することも長年やっていたのですが、たまに手紙をやりとりするだけでは、支援している実感があまり湧きませんでした。そんな時にフェアトレードを知りました。一方通行の寄付ではなく、自分がこの商品が欲しいからお金を出すけれども、それが相手のためにもなる。そのコンセプトがとても気に入りました。それで、ピープルツリーの商品を定期的に買うようになりました。イベントのボランティアに応募して活動を手伝うようになり、創業者やスタッフとも仲良くなって、ついに転職してフェアトレードを仕事とするようになりました。

Q未来のイメージや夢はどんな感じだったのですか?
胤森:アントレプレナーと呼ばれる人たちは明確なビジョンを持ち、それに向けて突き進んでいるようなタイプの人が多いと思いますが、私はそういうタイプではないんです。私は、アントレプレナーシップを持った人のサポートをしながらそれを実現する手伝いをするというポジションで仕事をしてきています。ピープルツリーの場合で言えば創業者がそういったビジョンを掲げて突き進んでいく中で、実際に人が働いて物作りをするには、社内の制度を整備するなど、いろんな管理業務が必要になります。そうすることでビジョンを実現できる。それが私の役割だと思いました。
 私が実現したいことは、貧困のない社会を作るという、それはもう壮大すぎるゴールです。貧困をなくす為にはどうしたらいいかを提案したい。その提案の一つがフェアトレードだったんです。
本来、モノを作る生産者とそれを買う消費者の立場に上下はなく、作り手は高い志を持っていい仕事をし、買い手は相手の仕事に敬意を払い正当な対価を支払うという「対等な関係」であるはずです。フェアトレードを広めることで、ゴールに少しでも近づくんだという信念がありました。それを創業者と一緒に進めるということが私自身のミッションだと考えてやってきました。

Q今はどんな計画を進めているのですか?
胤森:20年近くフェアトレードに関わっていますが、ずっと一貫してあるのは貧困のない社会を作るという大きなゴールです。そのためにやることとして、消費者への働きかけが、ものすごく大事だと思っています。生産者の人たちといろいろやり取りをしながら質のいい商品を作ることは生産チームや商品開発チームが担当しますが、一方でフェアトレード商品がきちんと選ばれて買ってもらえるよう、意味のある消費行動を促す必要があります。それを私はずっとやってきていますし、まだまだ足りていないので、これからもずっと続けていきたいと思っているんです。

Qどんな心のあり方、認識の変化が今の活動につながっていますか?
胤森:そうですね、変化という意味で言えば、私は子供の頃の経験もあって途上国支援という切り口からフェアトレードに入ったのですが、それにより自分が買うモノの背景をすごく考えるようになりました。
例えば、自分が食べているものはどうなんだろう?とか、そういうところにすごく興味を持つようになるんですね。自分がお金を出して買っている食べ物の背景ということも考えるようになったのです。それにより、オーガニックとか生産者の顔が見えるとか、そういうことにすごく楽しさを感じるようになりました。
さらに、自分が預けたお金はいったいどこに使われているんだろうという疑問が沸きました。大手銀行に預けると自分の知らない間に、環境を破壊するダムに投資されているかもしれないとか、武器を売る企業に投資されているかもしれないとか、そういうことまで深く考えるようになったんですね。そして仕事を通じて自分の暮らし方、あり方というところに深い関心を持つようになりました。 
私たちの消費活動は、実はモノを買っているだけではないと思うのです。黙ってモノがそこに存在しているわけではなくて、自分がお金を出して手に入れようとしているモノの背景には、一体何人の人が携わっていて、どんな思いでこの商品をここに届けてくれているんだろう?と想像することにより、一つ一つのモノに意味があって、愛おしいものだと思えてくるのです。

Qこれからどんな美しい社会を創っていきたいですか?
胤森:誰でももっと自分の持ってる力に気付いたほうが良いと思うのです。ある講演で参加者の方が、バイト代しか収入がないのでファトレードのものは買えないとおっしゃったことがありました。そのような人でも、例えば日々食べるものを選んで対価を払っているわけです。自分が無力だって思っているかもしれないけど、それは本当じゃない。使える額の多さや頻度に違いはあっても、お金を使うということにはものすごい力がある。企業を変える力ひいては社会を変える力があるわけなので、それを無駄にしないでほしい。
そこに意味を見出すと、色んなものが見えてきて、色んな人と繋がることができます。モノを介して、つくる人、売る人、買う人など、人と人が繋がることができます。

記者:貧困の無い社会の実現という大きなゴールを目指して、日本と開発途上国を、そしてご自分の仕事と生活を繋げようとされていらっしゃいますね。それを実現するために、作り手と買い手を対等・平等に繋ぐという経済の在り方モデルを提案し、実践し続けていることが、素晴らしいと思いました。
お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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胤森なお子さんに関する情報はこちらです
↓↓↓
【一般社団法人日本フェアトレードフォーラム】(胤森さんが代表理事をするフェアトレードを日本で普及させる団体)
http://fairtrade-forum-japan.org/

【グローバル・ヴィレッジ】(胤森さんが代表を務めるピープルツリーの母体NGO)
http://globalvillage.or.jp/

【ピープルツリー】(フェアトレードカンパニー株式会社)http://www.peopletree.co.jp/

【編集後記】
取材を担当させていただいた大場です。胤森さんは、自然体の雰囲気の方です。それはどんな人とでも対等平等の姿勢を貫きたいという意志によるものなのかもしれません。そもそものスタートは貧困に対する問題意識でした。それがフェアトレードを日本で普及させることに繋がっています。つまり「どんな問題意識を持てばよいのか?」という問いが、生きる意味や価値を見出すために重要なことだと思いました。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!

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