恋人は音楽の神様。「鍵盤の魔術師」“立花洋一”さん

エネルギーを紐解き、曲を創るジャズピアニスト。天才アーティストはどのようにして生まれたのか?そこにある苦悩とは?他では聞けない誕生秘話を伺ってきました。

●プロフィール●
3歳よりピアノを始め、学生時代以後は九州交響楽団指揮者・安永武一郎氏にクラシックピアノを師事。1983年~プロのピアニストとしてジャズに転向。
これまでの音楽活動の幅は多岐に渡り、オリジナル楽曲作品は1700曲以上。「鍵盤の魔術師」と呼ばれる。

「永遠に待ち続けているのは、僕の才能を具現化できるパートナー」

記者 ジャズピアニストとしてご活躍ですが、音楽を通して成し遂げたい夢やビジョンはありますか?

立花洋一さん(以下、立花)長年やってくる中で、最近うまれたビジョンは「やりたいことしかやりたくない」ということ。元々せっかちな性分で、すぐに答えが出るものが好きなんです(笑)

でも音楽はそういうものではない。白黒がつけられず、答えがでないもの。故に報われた感、達成感につながりにくいという苦しさがつきまといます。

そんな中で永遠に待ち続けているのは、最も効率よく僕の才能を具現化できるプロデューサー。そんな理解者と出会えたら、間違いなく天才の才能を発揮できる。やるのもラク、演奏もラク、出来はいい。聴く側も最高!世界に最高の音楽を届けられるのでアッと言う間に億万長者です(笑)

もう少しイメージを伝えると、ビジネス面も含めて一緒に楽しんでくれる人ですね。気分良くしてくれて、応援してくれて、喜んでくれる人(笑)僕のコンディションが最高になるようにフォローしてくれたら、少々中身が明後日でも問題ありません!

記者 理想のパートナーを得て最高の音楽を世界に届けるための計画はありますか?

立花 実はこれがなかなか難しい。良い人が現れても、例えば競演者に子どもができたりとか、そういうことが多くて。だから今は、力を抜いて頑張らずに頑張ってます。やりたいことだけをやりたいというのは、そういうことでもあります。

記者 ではビジョンを成し遂げるために日々心がけていることや、実践していることはありますか?

立花 実は毎日「今回で辞めよう」と思っています。それでも続けてきているのはなぜかというと、大きいエネルギーの流れがあって、これが往々にしてあるんですが、辞めようとするとエネルギーの流れが入ってきて。つまり辞めようと思っていることは僕の意志ではなくて、問いかけなんです。

記者 どこから問いかけられるのですか?

立花 「音楽の神様」からです。きっと死ぬまでずっと問いかけられて試される。音楽の神様を意識し始めたのは22~23歳の頃。業界の仕事に関して「天才だ!」と悟り、そこから感じるようになり、感じないとやってられないことも多かった。

とにかく、勘弁してよ!というくらい仕事がくるのです。「どこまでやらせるんだ!もう死んでしまうぞ!いいのか!」と対話しながら、半分脅しながら、逆らいながらやっている(笑)僕にとっての恋人関係ですね。

いっそ結婚してしまえば…と思うかもしれませんが、そうしたら、もっと大きなエネルギーがくるから体がもたずに死ぬでしょう。待ち続けている現実的なパートナーが現れたら結婚してもいいけれど、今の状態で結婚はアウトです。

記者 創作活動はどのようにされているのですか?

立花 依頼で創ることもありますが、「間違いなくこれしかない!」というのが浮んで、一気に書き上げたものは絶賛されます。それでなくても誉められると宇宙まで跳んでいくのに、加えて白黒ハッキリ答えが出るので、最高の境地です。聴いている人も最高以外の何物でもないのではないかと。

ただ、自分が創った作品はよく覚えてなくて(笑)1回創ってしまったものはあまり意味がない。だから時間が経つと自分の作品が嫌になって「頼むから聴かせないで」ということも。いつも新しい気持ちで創っているのです。

記者 常にリセットされているのですね。過去に執着せず、未来予測するでもなく、「今」リセット。多くは過去にしがみつき、それを使って未来をうまくやろうとしますから、真逆ですね。

立花 残念ながらそういう人しかいないです。そういう人達と知り合いたくないので、ほとんどのミュージシャンと知り合いたくないんです。

記者 そうなると、ますますパートナー探しは難航しますね。理解者を得るには、同次元の人を創るか探すか。このままでは本当の良さを届けられず勿体ないですね。

立花 そう。僕がこんなだから、理解し管理してくれる人がほしいのですよ。

記者 ところで、創るときはダイレクトに曲が聴こえるのですか?

立花 そうではなく「エネルギー」がきます。エネルギーを紐解いたらサウンドだったり。それで何の楽器を使おうか、バイオリンだったらここでこういうエネルギーだとか、ビオラならこれ、ボーカルならこれ、というように浮かびます。音楽はとても抽象的なものでもあるから、コンセプトや条件をはっきり示されるほど創りやすい。エネルギーが具体的になりますから。

記者 むしろ条件が縛りになって創りにくいのではと思いましたが、逆ですね。けど条件を提示する側は難しいのでは?

立花 だから話し合いが重要です。例えば今のオーダーは「暗いアルバム」なのですが、イメージを一致させていく作業が必要です。僕自身は言葉のもつ意味に物凄く影響を受けます。

記者 そう思いました。例えば「暗い」という言葉がエネルギーにつながっているならば、言葉のイメージが鮮明じゃないとカタチにならないのでは?と。そこをキャッチするのですか?

立花 仰る通りです。なので依頼者の言葉のイメージを紐解く作業と、自分の言葉のイメージやエネルギーを、コミュニケーションを通して双方向で紐解きながら一致させていきます。自分の勝手な解釈ではズレますから。実は意外と気が小さいので、好きにやってくれと言われるほうが不安で。やったけど大丈夫かなあと。

記者 確かにオーダーと合っているのかどうかの明確性がないですからね。

立花 そうなんです。だからコミュニケーション。話がうまく通じる間柄は重要です。

記者 ところで白黒はっきりが好きなのに、それとは正反対の音楽の道を選ばれたのはなぜなのでしょう?

立花 小学校2,3年の頃に気づいたんです。自分は「天才だ」と。人には分からないことが、自分には分かる。例えば曲を聴くと、まだ演奏されたことがないイントロが聴こえたり、自分でどんどん創れたり。ベートーベンがやらなかったけど、1回は考えたんじゃないかと思うものが浮かんだり。誰の曲かわからなくても、エネルギーを感じて「こうしたかったんじゃないか」などがわかるのです。

記者 凄いですね!そこにはどんな背景があると思われますか?

立花 母との関係が影響しています。
母は僕を世間の目に触れさせたくなかった理由があり「コミュニケーションが全く取れなくなるような教育」をしました。そういう人間に育って欲しかったと後日、白状されたので事実です。

嘘だらけの母に、気が狂って人生が吐きそうでした。きついなんてもんじゃない。兄弟もなく、相談相手もいない。「まったくわからん!!」と大声で何度も叫びましたが、怒られもせず放置。怒ってくれたらまだよかったけど存在無視です。関心を持たれることはまずなかった。プレイヤーになった今でも全否定で「世の中には凄い人はたくさんいる」と。母は僕を表にでないピアノの調律師にさせたかったそうです。

ただ産んでくれたことには感謝しているし、できればこれまでのことを全部を超えて、最終的には母に感謝ができて、恩返しができる自分になりたいと思っています。

記者 悲しいかな、お母さまの抑圧があったからこそ、むしろ才能を活かす原動力になったようにもみえますね。抑えられたからこそ才能が溢れでたというか…。

あと、子どもの頃に1人の時間が長かったことも才能の開花に影響しているようにも感じました。子どもの頃、誰もが持っていたイマジネーションが、ある意味、人と関わりコミュニケーションすることで潰されていきますが、良くも悪くもそれを潰されずに大人になったようにもみえました。

立花 確かにそれはありますね。忘れるとか、無くすことへの抵抗感は強く、ずっと覚えておこうと思ってました。子ども頃の感受性は繊細。だけど大人は違う。例えば大人なら「単なるグラス」で終わるところが、子どもはもっと繊細に捉える。そういう感覚を忘れたくないと。でもほとんど覚えていませんがね。

記者 記憶としては覚えていなくても、感覚がいきているのではないですか?

立花 そうだと思いますし、そうありたいですね。

記者 子どもの頃の感覚を忘れて記憶に頼るのが一般的だけど、感覚を殺さないまま、子どもの感性のまま大きくなったようですね。ただ、一般的なお母さまだったらこうはなってないかもしれないので複雑です。

白黒はっきりさせて結果を創りたい思いもあり、お母さまとのこともあり、今回で辞めようという想いもあり、でも天才であって、音楽の神様と恋人関係でもあって、続けていくという選択をし続けている。その極と極の狭間、強烈にせめぎ合う中での創造なのですね。

立花 まさに仰ってたことが理路整然と、『それしかないだろう』という感じでわかりやすいです。

記者 計り知れない葛藤の中で生まれた創造物は、儚くもあり尊いものであると感動しました。よき理解者が現れて音楽の神様との結婚される日を心待ちにしています。本日はありがとうございました!

●立花さんの情報
・立花洋一 オフィシャルサイト
http://www.tachibanayoichi.com/
・Facebook
https://www.facebook.com/yoichi.tchibana

編集後記

インタビューを担当した古川、岡山です。対極のせめぎ合いによって生まれたエネルギー、そこから生まれた創造物が心を動かす。1つの物事が生まれる背景に、どれほど計り知れない想いがあるのかを感じる時間でした。ぜひ立花さんのライブに足を運び、感じてみてください。

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