パブリック・ソーシャル・ビジネス・アカデミックのセクターをつなぎ地域創生を実現する/ 株式会社Little Japan代表 “柚木 理雄さん”
農水省で働きながらNPO設立をするというパラレルキャリアを経て、2017年退職後の現在は、地域と世界をつなぐゲストハウス「Little Japan」をベースに活躍されている柚木 理雄さんにお話しを伺いました。
柚木 理雄さんプロフィール
出身地:兵庫県神戸市
活動地域:東京
経歴:1984年生まれ。
京都大学(学士)、京都大学大学院(修士)。
ブラジルに3年、フランスに1年住み、海外40カ国以上を訪問。
2008年農林水産省に入省。国際交渉、経理、金融、農地、官民ファンド、バイオマス等に携わる。一方で、東日本大震災をきっかけに草の根活動の重要性を認識。
2012年12月NPO法人芸術家の村を立上げ。
2017年1月末農林水産省退職。
2017年2月地域資源を活かした海外向けビジネスの創造による地域創生を目指し株式会社Little Japanを創業。
2017年5月地域と世界をつなぐゲストハウス「Little Japan」を浅草橋にオープン。
2018年12月にホステルパスをもつことで全国のホステルに泊まり放題になる「Hostel Life」をリリース。
2019年4月より中央大学特任准教授に就任。奥多摩三村と提携し、地域の資源を活かした事業を2年間かけてつくる講義を担当。
現在の職業および活動:株式会社Little Japan代表取締役/特定非営利活動法人芸術家の村理事長/中央大学特任准教授/ Localist Tokyo共同代表/ CollaVol共同代表
座右の銘:「夢があるところに道が拓ける」
多様性を受け入れ、活力のある地域が集まっている日本をつくりたい
Q:柚木さんが思い描くこれからの夢・ビジョンを教えてください。
柚木 理雄さん(以下柚木 敬称略):ビジョンは「多様で活力ある地域が集まる日本」です。2017年1月まで農林水産省で働いていました。国で仕事をしていると色々な戦略を書いたり計画を作ったりするんですが、国全体の戦略や計画は、最初に実現したいと思っていたことが実現できる訳じゃないんです。「誰かにとっていいもの」としてスタートしたものが異なる意見を調整していくうちに、「誰にとってもそんなに悪くないもの」が出来上がっていく、ということを強く感じていました。
みんなが我慢しながら常識的な町を沢山作る、ということにとても疑問を感じていて、それよりも特定の誰かにとっていい町を作っていった方がいいのではないか。
多様性を認め合い、一つ常識をつくるのではなくそれぞれがいきいきと生きている地域がそれぞれある、そんな多様で活力のある地域が集まっている日本を実現していきたいと思っています。
自らがプレイヤーの一人になり、新たな人材を育てる
Q:夢を実現するために、どのような目標や計画を立てていますか?
柚木:日本は中央に人が集まり過ぎているように思います。国のような中央の組織が何かを決めて標準化したものを沢山のところに提供していく、というスタイルではなくて、多様な価値観をそれぞれ実現する人がもっと増える必要があるのではないかと思っています。
国で色々な計画ができても、なかなか実現されないように思っています。その理由として現場を知らない国が想定している人材は、世の中に存在しないような理想的な人材を想定して作られていると思ったんですね。ものすごく優秀な人たちが沢山いて、その人たちが安い給料で、しかも全力で頑張っている状態を想定してつくられているような・・・。
そんな中で、具体的にこの計画を実現できるのは一体誰なんだろうと考えていくと、そんな人は世の中に存在しないのではないかと思ってしまいました。一方で、計画を作る人というのは、余る程居ると思ったんですね。そこにそんなに人が居る必要はなくて、もっと現場で作る人やそれぞれの場所でそれぞれのルールを作る人が増えて行った方がいいのではないかなと。
道州制も、国の人がもう少し減ってそれぞれの地域に行政が分かれる、そういう意味でいいと思っています。もっといくと地理的な行政単位で分かれずに分野によって行政区分が違う、プロジェクトベースのようなやり方も良いですね。もっといくと小さな企業が特定の誰かに届けるための小さなサービスを作っていくということがもっとあったらいいのになと思う様になって。そこが多分一番大変なところだと思いましたし、個人がリスクを背負ってやらないといけないところでもあって、それをどこかの誰かにやってもらおうということではなく、自分自身でプレイヤーの一人になって小さな場所でもやってみたいと思ったんです。
これまで空き家を活用したシェアハウス・コワーキングスペース・セレクトショップ・レンタルスペース、カフェ/バーそしてゲストハウス。空き家を活用して場やコミュニティをつくるという意味では、一通り全てやってきたかなと思っています。
今現在は、拠点を多数、横展開するという事はあまり考えていません。自分でたくさん横展開するよりは、例えば大学の教員の立場で、事例をつくるプレイヤーを増やすこと、自分の事例自体も伝えつつ、全国の事例のこともしっかり伝えながら、プレイヤーを増やしていく事に注力することで、より広げていくことが出来るのではないかと考えています。
世界と地域をつなぎ、旅行者と地元の人をつなぐ入口になりたい
Q:柚木さんは今、どのような活動指針をもって、どのような活動をされているのでしょうか?
柚木:そうですね。いくつかあるんですけれども。ゲストハウスLittle Japanの社会的な意味としては、「空き家」を活用した場づくりコミュニティづくりという意味があると思ってやっています。
さらに、“Meet Locals”=地域と世界をつなぐ、というコンセプト。
この地域というのは複数の意味があります。
一つが日本の全国各地という意味での地域。
様々な地域や行政、地域おこし協力隊からご依頼をいただいて、全国の各地域のことをPRするイベントや地域の課題を解決するワークショップなどを開催しています。
そして、地元、浅草橋の人と旅行者をつなぐ。
地域に入りたい人にとって、入り口がどこにもないことに対して、この状態を変えていけたらと思っています。
さらには、地域の人への地域への入り口。浅草橋に新しく住み始める海外の方や日本の方とこの地域に元々居る方との接点になる、入口になりたいと思っています。
次にゲストにとっての価値提供という意味でのコンセプト。
Meet Localsという意味では、自分自身がすごく楽しかったのが、英語も通じたにところでも、現地の人とコミュニケーションをして、現地のことを体験できるのがすごく楽しかったということがあります。
そして、もう一つのコンセプト”Come as a guest,Go as a friend(帰るときには、友だちで)”。
初めて宿を訪れたときにはゲストだけど、帰る時には友達になろう。少なくとも全く知らない相手にただ宿泊サービスを提供しているような関係にはならないようにしています。
そしてまた帰って来てくれる方には第二の家のようにくつろいでもらいたいという”宿と家の間”というコンセプトがあります。
ここに共通するのは、宿で迎える側も、宿に来る側も両方が安心して泊まることができる場所にして行きたいと思っています。
東日本大震災をきっかけに、必要なサービスを届けたい
Q:柚木さんが「多様で活力のある地域が集まる日本をつくりたい」という夢を持ったきっかけは何ですか?
柚木:活動を始めたきっかけとして、東日本大震災がありました。国のような組織ではできないような100人~1000人といった、対象になる人は少ないけれど必要としている人に対してのサービスをしているNPO、NGOの活動を知りました。国の様な最低限のことをやる人がより少なくなって、NPOの活動が増えて行くのではないかと感じました。
神戸の出身で、阪神淡路大震災の時は小学校5年生でした。その時の経験もあり、被災する大変さを思う中で、現地との距離をすごく感じてしまって・・・。現地からの報告や国という単位になってしまうことでできることの限界に対するフラストレーションが溜まり、現地に行きたいと言っても却下されたりして、そんなフラストレーションの中でNPOを立ち上げた背景がありました。
日本の嫌いなところがあるのなら、自分が好きと思える様な日本に変えていく
Q:農水省への就職を選ばれたのは?
柚木:小学1年生から3年生までブラジルで過ごして、4年生の時に日本の小学校に初めて行ったんですが、そこですごく衝撃を受けました。日本の同調圧力、みんなが同じことをやらなければいけない常識やルールがあって、それをみんなが守っているという状態。例えば、体育の授業の跳び箱で言うと、日本では小学校の何年生は何段までしか跳び箱を跳んではいけません、”なぜならば危ないからです”となってしまう。ブラジルでは1年生の時に一番高い8段まで跳ばせてもらえました。自分がのびのびとやらせてもらえたことがすごく楽しかった。でも日本に帰ってくると、そういうチャンスすら与えられない。常識やルールは、いい部分もあるとは思うんですけれども、私はとても息苦しく生きづらく感じていました。
小4の時から日本という国が嫌いになって、ずっと海外に行きたかったんですね。大学ではバックパッカーでいろんな国を旅して、そのまま海外で就職するつもりでした。ただ、その時は日本のことが嫌だから海外に行きたいと思っていただけで、行きたい国があった訳でもなかったんですね。日本人であるというアイデンティティも否定したかったんです。
でも、何か違うと思うようになりました。自分はどこまでいっても日本人で、その日本のことが嫌いなところがあるのだったら、もっと自分が好きと思えるような日本に変えて行く様な仕事ができたらいいんじゃないか、と思うようになり農林水産省に入省しました。
そして実際に国で働いてみて、国のような大きな組織が全体最適化(=全体に対して同じことをやる)をやってしまうと、自分と同じように息苦しく感じる人を作ってしまうのではないかと思ったことが、今の活動につながっています。
4つのセクターをつなぎ地域創生の実現へ
記者:今までのお話を聞いていて、柚木さんがマクロとミクロの両方の視点を持っていらっしゃるのかなと思いました。
柚木:それはすごく意識をしています。マクロとミクロの視点という意味でもそうですし、パブリックセクター(公務員)、ソーシャルセクター(NPO)、ビジネスセクター(特に地域)、新しくアカデミック(大学)というセクターでなんとか委員会の先生や顧問みたいな人ではなくて、実務をしてきました。そこに対してはすごくいい経験というか、実務をしているからこそ分かったことは確実にあると思っています。
4つのセクターが境界を無くして行ったり来たりできるようになればもっと変わっていくと思っています。
記者:本日は、貴重なお話をありがとうございました。
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柚木 理雄さんの情報はこちらから
<個人>
Meet Locals
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<株式会社Little Japan>
公式サイト
http://littlejapan.org/
地域と世界をつなぐゲストハウス「Little Japan」
http://www.littlejapan.jp/
ホステルパスで全国のホステルに住み・泊まり放題「Hostel Life」
https://hostellife.jp/
全国のゲストハウスの集まり”ゲストハウスサミット”
https://www.guesthouse-summit.com/
<NPO法人芸術家の村>
公式サイト
http://social-artist-village.org/
ソーシャルビジネスを創るシェアハウス・コワーキング・レンタルスペース
「Social Business Lab」
http://social-business-lab.org/
エシカルブランドセレクトショップ「エシカルペイフォワード」
https://ethical-payfoward.jp/
ソーシャルボランティアプラットフォーム「CollaVol」
http://collavol.com/
【編集後記】
記者を担当しました久保真弓、平野善子、園田誠一郎です。
柚木さんの様々なキャリアを通して見えてくる、ミクロとマクロの視点を持たれていることが印象的でした。そして、ご自身では積極的に人と話すより、人の話しを聞くタイプだと話されていましたが、静かな中に熱い情熱と行動力を持ち、綿密な戦略や計画を立てて実現されていく方だと感じました。
これからの更なる柚木さんの活躍を期待しています。
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