持続可能な循環型社会の実現を目指し、日々精力的に活動されている 森 良さん
持続可能な社会への転換を図るためには、対等で平等な関係性を基盤にする必要があるとの認識を持ち、実践活動を精力的に行っている森 良さんにお話をお伺いしました。
森 良さんプロフィール
出身地:東京都
経歴:1949 年生まれ。1983 年より、子どもたちの自然教室などの環境教育の 実践に携わり、在日本韓国 YMCA アジア青少年センター職員等を経て、1993 年環境教育の普及と市民参加の促進のための情報センターとしてエコ・コミュ ニケーションセンター(ECOM)を設立。
現在の職業および活動:NPO法人エコ・コミュニケーションセンター代表。学習院大学非常勤講師(環境教育/総合学習)、大東文化大学非常勤講師(NGO と NPO)に就任。都市農山漁村交流(まちとむらをつなぐ)、次世代リーダーの育成に力を入れている。
主な著書:
共著『地球となかよしはじめの一歩』フレーベル館 1998年
著『コミュニティー・エンパワーメント-学びから参加へー』ECOM 2001年
編著『ファシリテーター入門』つげ書房新社 2002年
編著『ECOM 環境教育アクティビティ集』つげ書房新社 2002年
著『しぜんあそび・なかまあそび』フレーベル館 2004年
著『力を引き出すもりもりファシリテーション』まつやま書房 2007年
著『地域をつなぐもりもりコーディネイション』まつやま書房 2014年
座右の銘:「為すことによって学ぶ」(ジョン・デューイの言葉)
(現場でものをみて考える。なんでそうなるのか?➡学ぶ➡現場で実験する。これによって、効率よく身についていく。)
ティール組織(*)を促す人財を育てる
Qどのような夢やビジョンをお持ちですか?
森 良さん(以下、敬称略。):関わり、繋がりが多い方が豊かな社会になりますよね。関わり、繋がりがある中で自分の役割を全うする。また、「出番と居場所」があることが大切ですが、全ての人にこの二つがある状態を作るにはどうしたら良いでしょうか?その状態を作るには、みんなが活かされ、一人ひとりの組織メンバーの自主性を尊重するティール組織が日本に浸透していけばよいと思っています。短期的な見掛けの効率重視の組織や、構成員をダメにするピラミッド型の組織構造を卒業し、組織構造の変革を経て、ネットワークのような形に移行する必要があります。その為には、以前はあまり価値が認められなかったコーディネーターやファシリテーターといわれるポジションで働く方々の価値を向上させていくことが重要となります。あらゆる組織集団、地域コミュニティーが、ティール組織となっていくことを促していく人財を多く育てていく必要があるのです。
(*)ティール組織:未来の組織・集団の在り方を論じたベストセラー書より。ティール組織には以下の3つの条件が必要とされる。①進化する目的②セルフマネジメント③全体性
対等、平等な関係を構築する
Q夢やビジョンを具現化するためにどんな計画や活動をされているのですか?
森:食糧、エネルギーは生きていく上で必要不可欠です。今の社会は東京に一極集中していて、都市部と農村部の格差が激しいです。その突破口は「田園回帰」だと思っています。
3.11の東北大震災の記憶が新しいですが、特に災害時に機能するようなロシアの”ダーチャ”のような仕組み作りが必要です。ダーチャとは、都市の人が、近郊に自給自足用の畑を持って週末に通うといった仕組みです。日本においても都市部に定住している人たちが、農業にも携われる仕組み作りが必要です。その手始めとして、都市部と農村部の人がお互いに交流する拠点をつくるべく、”小さなアンテナショップをネットワーク化していく仕組み作り”を続けています。それは2年前から具体的な形になり、目指す方向性に賛同してくれる人も増えてきています。例えば最近同じような理念を持って活動する”立石まるしぇ”という取り組みをされている方に出逢いました。他地域でも取り組みを展開して欲しいという依頼があるなど、さらにネットワーク化が広がってきています。人は理屈ではなかなか動かないので、形にしてやって見せる。その積み上げが「小さなアンテナショップのネットワーク化」の取り組みです。
直近の取り組み事例をお話しをすると、赤羽南口にある「めぐりや」さんにて「援農体験お試しツアー」を行いました。ここには月2回産直野菜を運んでいるのですが、野菜をお店に卸せば帰りの車は空になります。その空いたスペースに人を乗せて、そのまま畑で援農体験ツアーになるという流れをつくります。そして1年間人参の面倒をみてくれる賛同者を募集していく計画です。
これらの活動を通じて気づいたことは、”対等、平等な関係構築”の大切さです。例えば、「単なる”お客さん”にしてはいけない」、「一緒に巻き込む」、「共に汗をかく」、「上下を作らない」といったことです。
農業は一次産業であり、命を守る産業といえます。命を守る産業だからこそ、市場原理だけではたちゆきません。また地域にとって、農業と共に伝統産業、地場産業の維持は急務の課題ですが、現在深刻な担い手不足に陥っています。今までの仕組みでは限界が来ています。
感動体験から活動を開始する
Qどんなきっかけで環境教育の世界に入られたのですか?
森:32歳の時だったと思いますが、知床自然教室のボランティアに参加したことがきっかけでした。夏休みに10日間程休みを取り、ナショナルトラスト運動をやっていた昔の開拓跡地でキャンプをして、自分達が掘った穴のトイレを作ったり、小川から汲んできた水でご飯を炊いたりしたんですよね。専門家、社会人、学生ボランティア、運動を支援する親の子どもたちが総勢100名くらい集まって集団で共同生活をするわけですよ。その体験がめちゃくちゃ面白くて、「このような体験を生み出すこと、それ自体を仕事にしたい!」って思いました。倫理的な考えからの出発ではなく、体験的なことからの出発でしたね。
記者:それが出発点だったのですね。
森:ご縁があって日中共同環境教育シンポジウムの実行委員になり、日中相互でイベントを開催していました。「それだけでは現状は変わらないのでは?」と疑問を持つようになり、中国の学校や都市を周りワークショップ型の環境教育研修会を開催するようになりました。かなりの回数を実施したところ中国の先生方との繋がりが出来て、その後韓国も加わって2000年から日中韓環境教育ワークショップを開催するようになりました。今年で18年目を迎えています。
環境教育から始まり、その後発展して持続可能な地域づくりを目指すようになりました。
貧困と格差が環境破壊をもたらしている
Q活動をされる背景はどんなことだったのですか?
森:環境破壊の大きな原因として、貧困と格差が根深いです。例えば、貧しい人達は生活がかかっているため、やみくもに木を伐採して燃料として燃やします。豊かな人達は資源を浪費する。使い捨て文明によってゴミを沢山出し、環境破壊を加速させる。皮肉にも、最も貧しい人と最も豊かな人が環境を壊している現状があります。だから環境破壊を止めるためには、社会的公正、平等化の実現が必要不可欠となります。
近代150年の歴史認識から日本とアジアの共存共栄を
Qどんな心の在り方、軸を持って活動されているのですか?
森:私は地域とアジアの2つを軸を持ち活動してきました。
まず、いつも抱いている素朴な疑問があります。それは、”足元(=すぐ近くにあるもの)に豊かな資源があるのに、何故それを使っていないんだろう? それを活用できれば、皆が幸せになれるのに。”という疑問です。
次に素朴な疑問と2つの軸の関係性です。昔は食糧やエネルギーを地域で回して循環させていたが、今はグローバリゼーション化が進んでいます。グローバリゼーション化の良い面を活用できれば、世界中の情報を活用できて、かつ人類の遺産を一挙に享受できます。情報・文化・交流はグローバルに展開していき、資源はできるだけ小さな輪で回していくべきです。
記者:「アジア」がテーマというのはどういうことなんですか?
森:日本は近代化に失敗したのではないか?、また、日本の近代化はアジアの犠牲の上に成り立っているのではないか?という問題意識を持ったことからでした。それは明治維新からの朝鮮半島、台湾の植民地化に対して疑問を抱く機会があったからです。それは大学時代に在日朝鮮人問題に対する研究に携わったことでした。その研究の一環として、「彼らがどのようにして日本に住むようになったのか?」などの歴史的背景を知っていく上で、彼らは「韓国朝鮮系日本市民である」という考えに辿り着きました。「この位置付けの上にしか彼らのアイデンティティか確立されない」という強いショックを受けました。
彼らは日本で生まれ育ち働いて納税もしているのに、選挙権がないという事実も知りました。宙ぶらりんな人達の権利の確立をきちんとやらない限りは、日本の戦前の植民地支配の反省や清算は完結しないと思います。
また、父の影響もあります。父は高校在学中にアジア主義の先生と出逢い「青年よ、大陸を目指せ!」と煽られて単身中国に渡りました。青春時代を中国で過ごした父は、中国語が流暢で、私が幼少期には中国での話をたくさん聞かされました。父からの交流により、日本側からの見方からは見えてこない歴史への認識を持つことができました。
このように平等、対等、循環をテーマにして、皆が豊かになる社会をイメージしながら日々活動しています。
行動しないと始まらない
記者:これからの人たちにメッセージをお願いします。
森:出会いを感じたら行動することです。行動なくては始まらない。行動したら変化が起こる。その変化への気づきから何百倍も学ぶことができます。そのために、未知の世界へと行動する勇気も大事ですよ。
記者:持続する循環型地域社会を目指して精力的に活動する森さんが、地域とアジアに力点を置かれる背景には、強い想いが原点にあったんだということがよくわかりました。貴重なお話しを有難うございました。
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森 良さんに関する情報はこちらです
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【森良さんFace Book】
https://www.facebook.com/ryo.mori.589
【エココミュニケーションセンターFace Book】
https://www.facebook.com/npo.ecom/
【編集後記】
取材を担当させていただいた大場です。森さんが地域とアジアに力点を置かれて持続する社会を目指している理由は、平等で対等な関係性をお互いに持ちたいという人類愛にあり、談大の資本主義の矛盾である格差社会への問題意識にも繋がっていることがわかります。理想とする未来社会を希(こいねが)う意志と行動力が素晴らしいと思いました。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!