伝えあい、手を差しのべられる、安心の地域社会づくりを 牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄さん

日本は超高齢社会を迎える中、福祉の現場は大きな改革の時を迎えています。10年以上前から専門職と住民が繋がる必要性を感じ、地域包括ケアシステムの具現化をしてきた牧田総合病院地域ささえあいセンター センター長の澤登久雄さんにお話を伺いました。

 

澤登久雄(さわのぼりひさお)さんプロフィール
出身地:神奈川県川崎市
活動地域:東京都大田区
経歴: 2007年社会医療法人財団仁医会が委託・運営する地域包括支援センター センター長に就任。
2008年4月「おおた高齢者見守りネットワーク」(愛称:みま~も)を発足。全国で9箇所に広がり、協賛事業所・企業・団体は250を超える。
2017年に社会医療法人財団仁医会牧田総合病院の地域ささえあいセンターのセンター長に就任し、同年5月に同法人「おおもり語らいの駅」を開設。地域包括ケアシステム、地域共生社会の実現に向けた地域のコミュニティスペースとして、現在年間延べ6000人以上の人が訪れている。

 

人と人の循環が生まれ、活気ある地域をつくっていきたい


Q:現在、どのような取り組みをされているのですか?

澤登久雄さん(以下、澤登 敬称略)
「みま〜も」の取り組みを始めて、今年で11年目に入りました。
子どもを親が虐待したり、殺したり、そういう事件が続く中で思うのが、地域や社会から孤立している方が増加しているということです。早い段階で、手を差し伸べていたらこんなことにならなかった。ということも多いのではないかと思います
高齢者が孤立せず、地域の中でやりがいを持って生活していくことを目的に「みま〜も」は始めましたが、10年経つ中で、専門職や見守りや支援が必要な人たちは高齢者だけではないことを実感しています。
10年以上地域包括支援センターに勤務していましたが、そこを後任に譲って病院に戻り、病院の中に地域ささえあいセンターという部署を2年半前につくりました。
そして事業として『おおもり語らいの駅』という誰でも気軽に訪れることができる「常にそこにある場」をつくり、今では多くの住民の方々に利用してもらっています。

専門職として専門性を発揮した仕事をしていきたい


Q:どのような夢やビジョンをお持ちですか?

澤登:私がなぜこのような事業に取り組んでいるかというと、専門職として専門性を発揮した仕事をしたいためです。
現代、自分でSOSを求めることができない人が地域に増えています。
生死に関わるようなギリギリの状態で、近隣の方から通報という形で連絡が入って、はじめて私たち専門職はその人にたどり着けるわけですよね。
そんな状況で出会っても、専門職と地域の人で何かやることが違うのかといったら、結局同じことしか出来ない。
では、専門職がどんな時に専門性を発揮できるかというと、私たちが考える適切な時期につながることが必要です。そうすれば、その人のその時々の状況に合わせた支援が提供できると思うんですね。
それを実現したくて、日常に根ざしながら元気な頃から専門職と住民が出会う場や仕組みを創っています。

超高齢社会の中で人も企業も元気になるような日本社会を築いていきたい。


Q:それを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?

澤登今一番大事にしていることは地域の主体性を創っていくことです。
一人一人がやりたいことを実現するためのネットワークを作り、応援しあう場所が増えていけば、地域の主体性が育っていきます。
今、「みま〜も」も協賛企業が90を超えています。
様々な得意分野を持った企業も地域のまちづくりに関わっているので、企業とのタイアップもできます。
高度経済成長の時代は目先の利益を追求していく企業が多かったですが、これからはそのような企業は通用しないと感じています。
日本は世界中の国が経験したことのない超高齢社会を迎えます。
そのような超高齢社会の中で会社を存続させていくためには、方向転換しなければならないのです。それは目先の利益を追求することではなく、地域に根ざしながら地域に貢献することです。
「みま〜も」は、そういった超高齢社会の価値観を持った企業を育てていると言えるかもしれません。
日本だけでなく、世界中が超高齢社会になっていく、そうした時に先頭立って踏ん張っている日本が超高齢社会の中で企業も人も元気になるような社会を築くことができたらそれって全世界に発信できるわけですよ。それを創っていきたいなと思います。


何かを「してあげる」のではなく、フラットにどんな人とも垣根なく接していくことが大切

 

Q:その目標や計画に対して、現在どのような活動指針を持って、どのような(基本)活動をしていますか?

澤登:もともと私は、基本的に人のために何かやるって好きじゃないんです。(笑)
人のためって書いて「偽」という字になります。人のためって綺麗事に聞こえますけど、人のためでやることって長続きしないんですよね。
私はまず人と出会った時に、その人たちと自分自身が楽しむことを満喫しています。(笑)
人はまず自分が満たされて、楽しさや豊かさを実感していると必ず次の段階に向かうんですよ。
「自分が楽しい、だけどこの楽しさは自分だけの楽しさでいいのかな。今度は自分が他の人のためにできることはないのだろうか。」
そうやって自分の楽しさから地域や自分以外の他者に目が向く、その時にそっとポンっと肩を叩いてあげるだけでいいんですよ。
けれど、自分が楽しさを感じてなくて、「あれやって、これやって」って言われてそれで動くのはやらされ感です。そんなやらされ感でやってもらっても、うまくいくものなんてないじゃないですか。
自分が楽しいという実感を持って笑顔でキラキラした目で「力貸して」っていうから、その人はやりたくなるわけでしょう。
主体って伝播していくんですよね。

自分が楽しいし、その人が関わったらもっと楽しくなる、だからやろうよっていうことを大切にしています。
専門職は「してあげる仕事」として考えやすいですが、その「してあげる」を「してあげない」に断ち切るのに10年かかりました。
何かを「してあげる」のではなく、フラットにどんな人とも垣根なく、対等に、接していくこと。そうしたことが広がっていくことが大事だと思います。

Q:そもそも、その夢やビジョンを持ったきっかけは何ですか?そこには、どのような発見や出会いがあったのですか?

10年前、包括支援センターで働いていたのですが、若くてやる気のある人たちが、入って1年も立たないうちに退職することを多く見てきました。
ケアマネの事業所は3人ぐらいの小さい組織で、やっている業務は人を支援していくというすごく大変な仕事。20代、30代で90代の支援をやっていくため、オーバーワークになり、辞める人が多くありました。
当初は、地域の専門職同士が集まって、やりがいを見つけたり、地域活動を通して地域に愛着を持つ専門職を増やす目的でネットワークを創りました。
ネットワークを作ったからには、高齢者を見守り支え合う事業をやろうってやり始めたのがきっかけです。
事業資金は、賛同した企業を募り、企業から協賛金だけでなく、人材も出してもらうなど協力を得ながらスタートしました。

自分自身が手がけるからこそ大切なものになっていく


Q:その発見や出会いの背景には、何があったのですか?

澤登:私自身が専門職に就いたのは30歳になってからです。
その前までは、舞台芸術の地域活動の事務局で仕事をしていました。
当時、とても印象的だった経験があります。
多摩川の土手で年に1回のお祭りを青年たちと一緒に企画をしていて、ある年土手の遠くからも見えるような入場門を作ろうということになり、1年かけて大きくてデザインも凝った入場門を作りました。けれど、お祭りに来た子ども達に壊されてしまい、お祭りの当日にその門は一時間も保たなかったのです。
次の年のお祭りの時も、同じように入場門を作りました。今度はビールのケースを積み上げてそこにダンボールを貼って、白い画用紙をいっぱい貼って、その門の足元にいろいろな色の絵の具と筆を置いておきました。
子ども達が来ると大きな紙に絵を描きはじめ、門は壊されずにすみ、むしろ子ども達に大切にされていました。
その経験から、自分自身が手がけるからこそ大切なものになると思っています。
転職してこの業界に入った当初から「してあげる」というものはあまり好きじゃありませんでした。
医療や介護の専門職の人は無理をして、自分自身が病んでしまうケースが多くあります。
自分たちと自分以外の関係の中でお互いがメリットを感じあうことができ、何かをするにしてもwin-winの関係が大切です。
「してあげる」をしないこと。win-winの関係を創ること。この二つを意識してやってきました。

現在、他の病院にはない地域ささえあいセンターを通してまちづくりをしていますが、始めた当時は地域の日常に根差そうとする専門職はいませんでした。
病院の中で、専門職が病気や怪我をしている人に「してあげる」だけの関係ではなく、逆に専門職が地域の元気な人と出会うことによって学ぶことも多く、幅が広がっていきます。
最初は無関心だった病院の先生にも地域のセミナーで講師をしてもらうことによって、住民と今までにない関係が創られてきました。
病院が地域の健康を支える拠点となり、専門職と住民の垣根を超えて、お互いに支え合える地域づくりをしていくことが大切だと思っています。

記者:お忙しい中、貴重な時間をいただきありがとうございました!

 

澤登久雄さんの詳細情報についてこちら↓↓↓

●おおた高齢者見守りネットワーク(みま〜も) http://mima-mo.net/
●おおもり語らいの駅 http://www.makita-hosp.or.jp/katarai/

 

 

編集後記
インタビュー記者を担当した岩永と坂村です。
澤登さんのお話をお伺いし、日本社会において少子高齢化の問題が深刻になっていることを痛感しました。
そんな中で10年以上前から、専門職と住民の関係の大切さに気づき、今までにないネットワークをつくる取り組みをされていることに驚き、澤登さんの先見性と人とつながる力に感銘を受けました。
このような取り組みが日本全国に広がっていくことに希望を感じています。
これからも澤登さんのご活躍を応援しています!

 

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