スポーツで人、地域、文化を育てるVリーグ・ヴォレアス北海道【VOREAS,INC.】 CEO池田憲士郎さん
北海道。それも、札幌ではなく旭川で北海道唯一のプロバレーボールチームをゼロから設立し、初年度にもかかわらずリーグ優勝を成し遂げたヴォレアス北海道の仕掛人。
その裏にはただ単にチームを勝たせることだけでなく
人や地域に根付く「文化」を作りたい想いが込められていました。
その根幹は10代に果たせなかった「教育」への想い。
「極端な話、それはバレーボールじゃなくてもいい」
爽やかに語る目の裏には、強い意志を秘める”池田憲士郎さん”のお話を伺いました。
池田憲士郎さんのプロフィール
活動地域は北海道旭川市・全国。中高ともにバレーボール北海道代表選手をつとめ春の高校生バレーボール大会で銅メダルを獲得。北海道教育大学から北海学園大学へ編入。卒後東京で就職。3年後父の経営する建設会社へ転職。その後独立し、2017年株式会社VOREASを設立。座右の銘 常識をすてよ、信念をもて!
「やっていることは、ただバレーボールじゃない」
記者ー今の活動のきっかけはなんですか?
色々ありますけど、ひとつは自分の子供ができたことですね。
自分の子供ができたけど、入れたい学校はどこかな?って思ったら、
地元にはそもそもその選択肢が少なくて。
東京だったら私立や色々な特色を持つ学校がありますけど、自分の住んでいるところには学区で決められた学校に行く選択肢しかなかった。
当時、自分に何ができるか、これまでやってきたバレーボール、いや、スポーツの力なら何かできるかもしれないと考えるようになりました。
そして何より東京から地元旭川へ帰って来た時に感じた「活気のなさ」でした。
町並みや経済もそうだけど
そこに居る人達のやる気、元気、前向きな姿勢のなさに愕然として
これは何かしなければ!と燃え上がりました。
実は教員を目指して教育系の大学に進学していたんですが
2ヶ月で退学を決意して親に「退学する」って言ったんです。
教育に対して「何かが違う」「もっと大事なことがある」いう感覚を感じて
退学を決意したんですが、その頃上手く自分の思いを言語化できなくて結局他の大学に編入して、卒業しました。
親が建設会社をやっていた関係で東京で就職して、三年後に地元旭川の親の会社に入りました。その頃、旭川でも若者離れが進んでいました。地元企業の高齢化が進み、企業の未来が危ぶまれていました。
そこで全国にちらばったバレーボーラーを呼び集めて会社に若者の雇用を増やし、IUターン(都市部から地方への移住と地方から都市部へ移住した者が再び地方の生まれ故郷に戻る現象)を実現しました。
今思えば、自分がチームを立ち上げるきっかけには父親が経営者だったのもあるし、自分がやろうとすることに父が「やってみろ」と背中を押してくれることも大きかったと思います。頭ごなしに出来るはずが無い、とか言わず挑戦させてくれました。
それに輪をかけて自分自身も「やる」と、決めたらやる性格だったので、まだまだですが今の成果に繫がっています。
やっていることは、ただバレーボールだけじゃないんです。
例えば、他のプロチームはチアリーダーを専属でつけていますが、うちにはいません。
3歳〜中学生を対象に一般募集をしてVOREAS DREAMというキッズダンスチームを結成し、試合の時に踊ってもらっています。
子供達が1000人以上の観客がいる場で一生懸命練習したダンスを披露するチャンスが得られるし、それが子供達の自信や可能性を育てています。
さらにダンスを踊った子達はそのままプロの選手の試合を目の前で見る経験ができます。
逆に地元にいるすばらしいパフォーマンスができる方々に私たちを通じてもっと知ってもらう場を作れたらとも思っています。
旭川市でBMX(自転車を使ったパフォーマンス)をしている方々にパフォーマンスをしてもらったり、和太鼓、津軽三味線奏者に演奏してもらったり、旭川でみることができないダブルダッチ(2本のロープを使って跳ぶ縄跳パフォーマンス)や電子打楽器奏者を道外から呼んで披露してもらったり。
北海道(旭川)にいたらなかなか経験できないことをさせてあげたい。
挑戦することや創意性を学べる機会を作り出しています。
また、ヨーロッパでは週末に家族でサッカー観戦に出かけるのが習慣になり、文化になっています。ヴォレアス北海道もそんな文化を作って行きたいと思っています。
「アート、クリエイション、イノベーションがすべて詰まっているのがスポーツであり、バレーボール」
記者ー AI(人工知能)が活躍する時代と言われていますが、AIが活躍する時代に必要とされるニーズは何だと思いますか?
アート、クリエイション、イノベーションですね。
暗記の情報や知識はGoogleさんで検索すれば良いんじゃないかな。
アート、クリエイション、イノベーションがすべて詰まっているのがスポーツであり、バレーボールなんです。
同じことばかりして、相手チームにコースを読まれたら勝てない。だから、新しい戦術を生み出すしか無い。
新しい挑戦を常に続けています。
それから、今までの時代はあるものをどんどん分けて、分類、分断、細分化して来たけど、これからは融合の時代だと思います。
だからバレーボールとキッズダンス、BMXやダブルダッチもやるし、世界初・靴磨き職人もヴォレアスの試合に呼んで子供達が触れらる機会を作りました。
バレーボールと靴磨きは関係ないじゃないか、と言われます。
ですが職人の卓越した技術や大量消費の時代だからこそ、ひとつの物を大切に長く扱うことを通して普段得られない「何か」を得ることが出来ます。
今の子供達に「なんでもいいから絵を描いて」と言っても、何も描けないんです。それは子供達が悪いのではなく、描くためのインスピレーションを産む情報のインプットが圧倒的に少ない状況で書けるわけがないんです。
当たり前ですよね、インプットが全くなければ自分で作ることなんて出来ない。だからそのチャンスを提供するのが大事だし、それがミッションになってくるんです。
”Children of The Revolution.”
記者ー池田さんは、今後どんな美しい時代や国を作っていきたいですか?
チャレンジに寛容な国にしたいですね。
会社で掲げているメッセージが「Children of The Revolution.」です。
(直訳:革命の子)
自分達がやっていることはスポーツで文化形成をしていくこと。
それに携わるやる人も観る人も喜んでもらうのが会社のミッションだし、それに見合うものは誰もやったことが無いことであろうと、全部やる。
だから、正直なところ、自分達の新しいチャレンジに対する意見はかなり冷ややかで
「バレーチームのくせに」って言われることもよくあります。
誰もやったことの無いことにチャレンジしているのに、否定的な意見を貰うことにたいして矛盾を感じましたね。
「実際やったことないのに、なんでやめた方がいいって分かるんだ?」って。
挑戦したいことがあっても「失敗するんじゃないか?」という出来ない理由を探し始めたらきりがない。
無謀に1人で突っ走ることをしているわけじゃない。人に相談もするし、それは意見として頂いて、挑戦する時はする。
そんな姿勢で今までやってきましたし、これからも挑戦し続けたい。
記者ーありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしております。
池田憲士郎さんについて
https://voreas.co.jp/company
https://twitter.com/KenshiroIkedaヴォレアス北海道について
https://voreas.co.jp
【編集後記】
今回インタビューを担当しました深瀬と中西です。
チーム名の「ヴォレアス」はギリシャ神話の北風の神「ボレアス」にバレーボールの「V」を融合させたもの。ボレアスは気性の荒い神様をさし、チームキャラクターは蝦夷狼に自由の象徴「羽」をつけたもの。まさに池田さんご自身が時代の固定概念をぶち壊す「荒さ」と「羽」に象徴される自由や創造性を発揮した生き方を選択したからこそ今の功績があると確信しました。
最後に「ご自身のお子さんには、どうなって欲しいですか?」という質問をしたところ「今持っている個性を信じて欲しい、自分らしく生きて欲しい」と。有言実行、池田さんの本気の挑戦をしている姿にとても感動して胸が熱くなりました。