⾒えないけれども、大切なものを描く/ アメリカ人水墨画家コール・ノートンさん

米国の大学にて人物デッサンの指導や6年間に渡る古武道の修行を経て、現在は東京都青梅市を拠点に米国・東京にて制作・発表を続けているアメリカ人水墨画家コール・ノートンさんと協働制作をされいる晶・ノートンさんにお話しを伺いました。

コール・ノートンさんプロフィール

出身地:米国ウィスコンシン州

活動地域:米国、東京

経歴:米国ウィスコンシン州出身の画家。

MIAD(Milwaukee Institution of Art and Design)卒業後、人物デッサンクラスを教える。6年間の古武道の修行を経て来日し、茶道や篆刻に触れ、日本画、水墨画を学ぶ。

2015年より上海出身、東京都青梅市在の水墨画画家、白浪氏に師事。

2017年2月から青梅市黒沢に移住。

現在の職業及び活動:画家、絵画・人物デッサン教室主催

座右の銘:道可道、非常道。名可名、非常名。 (老子の言葉第1章から) 

見えないけれども、大切なものを描く

『MA 間 間の間にあるもの展 The Essential Void 』よりPhoto by Mariko Yamaguchi

Q:⾒えないものを描く、とお話されますがそれは何なのでしょう?長くされていたという、古武道に続くものがあるように見えるのですが。

コール・ノートンさん(以下、コール 敬称略):  言葉で説明するのは難しく、その表現は絵でなくては伝えられないものだと思っているのですが、説明してみようと思います。

僕が描こうとしている絵は、何か自分を超えたものなのです。それは間違いなく、計画を越えたもので、計画できるのは一部のみです。そしてその作品が完成した時、その作品は私に人生に対しての希望や励まし、立ち向かう力を与えてくれるものです。

ここに描かれる人物たちは、私にとってまるで守護神や、神聖な存在にも見え、私を助けてくれる存在でもあります。そしてこの絵を見る⼈にとってもそういう存在であるように見えるようです。

そして面白いことに、AIについて繋がることだと思うのですが、 多くの人は「私たちは誰なのか?」「私たちは何をするべきなのか?」「どうして私たちはここにいるのか?」 という問いに対し複雑な気持ちを抱えて混乱し、昔からあった仕事や物事の進み方、そして従来の価値観などは段々と失われつつあります。

その混乱の中でも、私は「人物画」が、何か特別な意味を持つように思われるのです。

もし私が今の時代に育つ子供であったならばその絵を見た時に、「人間であるということは、美しいことである」「人間であるということは、大事なことである」と思えるような絵を描きたいと思っています。

そしてこれらの人物は、何かのスーパーヒーローでも、どこかの文化背景に基づいて描かれたものでもありません。モデルを見て、私が見たままを描いたもので、特定の文化だけに限定されたものではありません。アジア系の人であることはわかると思いますが、それ以外は、彼女は人間です。
この人物は、誰かを傷つけることで誰かを守る戦士でもありません。

人間であるということ、慈しみの心を持つことで存在する「美」を描きたいのです。

私の作品が、思いやりの心に溢れ、完全に非暴力で、私たちを人間であることを励まし鼓舞するものであって欲しいのです。
特にこの作品は、私が描けるどんなものよりも、強さを持っていると思います。 何かを強そうに見せようとしたり、見た目の強さを描こうとするよりも、 不思議とその”強さ”は現れてくるものです。その強さとは、個⼈、一⼈一⼈が持つ人間の”強さ”だと思うのです。

アメリカで生まれ育つ中で、皆があるべき理想の姿の考え、”強くあること””強くある必要性” ということが強調されていました。完全に作り話ですが、きっと日本の男性も同じ境遇だったでしょうね。本当に間違っている話です。
本当の”強さ”とは、内⾯にのみ見つけられるもので、 本当の”強さ”とは、私たちが本当は何者なのか、ということに気がつくことから生まれるもの、つまり美しい人間であるということに気づくということです。

晶・ノートンさん
(以下、晶  敬称略)コールは優しすぎるということで悩んだそうです。破壊していく、戦車や武装したものが強さで、優しい=弱いと悩んだ時期があったんですね。強さと優しさは相反するものではなく、相手を思いやる優しさと強さを兼ね備えた強さというのを古武道を通して知り、人⽣を変えた経験だったと話をしています。

コール:その”強さ”というものは、”美”の中にあるものなのだと思うのです。 そしてその優美さや、美しさが、それをより”強く”させる、その存在そのものが”強さ”なのです。
そして実は”強さ”とは他人に対する、暴力や破壊であるという歪んだ考えをずっと押し付けられていますが、それは本当の強さではありません。”強さ”とは自分への愛、それは他⼈への愛を持つ事と同意義です。 それこそが本当の”強さ”です。その”強さ”を一⼈一⼈、その⼈⾃身の中に⾒出してもらうためのきっかけを作る、 その為に私は描いているのです。といっても、ある特定の考えや団体に反対したりしようとはしていません。
ただ、バランスが必要なのだと思うので、このようなタイプの作品が世の中にあるということも、また大事だと思っています。

晶:その愛を持つ”強さ”と、破壊的な”強さ”を光と闇と、両⽅あるからお互いに存在できるというこ とも同じかもしれません。光と影、両⽅があるから素晴らしい作品ができるんですよね。 光だけでは、その光も⾒えないですし。

コール:僕の描こうとしている絵は、誰かを物とみなしたり、何かの対象として⾒て描くものとは全く異なります。完璧な理想像だったり、鑑賞者を悦ばせるようなものです。そして物事や世界にある光を⾒て、物事の⾒⽅を変えることを迫るようなものです。

僕の絵は、宗教的な絵画と共通点があるとも言えると思います。宗教的な絵画は、鑑賞者の視点の変換をさせる働きを実際にするアートだからです。自分の作品が宗教絵画だとは思いませんが、ある意味では、私の絵画にも宗教絵画と同じように鑑賞者に自分の心をみつめる、内省することを迫るような機会を促すものがあると思うからです。

禅のお寺の天井の⿓、不動明王など、自分の内⾯を振り返り、自らを鼓舞し良くしていく様にデザインされ、実際にそのような働きを促しますよね。そして私たちは忘れてしまいがちですが、実はその⼀つ⼀つは、人々の⼼から形作られたものです。 宗教の戒律やシステム、彫刻や絵画なども含めて、人々が年月をかけて作り上げていったものです。つまりそれらの素晴らしいものは、私たちの中にあったものなのです。
晶:もともと形がなかったものから作り上げたものだから、実はそれは私たちの中にあっ
たものですよね。仏像も、その教えや思いを具現化する彫り師がいた。ずっと当たり前にあったわけじゃなくてその前は実現しなかったもの。そう思うと、その強さはみんなの中にあって、その可能性はみんなの⼀⼈一⼈の中にあるとも言うことができますよね。本来ある強さとして。

Q:奥様も、この生き⽅を共有してサポートされているんでしょうか?足並み揃えてというのが、とても大事な様に見えますが。

晶:そうなんですよね。本当に二⼈三脚というか。描くのは彼ですが、制作は協働作業です。
記者:絶対にサポートがないと、できないですよね。
晶:いきなり水墨画したいとか、日本画が学びたいとか、日本に引っ越すぞとか言い出して、そういうのは本当に頑固ですね。
記者:笑 いやー、そうですよね。でも初めから100%納得してるんですか?
晶:いや、初めに反対したり色々譲歩しようとしたりしても、結局は「これをしなくてはいけない」と説得されて実現する方法を模索して実⾏することになるんですけどね。
記者:個⼈の私利私欲じゃないですよね。
晶:そうですね。本当にそうです。コールの家族が本当にお世話になった叔⺟さんがコールの絵を本当に応援していて、その叔⺟が亡くなった時に、私に今何ができるかを考えてみたんです。そう考えたときに、コールの絵をサポートして形にしていくことが一番の供養になるのではないか、私のエゴで大変そうだからやりたくないと、その芽を摘み取ってしまうのは、良くないのではないかとそう思ったのは大きかったですね。だから、自分の為とか、コールのためとかよりも、違う理由がありますね。それだけだと、「もっと知られなきゃ」とか、なんだか苦しくなってしまいそうです。

コール:作品を⾒せますね。
記者:作品も、実物はものすごく優しいですね。写真だと、とても強く⾒える。Facebookで見るのとも全く違いますね。
コール:そうなんです。繊細なものほど、画像では⾒えにくいんです。

アートは自分の⽬で⾒ないと⾒えないものばかりです。

Q:ARTを通して表現されている中で、AI時代のニーズとは何だと思いますか?
コール:AIは「人間ができること」人間しかできないことの価値について、興味深い質問を投げかけてくれると思います。 タスクをこなすという機能的なことはAIがこなしてくれますが、精神的な深いレベルで人々と繋がりを作ったり、表現したりということは、まだAIにはできません。 それは私たち人間ができるとても素晴らしいことだと思います人と繋がるというニーズは、みんなの中にあるのだと思います。こういう時代だからこそ、リアルな繋がりのある人物の絵がとても大切だと思うのです。 AIが台頭し、技術が革新されていくにつれ、ゲームでも、ソーシャルメディアでも、

リアルとバーチャルの境⽬がわからなくなれば、「私が何者なのか」わからなくなる。だからこそ人間であることの素晴らしさ、美しさを描くことがとても大事だと思うのです。


晶:今までしていた仕事がなくなる、そしてそれにアイデンティティが付随していた場合、その喪失によって、自分がわからなくなってしまいますよね。リアルとシュミレーションの狭間がわからなくなってくればくるほどに、何がリアルなのかわからなくなる、仕事だけじゃなくて、アイデンティティにも関わってくることですよね。

Q:最後にこれからどんな美しい時代をつくりたいですか?

コール:難しい質問です。人々は、お互いを本当によく⾒て向き合う必要があると思います。それをするには、自分自身や他⼈と向き合い、思いやりの心を持ち、よく⾒ることです。社会にもっと思いやりの⼼があるということ、それが私の⾒たい未来です。現代では、より高い成⻑や繁栄のために、と思いやりの⼼はあまり推奨されていません。

私達一⼈一⼈が、その思いやりを持てる環境を作るという事にどれだけ貢献できるかを考え実⾏していくということは必要不可⽋です。
お互いへの思いやりだけでなく、自然や環境への配慮も含みます。全く状況が変わってくる時代だからこそ、答えを外に探していくのではなく、私たちにしかできないこと、私たちの中にあることを⾒つけていくことが大事になってくるのだと思います。ある絵を⾒てものの⾒⽅や世界観が180度変わってしまうことがあります。僕も経験してきましたし、その様な絵が世の中にもっと必要だと思います。

美しさの中にある”強さ”の話をしましたが、思いやりの心を持つ”強さ”を私たち⼀⼈一⼈が持っていることで、他⼈にも美しさや強さを⾒いだせる。自分や他人の可能性にも気づき、手助けできる。それはとても美しいことですね。
記者:本日は貴重なお話しを、ありがとうございました。

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コール・ノートンさんの活動・連絡はこちらから↓↓

アメリカ人水墨画家 コール・ノートン  公式ウェブサイト
水墨画家 コール・ノートン │ Cole Norton Website東京都青梅市在住のアメリカ人水墨画家 コールノートン Cole Norton 公式ウェブサイトcolenortonart.com

アメリカ人水墨画家 コール・ノートン Facebookページ
Cole Norton artworks 水墨画家コール・ノートン

【編集後記】
今回記者を担当させていただきました久保・登坂・菱谷です。
インタビューの際は、コールさんと共に協働制作をされている晶さんに通訳して頂きながらお話を伺いました。(写真左からコール・ノートンさん、晶さん)

インタビューの際、水墨画は線を描く時に迷っていたらそれが線に出る、決断して線を引くと話されていた事が印象的でした。その在り方が美しくお2人の協働作業によって創られる作品に込められた深いメッセージを多くの方に届け感じて頂きたいと思いました。

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