「格差のない読書機会」で地域の未来を創る 北海道ブックシェアリング 荒井宏明さん

*プロフィール*
荒井宏明 あらいひろあき
北海道北見市出身。幼稚園のころから本を読み漁り、本が読みたいがために漢字を覚える。本好きは継続し、旭川市内の書店へ就職する。その後、旭川ケーブルテレビ、札幌タイムス記者、編集者、ライブハウス経営など様々な職種を得て2008年より一般社団法人 北海道ブックシェアリングの代表理事を務める。現在も編集者としても活躍中。札幌大谷大学社会学部非勤講師。東日本大震災では北海道から書籍2万冊を提供すぐほか、図書施設の再開支援や仮設図書館の建設などを実施。

どこよりも安心、安全な図書館

記者:今の活動について教えてください。

荒井宏明さん(以下荒井):読書環境の整備支援を北海道ブックシェアリングでは行っています。

目指すのは「格差のない読書機会」。おそらく全国で一番著しい格差が北海道にあるからです。

北海道の人口の約3割を占める札幌の読書環境は全国でもトップクラスです。にも関わらず、北海道全域になると今度はワーストレベルになってしまいます。残りの2/3がどれだけひどい状況なのかは明確です。だから読書環境のボトムアップを目指し、活動しています。堅苦しくなく、楽しく、そこにいる人たちと共感しながら。

書店が一軒もない自治体(無書店自治体)が北海道に70市町村あります。そういった地域は学校の図書室も厳しい状態で、公共図書館が設置されていないことが多いんです。

記者:書店が一軒もない市町村がそんなにあるんですか?びっくりです。そんな活動をされている荒井さんの夢やビジョンを聞かせてください。

荒井:次世代の為の読書環境を整えることですね。場にきちんと本があること。そして、その施設や空間で未来の街づくりや人生観、価値観が養えること。そしてそこがどこよりも安心・安全の場所であり悪意や差別に囚われることがないことであり、自由に圧迫を感じずに話せることです。

現代の複雑さの中に、生きにくさ・息苦しさを感じる人々に

記者:ここでいう差別というと?

荒井:今の世の中に生きにくさ・息苦しさを感じる人たちがいます。現代の複雑さによって幸福になった人もいれば、それに合わない人が一定数でます。そういう人が安心して生きられる場所として図書館がベストだと思っています。

図書館ではお静かに!ではなく、おしゃべりOKに。

記者:自由に圧迫なく話せる・・・図書館は、静かに一人で行くイメージが強いのですが。

荒井:今はそれが変わってきています。ここ10年では話ができる場になっているんです。例えば北海道内の図書館も以前は静粛さを徹底している館も多かったのですがすこしずつ自由しゃべってかまわない、子供達が多少騒いでもOKになっています。逆に静かに読みたい人が場所を限定したところに移動するようになってきているんです。

記者:日々、どんな活動をされているんですか?

荒井:昨日はご家族が亡くなった方の遺本整理をして、、、本は重いしたくさんあるので遺本整理で困っている人はたくさんいます。それから今日は北海道胆振地震の被災地へ行きます。半年以上経った今でもまだ再開していない図書館もあるので、そこのお手伝いに行ってきます。夜は東日本大震災の映画の上映の準備など日々異なりますね。

記者:こういった活動をするきっかけはなんですか?

荒井:いろいろみて回った観たからです。名だたる図書館もそうでないところも観て歩きました。特に東日本大震災で被災地の読書環境の悲惨な状況や、ロンドンのアイデアストアの仕組みを実際にみていたことですね。

被災地で見た光景が人生の転機に

被災地に行ったのはたまたまでした。読書環境の被害がひどいと聞いて調査に行きました。そこで360度ガレキの山を目の当たりにして、テレビでは分からない匂いや空気を感じて・・・しばらく口が聞けないくらい大きなショックを受けました。その後、宮城県の図書館の方や教育委員会の方と話すなかで、「読書環境の被害をなんとかしなくちゃ」と思い、図書分室を作ったり色々な活動を開始しました。

そういった被災地での経験から、人生が大きく変わりましたね。

それと、ロンドンのアイデアストア(新構想図書館、ロンドン・タワーハムレッツ区)では色々な図書館機能を観ました。ストリートチルドレンを預かったり、居場所のないおばあちゃんが図書館で1日編み物をしていたり、DVから逃れてきた親子の面倒を図書館の人が見ていることがありました。また、アメリカでは多くの図書館がホームレスの社会復帰を支援しています。

本の持つ「静粛性」の効果

図書館に地元の悪グループの子も来ていました。路地でぎゃーぎゃー騒いでいるのような子たちです。

でも、図書館には必ず一人できて、守衛さんに挨拶をして、きちんとおとなしく本を読む。これは本の持つ自然発生的なルールで、本があるところでは静かにおとなしくしなければならない。「静粛性」と言われるものが発揮されています。

記者:今の活動のプランや目標はなんですか?

荒井:今は地域性ごとに異なりますね。地域の課題が何かわかり、その課題を本が解決する、あるいは解決するきっかけになるんじゃないかと思っています。本は知識のベースであり、コミュニケーションツールです。もっと可能性を引き出せると思っています。

記者:コミュニケーションツールというのは?

荒井:例えば読書会での安心できる時間や、新たな気づきや自分に対する安心感、信頼感が生まれるますよね。

記者:地域課題を解決するために大事にしていることなんでしょうか?

荒井:一つは継続性。一過性で終わらない。そして地域の方々が主体になること。

記者:市町村から相談を受けることも?

荒井:そうですね。ただ、私たちにコンタクトをとる地域は必要性や危機感を感じているので読書環境が比較的良いところです。本当に読書環境が悪いところは自分の地域が悪いこと自体に気づかない。どちらかというと道外からの移住者に相談されることが多いですね。

「本なんかこの町じゃ読む奴いないよ」

記者:なるほど、そこにいる人はそれが当たり前だから気づかない?

荒井:そう、「本なんかこの町じゃ読む奴いないよ」という感じなんです。

生まれた場所や職業、家庭環境などで、子供達の学習か機会や育みに格差があってはいけません。山に生まれても、海に生まれても、未来を作るために本に触れる機会が用意されていなければなりません。あとで不利益になることが多々あります。

時代の流れと共に常に進化し続ける図書

北海道では札幌に出ている人が地元に戻らない理由の一つに「本屋がない」「図書館がない」というのがよくあります。さらに学校図書館も公共図書館もないところでは子育てをしたくない、と。読書環境と連なってその街の将来まで決まってしまうこともあるんです。

記者:今の活動のゴールはどこにありますか?

荒井:ゴールはありません。持続すること、下げないことですね。「図書館は成長する有機体」・図書館5原則の5番目(インド図書館学の父・ランガナタン提唱)です。時代の流れと共に常に進化し続けるのが図書なんです。

”自分ではない誰か、今ではないいつか、ここではないどこか”へ

記者:荒井さんにとって本とはなんでしょうか

荒井:私の思う本のミッションは第一に「人」、第二に「コミュニケーション」、第三が「街」を作る必須インフラです。

自分ではない誰か、今ではないいつか、ここではないどこかへ一発で連れて行ってくれます。例えば日露戦争のことを語る人はいません。でも図書はそれをしてくれます。

他人や社会に共感しなくても生きていける世の中なら構わないのです。しかし、今は自分の人生を自分で選ぶ時代。ならば、それが可能になる読書環境が担保されてなければならないと思います。

学校教育は読み書きそろばんを覚え、よき家族の構成員になり、社会の構成員になり、地域の構成員になる為の教育です。私は同じようなことが本でもできると思います。学校教育と本の二つのチャンネルがあるほうが絶対に強い。学校教育からはみ出た子は社会人としてやっていけないのではなく、学校からはみ出ても本があれば幸せになれる。

記者:本とコミュニケーションについて聞かせてください。

荒井:例えば本で織田信長のことを知った人同士が出会って、お互いの共通項、世界観が重なり合うコミュニケーションが生まれる。それは本を読んでいるからその交流が生まれている、そういったことが実は多いんです。世界観がまるで重ならない人とはコミュニケーションにならないでしょう。

人間はコミュニケーションをとるとき、必ず何かになぞらえて行なっています。それは本で習得しているものが多いです。むき出しの生の感情は他人に伝わらないことが多いんです。

さらにコミュニケーションの基本は言葉なので、言葉のストックがないとコミュニケーションにならないですよね。本を読まない人はストックも少ないので、初めて会った人と共通の話題がなくて天気くらいしかお話しができないこともあります。そのままでもなんとか生きていける世の中かもしれませんが、これから先は厳しいと思います。

記者:本と街づくりについてもお伺いしていいですか?

荒井:本そのものというよりは本を媒介した場作りですね。近年、地方都市で議会が成立しないことも多々あります。街づくりがその街の人にしかできない。情報や人が集まるところ、そこで物事を決めていくことが図書館の機能になっていきますよね。

本は時代錯誤ではなく「今」

記者:これからの時代を生きる人へのメッセージをお願いします。

荒井:世の中は複雑化しています。シンプルになったらむしろ独裁や戒厳令になってしまうので方向性としては間違っていません。多様性や複雑性は多くの人を幸せにする仕組みでもあるので。しかし、その複雑さに耐えきれない人は必ずいます。その時こそ、本と本を司る人たちがあらためて大きな存在になると思います。

今、僕は本のことをやっていますが、本好きがひっそり読むこれまでの図書館とは逆行しています。よくIT時代に本はアナクロ(時代錯誤)じゃないか、と言われることありますが、実は逆なんです。

日本の社会状況をみれば、本と本を司る人に期待が集まっています。東京の武蔵野プレイスや仙台メディアテーク、札幌・図書情報館などで実際に図書の新しい時代に触れてほしいと思います。

記者:私もぜひ、行って実感、体感してみたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

【荒井さんの詳細情報についてはこちら↓↓】
北海道ブックシェアリング
https://booksharing.wixsite.com/bookshare

北海道ブックシェアリング ブログ
https://ameblo.jp/booksharing/

【編集後記】
インタビューの記者を担当した深瀬と原田と中村です。聞けば聞くほど本と人間、本と社会の構造をシャープに表現する荒井さんに釘付けになりました。
感動や気づきを短時間で私たちにシャワーのようにもたらしてくれました。本と向き合いながら本を取り巻く環境を通して、培ってきた人間力、人間関係力の片鱗を見せていただきました。本と本を取り巻く環境への可能性と、それが平等にもたらされる社会の構築に私たちも尽力したいと感じました。

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