江戸囃子の「見えないリズム」間を奏でる 山口達さん

山口さんの生演奏を聴き、感動した勢いでそのまま突撃インタビュー依頼を遂行!なんと即快諾!

私たち日本人が、本来大切にするべきもの、新しい時代につなぐべきものとは一体なんでしょうか?そのコアな部分を音楽から掴もうとする山口さんのインタビューをどうぞ!

【プロフィール】山口達(やまぐち とおる) 篠笛奏者北海道札幌市生まれ、北見市育ち。幼少期より自らフルートを始め、中学生からベース演奏、サックス、ヘビメタにも音楽性を広げる。北海道大学量子エネルギー工学科を卒業後、音楽の道を選択し専門学校で作曲・編曲を学ぶ。株式会社ハドソンの着メロ部門へ就職。2008年、篠笛奏者の演奏を聴き、その音色の虜になる。以来10年間、札幌を中心に奏者として活躍中。【座右の名】 自分の目で見て体験してそれを信じる

記者:今の活動について教えてください。

山口達さん(以下敬称略):北海道で、特に札幌で開催されるお祭りの笛の演奏をしています。響乃会という祭囃子、お祭りで演奏される音楽を演奏する会に所属しています。篠笛や締太鼓がメインになります。

お祭りには必ずお神輿がありますよね。お神輿と一緒に演奏されているのが祭囃子です。

「重要な間」と「重要な呼吸」

記者:2018年篠笛コンテストで優勝されましたがいかがですか?

山口:このコンテストは動画をアップして審査してもらうんですけども、審査員が3名いて、江戸囃子を10年やってるものとしては絶対優勝しないとダメだ、優勝したいって思って即エントリーしました。

江戸囃子は間というかタイミング、呼吸って先生は言うんですけど、そこが一番難しいんですよね。例えば「ゆっくり」といってもピンからきりまでゆっくりがありますしね。

独奏ではなく合奏になると、もっと難しくて。その場その場で演奏の主導権は回っていく感じなんですが、それを明確に「今、この楽器ね」というものは決まってないんです。

とても興味深いことですが、すべて「呼吸」で決まっていくんです。

「これを極めたら、絶対にかっこいい!」

記者:どんな夢やビジョンを持っていますか?

山口:大学を卒業してから音楽の専門学校に入って、オリジナルの曲を作ってたんです。それに篠笛を絡められたらなって思っています。でも、すごく難しいことなので模索中です。僕が笛をやっているのはそれがかっこいいからで、伝統文化を盛り上げたいとか、そんな大層なものじゃないんです。

以前から大好きだったヘビーメタルと同じです。「これかっこいいな!」って。「これ極めたら絶対かっこいい!」という確信みたいなものがあって。そこは他人に任せて自分がやらないってことはできないな、と。

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以前、篠笛の大先生に質問したことがあるんです。「一体どういうのを目指してやってるんですか?」って。そしたら「江戸前であることだね、江戸囃子は江戸前であるべきだ」って。これからはそこをもっと理解したいと思っています。

これはいいな〜っていう演奏やフレーズがあるので、それが「江戸前」なんじゃないかと思っていますし、そこを演奏できるまでやり続けたいと思っています。

あと、江戸囃子も含めて色々な楽器でライブができたらいいなって思っています。

量子エネルギー工学から突然、音楽の道へ

記者:山口さんは、北海道でも一流の大学(北海道大学)を出たあと、音楽の専門学校に行かれましたよね?その時の周囲の反応やその時の思いはどんなものがあったんですか?

山口:そうですね。親もびっくりしていました。「な〜に言ってんだお前!」って感じで。大学では量子エネルギーをやっていて大学院に行くか、就職するか考えた時期に「音楽をやりたい!」って思ったんです。ずっとやっていたし、やっぱり「好き」だから。

その後、専門学校で作曲や編曲の勉強をして、バンドもやりながら音楽に関する仕事につきました。プライベートというか、その時バンドも2つやってましたね。

仕事は(株)ハドソンで着メロを作ってました。その時にめちゃくちゃたくさん音楽を聞くんです。あらゆる分野の。たまたま雅楽を聞いた時に「なんだこれは!!!」と思ったんです。

「音」に間がなくて連なっている。でも、美しい旋律を奏でる音が心に残って。KITARAのコンサートでさらに和の音楽の魅力を感じたんです。その時に声をかけてもらって、始めたのがきっかけになりましたね。

専門学校の時にジャズ研(ジャズ研究会)に行ってみたんですよ。譜面も打ち合わせも何もない、めっっちゃ超絶なソロが始まって。どうやってこれが成り立ってるんだろう?なんのルールでこんなことできるんだろう?ってすごく衝撃的でしたね。そこでジャズの即興性がめちゃくちゃ面白いなって思いました。

お神輿は同じ曲を永遠とやるんで、聞いている方も演奏している方も飽きるんですよ。実は即興で全然違うものになることもあるんです。

この人たちは何かを共通して共有しているものがある、そうじゃないと合わせられないと思ったんですよね。その根源はなんなんだろう?やってみたいっていうのがありましたね。

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本能的にたぎる音楽

記者:山口さんにとってかっこいい音楽ってなんですか?

山口;かっこいいなっていうのは、うわっ!!ってくるもの
お囃子でも本能的に「たぎる」ものがあったんですよね。うわっって!

学生時代に山登りをやってて、山スキー部だったんですけど、それも繋がるものがありますね。

ゲレンデにリフトに連れてかれて、「はい、滑っていいですよ〜」というより、何も道がないところをズボズボって行って、滑り込む。それがかっこいいな〜って。

自分がやったと言えることを選択したいんでしょうね。俺はこれを好きだからこれをやってるっていうのが好きなんでしょうね。

例えば携帯のゲームが好きですっていう人もいるけど、みんながやってることではなくなんでここでこれをやるの?っていうのをやるのが、かっこいいって思うのかも。

山に行った時に真っ白のでっかい山がずーーーーーーっと続いてて。人生観が変わりまりましたね。人間の人生がちっぽけに感じました。

日々のストレスとか、これが嫌だなとか、そういうものの正体は一体なんなんだろうなって。

そういう普段とは違う、離れた視点で見れるっていうか。

記者:今日のお着物はお手製、手作りということでびっくりしたのですが、なぜ手作りを始めたのですか?

山口:物作りが好きだったので、プラモデルを部屋にこもってやっているという子供でした。作り方の本はいくらでもありますから、やってみたらできたっていう。
浴衣を着るようになって、背が高いので、既製品だとつんつるてんなんです。縫ってみようかな、ジャストフィットするものがいいなって思って始めたんです。

記者:今の日本についてどう思いますか?

山口:今の日本はぶっちゃけカッコ悪いですね。閉塞感。何の、何が閉塞感かわからないのに、それを感じちゃって。

もっと面白いこと見つければあるじゃん!って。やっぱ僕は日本の文化で「着物」っていうのもあるんですけど、世界に類を見ないものを着物に見ました。
これって全然洋服とは発想が違うですよ。

着物は服じゃなく布なんです。実は究極のエコなんですよ。糸をほぐして布に戻してまた、再利用できる。それって多分、ほかに無いと思うんですよね。

例えばなんですが、能管(日本の横笛の一つ。お囃子や歌舞伎で使われる)って、わざと音律をぐちゃぐちゃにしてるんですよね。全くドレミファソラシドがないんですよ。管の中に、細い管を入れちゃうんですけど、中の空気の振動が変わっちゃって、普通の笛とは全く別のものなのです。

音律をあえて崩す楽器っていうのは、世界どこ見ても能管しかないんじゃないかな。歌舞伎の伴奏用の楽器でもあるんです。

篠笛が歌だとすると能管は叫びなんですよね。うわぁ!とか、めちゃくちゃな感じ。それが良かったんですね。まだ能管は本格的には習えてないので、それを次の目標にしたいですね。

着物にも、能管にも、そして江戸前にも、日本にはもともと素晴らしい感性があるんだから、他国に真似ないで独自の感性でやったらいいんじゃないかと思います。グローバルスタンダードが需要があると思うんですが、それだけじゃないんじゃない、って思いますね。

記者:なるほど、日本がかっこよさを取り戻す秘訣は実は日本にある、ということかもしれませんね!
山口さん、今日は本当にありがとうとざいました!

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【編集後記】
インタビューを担当しました深瀬と中西と内澤です。なかなか直接触れ合うことのない、篠笛奏者さんとの出会いにワクワクしつつ、柔らかく芯のある受け答えに山口さんご自身が「篠笛」そのものなんだと感じました。取材のしょっぱなから記録担当の中西記者と山口さんがヘビメタの話で大盛り上がり。「ぽっかーん」としていた記者の深瀬と内澤。取材が進むにつれ山口さん自身が西洋楽器から和楽器を演奏していることは、日本がオリンピックを期に日本を取り戻そうとしている動きにも似ているように感じました。私たちのルーツは日本であり、今も「日本人」であるからこそ、これからの未来に「和」を残すことはミッションだということを再認識させていただきました。

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