映画の創り手になることで「自分の生き方は自分で決められる」映画監督の”衣笠竜屯さん”

映画監督の衣笠竜屯さんにインタビューを通して楽しく語っていただきました。

プロフィール
出身地:神戸・御影
経歴:8mmフィルムで映画を作り始める。80年代にヨコハマ自主映画祭などに関わった後、「神戸活動写真倶楽部 港館」を創設。近年は48時間で映画を作る国際映画祭48HFP等にも参加。
現在の職業および活動:「シナモンの最初の魔法」(15’劇場公開作品)がツタヤ・ゲオなどでDVDレンタル中。監督作「クラブのジャック〜やすらぎの銃弾」(17’劇場公開予定)「歩と抹茶パフェ」(16’第3回神戸元町SFF参加)など。

Q1:(映画を撮る)夢を持ったきっかけは何ですか?

衣笠竜屯さん(以下、敬称略):スピルバーグの「未知との遭遇」「ジョージルーカスのスターウォーズ」など、いくつかの映画を見ましたが、ビジュアル力がすごい強烈だったんです! 夜の街を歩いていても宇宙船が浮かぶイメージが来て、その時にこれを形にしたいと思ったことがきっかけですね。才能があるかどうかは自分では分からないけど、俺より才能ある人はいっぱいいる。では、やらなくてもよいのかというとそうではなくて、何だろうなと。

つまりは俺が映画が作りたいということ。お金を稼げることがこの世界では正義ですから、20歳なるとプロになるかどうかを迫られるわけですが、プロにならない奴は趣味だろ、と軽く扱われる。自分が映画を作りたいという思いはあっても、それがお金にならなければこの世の中では認められにくいことですよね。そんなこともあったのですが(映画を作る)コストが下がってきて自由な時間が増えていき、そこで何か出来ることないかなと思って映画を撮ることをし続けました。

Q2:評論家になる人と映画監督になった人との違いは何ですか?

衣笠:映画監督をしていると音楽関係者、バンド、役者、演劇関係者など、いろんな人と会います。映像しか出ない人もいるし、評論家の人もいる。映画を作っている時に、恋愛や三角関係などの人間関係で揉め始めたり、もうそれはややこしいことが起きる。なので、映画を作るのが結構大変だけど、そんな大変なことが分からなくて、自分でやっちゃいたい!と言う、ある意味、おっちょこちょいな人が映画監督になる場合が多いですね。

一方で、評論家の人たちはそれを分かっているので、それを観て楽しむ方に回っている。映画監督は何もしない立場で、映画に出演する方々が魅力になるのか、その魅力を誰かに伝えるのが仕事なんです。人間関係は面倒臭いトラブルがいっぱいあるので、片思いだけして、好きだと言われたら逃げちゃうような人が映画監督に多いということですね。けれども映画に関わって、自分が何をしてワクワクするのか、自分の居場所みたいのが見つかる気がするので、やっていて心地がいいですね。

Q3:映画で人や街を引き出す時に気をつけているポイントは何ですか?

衣笠:それは、自分が何を好きになるかでしょうね。そして許せるかどうか。その人のことや街、風景を許せるのかどうか。「これはダメだ」「この人とは一緒に居たくない」とか、正直たくさんあります。お仕事は出来るけれども、あまり長く居たくない、とか。みなさん魅力はあるのですが、自分が嫌な部分があるし、その人に魅力がもうちょっとあれば...

多分、「もうちょっと」と言うと、それが許せない人ということになり、それは自分のことだと思うんですよ。鏡のように。自分の中で自分をどこまで受け入れるのか、監督としてそれを証明するという、ところがありますね。与えられたこの状況の中で、ロケ地で、この人と、このシナリオをどれだけ好きになれるのか、ということ。自分のことがどれだけ好きなのかに関わっている気がします。

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Q4:どんな夢やビジョンをお持ちですか?

衣笠:プロではないやり方があるのではないか、と考えていました。映画を作りたいけど、それで商売しようとは思っていなかったです。プロになる、ならない、はどっちでもよくて自分のために映画を作りたかった。当時、プログラマーをしていて20代後半に鬱を発症して仕事を辞めたりもしました。

それとAI時代に何が起こるかと言うと、機械が進化すると人間は暇になる。暇になったらお金のためではなく自分のために時間を使ってよいのではないか、と。自分の仕事って何だろうということですよね。お金を稼ぐ仕事もあるけど、みんなでゴッホのように売れない絵描きになるのが理想、夢だと思います。ゴッホは、当時の技法とか全部、無視していて彼が生きている当時は商品として受け入れられなかったですよね。

更に言うなら、自分たちが作り手側に回ることだと思います。私たちの生き方のモデルは、東京から発信されていませんか? 東京ではなくても、ハリウッドでも、ニューヨークでもいいんですけどね。それが無意識に当たり前になっている。自分が(映画の)作り手に回るということは、自分の生き方を自分で決められるということになります。それを今は取り戻している段階に来ていると思います。それは端的に言うと安くなったから。昔も、映画を作るにも1分撮影するだけ(16ミリ)で1万円、100分の映画を作ったら数百万円がフィルム代だけで飛んでいってしまう。

例えば、昔、小説は貴族しか書けなかった。紙とペンが高かったから、庶民は手が出せなかったというのもありますよね。今はもっと安く簡単に映像を取れるようになっているので、作り手が、どんどん増えていく時代だと思います。作り手と受け手の垣根がどんどんなくなっていき、今後は、YouTubeとかで10分か40分ぐらいの映画はいっぱいできていて、みんなが勝手に作っていく、作って見ちゃう映画がどんどん増えていくと思います。誰でも映画を作っていいんだよということを広げてきたい。

映画を作る中で、自分の中での生き方の探し方が、ここで見つかると言う確信がちょっと出来ているのかもしれない。それは映画じゃなくても良かったかもしれない。お金になることではなくて自分は一生をかけてこれをやるんだ、というもの。一様、私はこれは社会のためにやっているつもりではあるけど、自分のためでもある。これをやることで社会的な意味がなかったらやらないけど100人いたら、1人は受け取ってくれるだろう、と期待をかけて作っています。

実は、映画を始めた数ヶ月で母親が急に癌で亡くなったんですね。その頃は、癌は生存率が凄く低くて、母は苦しんで死んでいったんですよ。その時に、人間は一瞬で死ぬんだと思った。その時に笑って死にたいと思ったんですね。「あ、俺、死ぬときは笑って死にたい」「満足して死にたい」と。母親の人生を考えたりすると本人しか分からないですが、あれで良かったのかな、と言う思いがある。俺だって明日、死ぬかもしれない。そんなことから、自分の仕事は自分で作るという発想になっていったんですね。

Q5:最後に読者に向けたメッセージをよろしくお願いします。

衣笠:あなたには価値がありますよ、と伝えたい。だからワクワクすることやりましょうよ、と。それがもしかして辛いかもしれないけど、案外、その辛さは、やってみると小さかったりすることも多いので、ワクワクすることをやっていきましょ。これを読んだ直後でもいいので、お茶飲むでもいいし、何か古い映画を見るでもいいし、何かワクワクすること。何かにチャレンジしてみてくださいな、と。ささやかなことでもいい、大きなことじゃなくてもいいので。

記者:とても貴重なお話をありがとうございました!

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〜編集後記〜
取材を担当した田沢、岡田、山口です。
衣笠さんの創る映画は、自分の生まれた環境や人間の魅力を新しく発見し、日常がワクワクするきっかけをくれる映画であると思います。AI時代は、ものづくりから‟ものがたり”の時代へ変化していくことを感じています。
ありがとうございました。
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