「幸せのワイン」をテーマに栽培から販売まで、日本のお料理に寄り添うワイン造りをされている OSA WINERY ”長直樹さん”

■長直樹さんプロフィール
出身地:福岡県福岡市
活動地域:北海道小樽を中心として全国

経歴:20歳のときにイタリアの北から南のワイン産地を訪ね回り、いつかワイン造りをしたいと思い始める。エノテカ、飲食店、サントリーとワイン関連の職に務めながらワインとワイン造りを学ぶ。理想のワイン造りを求め日本中に適地を探し求め、2014年より北海道に移住。10Rワイナリーで研修後、2015年、北海道小樽にて醸造所「OSA WINERY」開業、2016年に農地所有適格法人「株式会社OSA WINERY」を創業。

現在の職業および活動:「幸せのワイン」をテーマに夫婦で栽培、醸造、販売までを一貫して行っている。

座右の銘:「笑う門には福来たる」

どこにいても「幸せのワイン」を造り続けること

Q.長さんが思い描くこれからの夢・ビジョンを教えてください。

長直樹さん(以下、長):幸せのワインを造り続けていくこと
です。ワインがあることで、日々の食がより豊かになることは一つの幸せだと思うからです。いくらお金があっても健康でないと一緒に食べていて「美味しいね」とは言えないし、楽しくないですよね。食が良くないと人間は良く生きられないと思うので、日々の食が大事だと思います。ワインがメインではなく、料理と一緒にあると更に食卓が豊かになるという感じですね。ワインを囲んでできるコミュニティもあると思いますし、ワインをゆっくり楽しむスタイルが食文化の一部になって広がっていくと良いなと考えます。

自然を受け入れながら、理想の畑作りを目指す

Q.その夢を実現するために、どのような目標や計画を立てていますか?

長:食べる物や感じる物を大切にしていきたいです。
取り組んでいる畑は数年、数十年かけて作る物なので、経験を積み重ねていきたい。農業って自分で経験しないとわからないことが多くて、土や根っこのことなどはまだ解明されていないことも多くて、テクノロジーやAIが発達していますが、根本的なことはわかっていないので、自分の経験も必要だと思うので、シンプルに向き合っていきたいですね。
具体的な計画というのは実はないですね。初めは具体的な目標を立てていたのですが、やり初めて気づいたのは天候や気候によっても色々と変わってくるので、計画を立ててできるものではないと気付いたんです。詳細な計画を持たずに自然の力を受け入れるしかないと思いました。昨年(2018年)は、「これだけの品種を育ててこれだけのワインを造るぞ!」と意気込み計画を立てたのですが、長雨など天候が悪くてかなり不作という結果に。自然相手のことなので、無理に推し進めようとせず、力を抜いて自然を受け入れながら、一番いいバランスを取っていくことをしていきたいと思っています。自然からはいつも学ばされています。

記者:初めは計画を立ててやっていたが、天候によって左右されるので計画通りにいかなかったのですね。

長:そうなんですよ。だからその都度その都度アジャスト(調整)していく方がいいと思っています。ワインの業界では「フィールドブレンド」というのですが、いろいろな品種を畑に植えて、収穫時期に一斉に収穫する。年によって品種の比率は変わり味も変わるため、神様のブレンドとも呼ばれています。これからは、そのような取り組みもできればと思っています。

自社畑として小樽市内に1つ、隣の余市に2つ畑を持っています。良い味のぶどうを育てるために、いかに畑を良くしていけるかが大事だと思っています。「幸せのワイン」を造るために、「香り」と「料理との相性」の2つを大切にしています。香りに直結するのが「ぶどう品種」。いかに心地よいアロマを持つぶどう品種を育てることができるかということが大事です。ぶどう苗を植えて3年目から収穫ができますが、本当の意味でいい味が出てくるのは植えて10年位してからとも言われているので、まずはそこを目指しています。畑や樹をいかに理想の姿にしていくかというのを目標にしています。そのために自然や土、生態系などいろいろなことを日々学んでいます。

ニュージーランドなどもワイン技術の最先端でもあるので、来年なのか再来年なのか、ワインの研修にも行ってみたいです。またワイン造りの世界はここ数十年で大きく進化しているので、そういったのも見たいので、海外でも学んでいきたいですね。

1日1日の積み重ねが次のワイン造りに活かされる

Q.目標計画に対して何を一番大事にして1日を過ごしていますか?

長:ワイナリー・ワイン・畑など、1日1日の積み重ねが大事だと思っています。まずはワイナリーを作って、ワインを作って、畑を作って・・・という少し前までの大きな夢だったことを一歩ずつ進んでいる段階です。夫婦でワイン造りを行うからこそ、毎日一緒に食べるものや飲むもの、感じるものがとても大事だと思います。
「こういう味の組み合わせがあるんだ」「こういうデザインパッケージがあるんだ」「東京の新しい店でこういう売り方をしているんだ」「こういう風にブランディングって行うんだよね」とか。テレビを見たり色々な土地に行ったり味わったりなど、見るもの聞くもの感じるものが全部ワイン造りに繋がっているんです。1日1日の積み重ね全てが、これから造るワインや、10年後のワインに活きてくると思うと面白いですね。

これは分業だとできないことだと思うのです。例えばラベルのデザインを考える時も妻と2人取り組むのですが、常に共有しているベースがあるからからこそ考えられるものもあると思います。だからこそ何気ない日々の積み重ねが大事です。2人の経験値を上げていき、さらに自分達らしさを作っていきたいと考えています。

あとは、自分自身がニュートラルな状態でないとコンスタンスに良いものは作れないと思うので、メンタルと体は気をつけています。

記者:日々奥様と一緒にワインについて話されているようですね。

長:そうですね。将来ワインを造りたいと思っている女性と出会うのもなかなかないと思いますね。2人共ソムリエの経験をベースにこうしてワイナリーを運営しているので、そういう部分でも共有できることが多いと思います。
私たちのワイン造りで行っているのが、「あらかじめ食事のシーンをイメージし実際に料理を持ち寄り、原酒のブレンドを行う」というのをやっています。妻と2人で料理に合わせながら組み合わせを考えてブレンドを1%刻みで調整しています。そういった時は日々何を食べて何を感じているのかがすごく出るんです。味覚や嗅覚をフル活用しているので普段の生活や意識が出る瞬間だと思います。
もともと2人共ソムリエということは大きいですね。実際に料理に合わせてワインを作っているワイナリーは他では聞いたことはないです。

ワイン好きな母と田崎真也さんの本との出会いから

Q4.夢を持ったきっかけは何ですか?

長:ワイン好きの母の影響が大きいですね。20歳の時に連れて行ってもらったワイン会でワインと料理の魅力を知って、ワインの世界にはまったのがスタートですね。
学生の頃は音楽、特にジャズと音楽好きだったので、将来的には音楽で生きていきたいと思っていました。しかしその道の色々な厳しさを感じていたりしてちょうど将来の進路を悩んでいました。そんな時、ワインと料理のペアリング「マリアージュ」などの面白さを知って、ワインであれば一生仕事として興味が尽きないのではと思いました。ちょうど赤ワインのブームの時だったので、自分が興味を持った時とワインブームがマッチしたんですね。

記者:マリアージュとはどういう意味ですか?

長:フランス語で「結婚」という意味なんですが、ワインと料理がお互いを引き立たせるような最高の組み合わせという意味ですね。

学生の頃、色々と本などでワインのことを調べたのですが、その時はワインソムリエの田崎真也さんが世界コンクールで賞を取ったり活躍したりされている時でした。田崎さんの自伝を読んで、「日本人がソムリエの世界で一番になる事ができるのはすごい!」「日本人の感覚も素晴らしいんだな、世界で勝負できるんだな」と思ったんです。また、「フランスの産地を回って〜」というのが田崎さんの本に書いてあったので、考えるよりも現地に行ってみて、ワインの事やワインの仕事はどんなものがあるのかを知りたいと思うようになりました。それから翌年には大学を休学してお金を貯めて半年イタリアを中心に、フランスやドイツをバックパッカーで回って、地方のワイナリーと地方のレストランを回っていました。現地でワインのことを見聞きするうちに、将来的には「ワインを造りたい」とか、「ワインの商社として架け橋になりたい」と思いうようになり、日本に帰ってきました。

20歳の頃は漠然とワインの世界で生きたいと思っていましたが、まだソムリエやシェフやワインの造り手、ワイン商社など、色々な選択肢を持っていたんですね。それで将来の事も含めて生き方のヒントを探しにイタリアに行ったんですね。イタリアから戻ってから約10年、結果的にはワイン商社もレストラン・ソムリエ、ワインの販売の仕事も経験しました。今は造り手として携わっていますが、今までの経験が全部生きているなと思いますね。そういった環境で働かなければ今のように食卓の事など考えずいたかもしれません。

記者:日本というのもキーワードのようですが、日本に対して何か思いがあるのですか?

長:日本だからできる日本らしい味わいのワインを造りたいと思ったんです。イタリアや世界で大好きなワインも色々とあるのですが、海外の真似をして味わいを求めても仕方がないですよね。日本人の感覚も持っているからこそ普段の日本の味や食卓に寄り添える味が造れると思います。例えばフランスのワインで「お寿司に合うワインです」といって紹介されることがあるのですが、どれ位日本の食文化やお寿司を理解しているのかと疑問に思うことがあります。日本の環境でできるワインの特徴としては、海外のワインのようにボディは強くなく、日本酒のような体に染み入る、柔らかな味わいのワインができるんですよね。
水で例えると硬水・軟水があるように、ワインにもタイプがあります。
例えば、ヨーロッパのお料理は味がしっかりとしているので、ヨーロッパワインのようなしっかりとした味わいはお互いに良いバランスが取れます。しかし、日本料理のように出汁やじわっと染みるような素材の味を活かした料理には、柔らかな味わいのワインが合います。そういった特徴の日本ならではのワインを造っていきたいです。

レストラン経験を通して食や食卓の大事さを感じる

Q.その発見や出会いの背景にはどんな気づきがありましたか?

長:帰国後ワイン商社に入社し、エノテカやレストラン・ソムリエ、ワイン講師をしたりと、ワインを中心にいくつのかの職を経験したりもしました。サントリーにいるときに山梨のワイナリーで研修したり九州のワイナリーで勉強したりしている間に、ワインを造りたいという気持ちが強くなりました。もともとは、50歳、60歳と退職をしてからワイン造りができればいいかなと思っていたのですが、ワイナリーを始めるには体力や気力も相当必要なことが分かり、始めるなら少しでも早い方がいいと思うようになりました。2年位かけて全国100箇所をまわって場所を探しました。
サントリーに勤務時代に、山梨の登美の丘ワイナリーで研修を受け、日本でワイン造りをするのも良いなと思うようになりました。実は日本のワインの品質は、ここ5年10年ですごく上がっているんですね。ワイン造りのスキルや経験もなく、言葉や文化も違うイタリアにいきなり行ってワインを造るよりは、まずは日本でスキルを磨き、資金を貯めながら挑戦するのも有りだと思って日本で造ることを決心しました。実際に日本でやってみると、日本の食に寄り添うワイン造りというのは正解だったと思っています。

記者:レストランで働いていたからそう思うところもあるのですか?

長:そうですね。飲食業を経験したからこそ食の大事さや、食卓を囲んでみんなが楽しそうに過ごすことが大事だとより認識するようになりました。だからこそ食に合うワインを目指しているというのはあります。
お酒というと悪者みたいに言われることも多いですが、「酔う」ためのものでもなくて食を楽しんだり、食卓を豊かにしたりするためのツールだと思っているし、それが幸せに繋がっていると思います。

記者:食卓を豊かにするというのは音楽も通じるところがありますよね?

長:音楽ももちろんそれはあると思いますし、以前、癒しのコンサートなども福岡でやっていました。五感の中でも耳というのは常に開いている感覚です。自然に体に入ってくる感覚でもあるので、音楽の力はあると信じていますね。
だから私の中ではワイン造りと音楽は近いところもあるし、繋げているつもりでいて、実際に1Fにある醸造所では24時間365日ボサノヴァをBGMとして流していて、ワインはそれを聞きながら熟成されています。飲む時にゆったりとした気持ちで楽しんで欲しいと思ってますし、畑で作業をする時にもボサノヴァやサンバをスピーカーで流しながら作業をしています。ワインや音楽は、人生の中でなくても生きていけるものですが、あると少し豊かになるものだと思います。音楽は1度にたくさんの人に聞かせることができる素晴らしいアートだと思いますが、ワインには限りがあるので、1本1本丁寧に造れたらと思います。

生きがいでもあり、造り手そのもの

Q.長さんにとってワインはなんですか?

長:生きがいでもあり、人そのものですね。ワインに造り手の個性がものすごく出るんですよ。とてもストイックな人が作るとストイックなワインになりますし、楽しい方が造るワインは楽しいというように、ワインに造っている人の個性が出るんですよ。もちろん生産地の地域性も出ると思いますが、それ以上に人が出るんですよ。ですから、ストレスを抱えていたり、家庭環境がギスギスしていたらそういう味のワインになります。
先日、取引先の酒屋の方に、「長さんのワインを飲んで安心した」と言われました。理由を聞くと「楽しく造っている雰囲気とかやりたい事がそのままブレていないくて、毎年造っているのが感じられるよ」と言われました。うまくいっていない方やワインに対して愛情がない方の造るワインはすぐに味に出るそうです。例えば、結婚してその方がハッピーになるとすぐに質がよくなることもある、というのを言っていました。ですから日々を健康に保つというのも大事だと思い意識をしています。人によってはただの飲み物、ただのお酒なんですが、ワインは人そのものなんですね。

記者:畑にボサノヴァを聞かせるというのも、長さんだからボサノヴァを聞かせるというところでは本当に人そのものですね!

長:そうですね。ラベルもネーミングも、畑も全部ですね。ワインは自然にできないので、売る場所、売ってくれる場所と良い関係を保つのも自分次第ですからね。
以前ある関西の酒屋さんで「ワインを取り扱いたい」とご連絡をいただいたことがありました。うちの場合は、全ての酒屋さんの雰囲気とか保管状況、売り場、配送車などを確認していから、安心してお任せできるお店のみとお取引するようにしています。その際も「今度関西に行く時にご連絡します」と言って半年ほど待ってもらったんです。それで実際にお店に伺い、全てを確認してからお取引きとなりました。

記者:大切な子供を出すような感じですね。

長:そうですね。そうした方がお客様にも繋がると思います。少し言い方が悪いですが、適当な置き方をしている酒屋さんはお客様も適当でよいという方もくるかもしれません。良いとされる酒屋さんは良い雰囲気を持っていると思いますし、良いお客様を持っていると思いますね。うちで造れる本数は約8000本と限られているので、1本でも悪い状態で飲んでほしくないというのがあります。

記者:以上でインタビューは終了です。

本日は貴重なお話、ありがとうございました!

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■Facebook
https://www.facebook.com/osawinery/
■HP
URL: http://osawinery.com/

【編集後記】
インタビューの記者を担当した菊地&岩田です。
福岡のご出身であるにも関わらず小樽という土地の魅力や可能性を感じて日々天候や畑と向き合っている姿が印象的でした。
料理に合うワインを追求されているということで、実際にワインを飲ませていただきながらワインの特徴の説明をしていただくことで、食を楽しむイメージも膨らむことができましたし、長さんの人柄が現れているようでした!
「食とワインのマリアージュ」という新しい文化を小樽からぜひ作っていただき、ぜひ幸せを広げていっていただきたいです!

今後の更なるご活躍を楽しみにしています。

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