東京で油田王になるー廃食用油で車を走らせ、発電所を建設する染谷ゆみさん

都会で発生する使用済み食用油を油田に見立て、車を走らせ、さらに発電事業、電気小売事業とチャレンジを続ける社会事業家染谷ゆみさんにお話をお伺いしました。

染谷ゆみさんプロフィール
出身地:東京都墨田区
活動地域:東京都
経歴:高校卒業後にアジア放浪の旅に出て土砂崩れに遭遇。原因は自然破壊の結果だと知り環境問題をライフワークにすることを決意。帰国後、油リサイクル業を営む実家「染谷商店」に入社。世界初の使用済み食用油からのバイオ燃料「VDF」を開発。「TOKYO油田」というフレーズのもと、循環型社会に向けた事業を展開すべく、株式会社ユーズを設立。2009年「TIME」Heroes of Environmentの一人に選ばれる。
現在の職業および活動:株式会社ユーズ 代表取締役、株式会社 TOKYO油電力 代表取締役。
座右の銘:「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」、「ネバー・エバー・ギブアップ」、「常に謙虚であれ」

Qどんな夢・ビジョンをお持ちなのですか?

染谷ゆみさん(以下、敬称略):2007年に「TOKYO油田2017」という10年プロジェクトをスタートさせて、油田王になるために10年間走ってきました。その夢は今も諦めていません。
このプロジェクトは、東京で使われた家庭や事業者の天ぷら油を回収し、二酸化炭素を増やさないバイオディーゼル燃料などへの再資源化を通して、私達の生活環境の改善をしていくためのリサイクルプロジェクトです。
東京は、世界有数の油田なんです。使用済みの天ぷら油も、実は私達の大切な資源です。適切な処理をすればバイオディーゼル燃料や、家畜の飼料や畑の肥料などに生まれ変わることができます。たくさんの人々が、暮らしの中で使ったてんぷら油は、言わば東京生まれのeco資源です。一つに家庭では少量でも多く集まれば膨大な量になります。つまり東京は、間違いなく世界有数の規模をもったecoな油田なのです。

染谷:2016年に「株式会社TOKYO油電力」という発電と電気を売る会社を作ることができ、翌年に商いを始めました。私はこの事業を、大きな会社に合併されるのではなく、電力を通して地域にエネルギーとお金の還元をして自立できる面白いビジネスモデルを作っていきたいです。ゆくゆくは東京都墨田区で2万世帯規模の電力を賄えるように発電所も展開していきたいと考えています。
よく「100年後の夢はなんですか?」と聞かれるんですけど、貧困をなくすことが夢なんです。SDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)が注目されていますが、本当にそうなると思います。なぜかということエネルギーがタダになるんです。エネルギーがタダになれば、食糧などもタダになるでしょう。

記者:エネルギーがタダになるというのはどういうことですか?

染谷:自然資源である太陽とか水は、私たちは自然に対してお金を払っているわけではなく、料金はタダですよね。元のエネルギーもタダですよね。だから、もしエネルギー革命が起これば、さまざまな影響が及ぶでしょう。 例えば、イラクなどのエネルギーを取り合うような戦争はなくなりますよね。
人間は、小さな存在に見えるかもしれないけれど、人間の能力、可能性は未知数です。人間がこれまで開発したものなど、まだ数パーセントにも満たないくらいなのではないでしょうか。新しい概念が登場すれば、今まで信じていたものが覆されて、常識が変わってしまいます。可能性が開発された未来から見たら、現在は、たいへん窮屈に映るかもしれません。そう思えば、エネルギーがタダになる話も、ホラ吹きっぽく聞こえるかも知れませんが、そうではなさそうですよね。

Qどんなきっかけで、今の活動をスタートされたのですか?

染谷:環境問題へ関心を持ち、祖父から始まったてんぷら油の回収事業をしていた染谷商店に手伝いに行くことになるのですが、私は「これだ!」と思いました。環境問題をここから解決しようってワクワクしました。社員となって働き始めました。でも自分がやるのはトラックの運転です。トラックを運転しながら、色々なことを自問自答してたんです。「このままでいいのか?」、「自分はトラックを運転するためにこの仕事に就いたのか?」とかですね。でも、そこでフッと頭に思い浮かんだんですよ、「自分の仕事は東京という街から油を掘り起こしている……油田、ああ東京は油田なんだ!」と。そして、1993年に、油を精製するバイオ燃料の製造に成功しました。世界で初めて使い終わった油から燃料を作ることに成功するんです。そして1997年に会社を起こして今に至ります。

Qこの活動を始める背景はどんなことですか?

染谷:油に関係するスタートは、元々祖父がやっていた会社が東京大空襲で焼けてしまったため、友人が経営する食堂から出る天カスを絞って油集めをしたのがきっかけだと聞いています。東京の墨田区は石鹸作りが盛んだった街なので、油を集めて石鹸会社に売る商売が成立しました。しかし、その事業は、そのうちに東南アジアから安いパーム油が輸入されて価格競争されて、廃食用油が売れなくなって行きました。
私の方は4人兄弟の次女で家業に関心もなく、高卒と同時にアジア放浪の旅に出かけました。旅の途中でネパールの村に寄ったのですが、そこは断崖絶壁の山の中で、ガラッガラッと音がして、村の方々がワッと逃げていったので、自分もそれに習って逃げたのですが、後ろを振り向いて仰天しました。土砂崩れで、岩が落ちて村が押し潰されていました。村の人は、人災だと言っていました。資源のために無理に土地が抉(えぐ)られたそうです。環境問題に対する芽が生まれたと思います。
さらにノーベル平和賞を取った直後でしたが、マザーテレサに会いにいきました。マザーテレサからは、「自分のやれることをしなさい」と言われて、日本に帰りました。そして環境ビジネスを始めようとするのですが、思うようにいきませんでした。そして、最後に、元の自分の家業に戻って来て、新たな次元で事業を再生した訳です。

記者:これからの若者にメッセージをお願いします。

染谷:よく学生には、「夢を持ちなさい」と伝えるのですが、「無いものを持ちなさいといわれても無理」と言われてしまいます。ならば「目の前に来たものはなるべく受けてやってごらん。自分が嫌とか苦手とかで毛嫌いしないでやってみるといいよ。」と伝えます。私はこのことを言うとびっくりされる方が多いのですが、幼いころは、とてもおとなしい子供でした。そのため、人と話すのが苦手で営業などは絶対にできるような人間ではなかったんです。
嫌な気持ちとか苦手に感じるというのは、実はどこか自分の心の中に通じているものがあるのです。もし何もなければ、反応さえしないと思います。だから「例え嫌いだとしても、縁があったら乗ってみなさい」って言ってます。
また、時代はどんどん変わってますが、変わらないものもあります。おそらく千年前であっても、今みたいに人と人が話をして、ご飯を一緒に食べたり、一緒に何かをするというのは同じようにしていたことでしょう。変わらないものを大事にしていけばよいと思います。時代が変わっても、人間の本質は変わらないのです。
さらに、思考停止はいけません。面倒くさいかもしれないけれど、どんなことでも考えましょう。考えることは、結構面倒なことです。言われたままをやりたくなるかもしれませんが、よく考えて自分で決断していきましょう。決断すると自分が責任を取ることになるので、それが嫌だから考えないのかもしれませんが、それこそ生きることの放棄ではないでしょうか。
エネルギーも食料もタダになっていく時代になれば、人は、お金のために働くのではなく、自己実現のために働くようになるでしょう。生命を維持させるために働かなくてもいいのです。ということは、「自分が何のために生まれてきたのか?」を考える必要があります。みんなが自分のミッションを持たなきゃいけないのです。自分のやるべきこと、ミッションが分からない人には、本当に辛い人生になると思います。なぜならば、何のために生きるかわかんないんだもの。自分の仕事だと思うから天職になるのですが、何のための仕事か分からなくなったとしたら、生きるのがきついでしょう。私たちは、今からその準備をしておいた方が良いと思います。

記者:絶えない笑顔から、常に周りの人たちを思う染谷さんの愛情の深さが滲み出ていらっしゃいますね。過去を大切にし、未来に希望を示し続けていらっしゃる染谷さんの在り方に、大変感銘いたしました。
お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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染谷ゆみさんに関する情報はこちらです
↓↓↓
【TOKYO油田2017オフィシャルサイト】
https://www.tokyoyuden.jp/

【株式会社TOKYO油電力HP】
https://yuden2017.wixsite.com/denki

【株式会社ユーズHP】
https://www.tokyoyuden.jp/untitled-cr1r

【TIME誌「Heroes of the Environment2009」】(環境問題解決のヒーローに選出された)
http://content.time.com/time/specials/packages/article/0,28804,1924149_1924155_1924441,00.html

【著書】
『TOKYO油田物語』(一葉社 2009):
https://www.amazon.co.jp/dp/4871960447

【TV放映(TBS夢の扉)】
https://www.youtube.com/watch?v=bJGnt2gWp9o&app=desktop
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【日本経済新聞動画 】
東京を油田に 下町から挑むエネルギー地産地消 下町から広がるエネルギー地産地消の輪:http://www.nikkei.com/video/5252547469001/

【編集後記】
取材を担当させていただいた大場と三上です。大胆でエネルギッシュ、かつ繊細な感性から溢れるアイデアで人生を創ってこられた染谷ゆみさんの益々のご活躍をお祈りしております。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!

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