自ら天職を貫く 福岡県発明協会 会長 “石橋一郎さん”

身近にあふれている知的財産について、広く一般の方々に知ってもらう活動をされている石橋一郎さんにお話を伺いました。

石橋一郎さんプロフィール
出身地:福岡県
活動地域:福岡県
経歴:九州工業大学を卒業後、株式会社安川電機に入社し、希望していた知的財産部門に配属され、現在に至るまで特許担当者としての道を歩んでいる。安川電機では知的財産部長を歴任後、現在は技術開発本部知的財産担当技師長を務める。また、地域の大学及び大学院において非常勤講師を長年に渡り務めているほか、福岡県発明協会会長や、日本知的財産協会中国・四国・九州地区協議会の幹事も務める。
現在の職業及び活動:株式会社安川電機において知財関連業務での後進の指導、一般社団法人福岡県発明協会において、特許行政への協力や地元企業・団体等への各種支援、地元の複数の大学において、知的財産権の非常勤講師。

知的財産を知ってもらう

記者:石橋一郎さん(以下、石橋 敬称略)は現在どのような活動をしていますか?

石橋九州工業大学、西日本工業大学、九州産業大学という、3つの大学で知的財産権についての講義を工学系の学生・大学院生を対象に行っています。知的財産権は技術者として企業に就職した時、必須の知識となるので、学生の時から興味を持ってもらい、基礎知識を習得してもらうようにしています。

今春、内閣府の「知的創造教育」の実証授業として福岡工業高校の1年生5クラスで特許制度の仕組み講義とアイデアの創出演習を実施する機会がありました。同校は特許先進校で、生徒さんが取得した特許も多数あり、ホームページにも掲載されています。生徒さんが取得した1つの特許を例題に選び、さらなる改善案がないか考えてもらう演習を実施しました。

そこで、実際に100円ショップで買ってきた商品に私が細工をして、その特許のような品物を作り、改善策がないかを班で討議する演習にしました。短時間の演習でしたが、高校生も面白がってやってくれました。問題点を解決することによって、どんな小さなアイデアでもそれが特許になる可能性があるということを理解してもらえました。

記者:私たちが日常的に使っているものでも、その中に知的財産があるということを意識していないんだなと気づかされました。

知的財産についての知識レベル向上

記者:石橋さんはどのような夢やビジョンをお持ちですか?

石橋:知的財産に関する一般の人の知識レベルを向上させることです。知的財産であるアイディアを保護する社会にしていきたいです。

日本は技術立国ですので、技術を守ることができなければ日本の産業は廃れていきます。特許の出願件数は年間で、日本は3位で31万件、アメリカは2位で60万件で、1位の中国は138万件です。

多くの方は中国のことをコピー商品ばかり売る国だと思っていますが、それは中国の中のごく一部のことに過ぎません。5G技術や、顔認証技術などは世界最先端にいます。

大学などでの講義の工夫

記者:「知的財産に関する一般の人の知識レベルを向上させる。」という夢を具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?

石橋:大学や市民向の講義では、一般の学生や市民の方が「へー、そうなんだ!」と思ってくれるような「特許にまつわるネタ話」を取り込んだ、わかりやすい講義にすることです。

例えば、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイはポンプを発明し、トーマス・エジソンは白熱電球のフィラメントに日本の竹を使いました。しかし、これらは意外と知られていません。こういった歴史的な話を含めて知的財産のことを話していきます。

また、最近はテレビドラマでも発明・特許の話が絡んだものが増えてきましたが、このような「旬の話題」の特許にまつわる話はできるたけ取り入れるようにしています。最近では、小保方晴子さんのSTAP細胞特許もオーストラリアで特許が成立しましたね。

ヘアカット方法や消しゴムの特許もあります。飲食店チェーンのお店での飲食提供方法が特許になっているものもあります。このように、身の回りには多くの特許で溢れているという話をしています。これらを知ってもらうことで、一般の人の知財知識が上がって日本の産業界もうまくいくのではないかと思っています。

二本立ての強みが知的財産

記者:そもそも「知的財産に関する一般の人の知識レベルを向上させる。」という夢を持ったきっかけは何ですか?そこには、どのような発見があったのですか?

石橋:私にとって二本立ての強みを持てるのが「知的財産」だったことです。

高校時代、文科系と理科系に分かれなければならないことに反発を持ちました。理科も好きで社会も好きだったからです。法律的なことと、技術的なこと、両方ができる仕事を探していて見つけたのが「知的財産」でした。

大学時代から独学で勉強を始めましたが、クラスメイトにも知的財産の勉強をする人はいませんでした。

技術的な発明を文章で表現して、それが法律的な争いになることが面白かったのです。私は面白いと思って勉強していたのですが、他の人たちがあまり興味を持っていない現状を知りました。

本当は知っておかないといけないし「実は面白いんだよ。」ということを伝えたくて知的財産に関する仕事を始めました、といえるかもしれません。

知的財産こそが私の天職!

記者:「二本立てで強みを持てるのが知的財産だった」という発見の背景には、何があったのですか?

石橋:大学を卒業して会社に入る時に、「知的財産こそが私の天職だ!」と思い込んだことです。

「これが自分の天職だ!」と思い込めば、それをするのが楽しくなります。私にとっては趣味であり、仕事でもあるので「きつい」と感じたことは全くありません。

技術系での知識と法律系の知識、両方を持っていれば、両方ともできる人は少ないので、学生時代の私にとっては活躍できる道があると思いました。特定の分野ではトッブクラスになれなくても、複数の分野でそれなりのレベルを維持することができれば、その複数の分野を又にかけた仕事ができるからです。

しかし、知的財産の道に入ってしまうと、そこにいるのは技術系・法律系の知識を持っている人ばかりです。そうなると、もう1つ別の専門知識である「企業にとって必要な知識」を身に付けることで、自信になりました。

特許庁長官表彰を受ける

記者:お仕事をされている中で一番うれしかったことは何ですか?

石橋:2016年に特許庁長官表彰を受けたことです。福岡県発明協会での業務の他、地元大学での長年の講義実績などが評価されたものでした。東京で、初めて夫婦同伴の表彰式に参列してきましたが、ちょうど熊本の震災の翌々日のタイミングで、飛行機が欠航となり、他の便に振り替えてどうにかギリギリ表彰式に間に合いました。

天職だと思えたからこそ

記者:反対に、お仕事をされている中で一番辛かったことは何ですか?

石橋:過去にはアメリカと日本でも別の複数案件が同時に提訴されて大変な時期もありましたが、知的財産の仕事は天職だと思っているからこそ、乗り切ることができましたし、喜んで対応しました。「喜んで」というと語弊がありますが、特許訴訟を担当できることは、世界中で特許訴訟が同時進行しているような超大手企業は除いてなかなか無いことだからです。

天職だと思っていなければ、「訴えられるばかり…」とダメージばかり受けて、精神的にも沈んでしまっていたことでしょう。自分の天職だと思って難しい仕事、大変な仕事にも対応する心構えが重要だと思います。

読者へのメッセージ

記者:最後に読者の方へのメッセージをお願いいたします。

石橋:天職だと自分で思い聞かせて、納得して仕事をすれば面白くなります。仕事イコール趣味であり、やりたいことでもある、そうなることが一番良い生き方だと思います。仕事は一本筋を通したもの、つまり自分自身の考えがあると良いでしょう。

記者:石橋さん、今日は本当にありがとうございました。

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石橋さんについての詳細情報についてはこちら

↓↓↓

Webサイト:一般社団法人福岡県発明協会

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編集後記

今回インタビューの記者を担当した吉田です。

同じ出身大学(九州工業大学)の大先輩でもある石橋さんにインタビューさせてもらいました。今の時代、なかなか「これが自分の天職だ!」と思えている人は少ないです。石橋さんのお話を伺い、「自分自身をどう思うのか?」が人生を決定づけるのだと思いました。

石橋さんのように天職を得た人達が日本に増えることで、より日本が元気になっていくことでしょう。

今後の更なるご活躍を期待しています。

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