「日本中のお母さんが皆笑顔になる道づくり」集文社代表 早川裕さん

絵本の出版社「集文社」を経営するなか新人絵本オーディションやえほんみち絵本講座を運営されている早川裕さんにお話を伺いました。

 

早川裕さんプロフィール
出身地:東京都
活動地域:首都圏を中心に全国各地
経歴:絵本業界35年。1983年子どもの本の専門店に就職。売場スタッフを数年、出版営業を15年経験したのち、2003年に児童書出版社の営業をサポートする会社を設立。2005年より絵本の読み聞かせ活動を開始し実施回数は延べ200回以上になる。2014年に集文社の代表取締役に就任。2016年より「えほんみち絵本講座」開講中。
現在の職業及び活動:株式会社集文社代表取締役 株式会社東京ブックサポート代表取締役 新人絵本作家を育てる「えほんみち絵本講座」主宰
座右の銘:自分の身の回りで起こる出来事には全て意味があると思え

 

記者 本日は、よろしくお願いします。
早川裕さん(以下、早川) よろしくお願いします。

 

日本中のお母さんを笑顔にする

 

Q:どのような夢やビジョンをお持ちですか?

早川 私のゴールは実は、日本中のお母さんを笑顔にすることなんです。今の日本のお母さん方の悩みの50%以上はわが子が学校でどういう評価を得られるかどうかだと思うんですよ。今の学校で評価されることは、記憶力がいいということと情報処理能力が早いということです。ところが、情報処理能力と記憶力は1995年以降実は大事じゃなくなっちゃったんですよ。パソコンがやってくれるから。これからAI時代になっていくなかで、結局AIは集約した情報で物事を判断するんですよね。過去人間がやってきたものあるいは入力したものを基準に動くわけでそれ以外のものは絶対にできない。ということは、今までやらなかったこと思いつかなかったことを見つけてやるしか人間がやるべきことはない。

AI時代に向けて、我が子をどういう風に育てたらいいかと言うと、我が子が今夢中になっていること、それをとことん好きにやらせる、それ以外に今までの人類がやってこなかったことをやる人間は生まれないんですよ。

生涯学習教室に小学生を入れちゃえばいいと思っています。サッカー教室・パソコン教室、料理教室など。子どものことにかかわりたい大人はいるから、そういう人たちと無理なくマッチングさせたい。これが35年前からずっと考えてきた「小学生が毎日伸び伸びと暮らせる環境づくり」の結論なんです。

 

 

「まったく新しい、絵本の見方・作り方」という本を出したい

 

Q:その夢を具現化するために、どのような目標や計画を立てていますか?

早川 やっぱり自分は絵本にこだわりたいので「まったく新しい、絵本の見方・作り方」という本をどこかの出版社から出せたらと思っています。

絵本って言葉、実はとっても定義が難しいんです。なんとなく薄くて大きめで絵がふんだんにあるものを絵本だと思っていませんか?では挿絵がふんだんに入っている童話と絵本との違いは何なのでしょう?また「絵本」は子どものための本だと思われていますが、それはなぜなんでしょうか?

実は、絵本は文字をあまり読めない人のためにあると、世界中の人が勘違いしてしまっているだけのように思うんです。しかし実は、絵の情報量ってすごいんですよ。絵という情報でかなりの部分が伝えられることをもっと私たちは認識しなければいけない。絵で伝えられるとしたら本当に必要な文章はどんどん減るんです。

私の絵本製作の指導法としては、基本的なストーリーは決めたあと絵を描いてもらい、今度は絵を見ながら文章をどれだけ削れるかをやっていきます。これ以上削ったら伝わらなくなるというギリギリのところまで削ってOKというのが私の作り方。絵本は文と絵がそれぞれ支えあうのが理想なんだという考え方を世界中に広めたい。

世界最古の絵本は何だと思いますか。日本の鳥獣戯画という絵巻物なんです。そしてその後の絵巻物には絵の中に文字が入っています。これは基本的にヨーロッパにはありません。日本のアートは絵と文が一緒に入っていることにあまり違和感がない。しかも御伽草子いわゆる桃太郎一寸法師などの絵本は平安鎌倉時代からあって江戸時代まで脈々と出版文化が衰退していない。そして庶民に根付いていた文化なんです。深さと浸透度が違う。そういう日本のDNAがあって今の日本の絵本なんです。だから日本の絵本の出版は突出して盛んです。絵本の出版社が日本には60社くらいありますがこんな国は他にありません。一方で絵本とは何ぞやと言われたときに答えられないという状況のままここまできているんです。

 

「新人絵本オーディション」と「えほんみち絵本講座」

 

Q:その目標や計画に対して、現在どのような基本活動をしていますか?

早川 日本は絵本好きな人が多いですから絵本作家になりたいと夢見てる人はいっぱいいるんですよ。少なく見積もっても1万人はいるんじゃないか。でもデビューのきっかけがない人がいるんじゃないかと思って「新人絵本オーディション」を始めました。

最初の年は120タイトルくらい応募があったんですが翌年減ったんです。4年目には22タイトルしか来なかった。なんで毎年減るんだろうと私なりに分析したときに、結局絵本は作ろうと思えば簡単に作れるけど、その作品を磨き何回も書き直して認められる作品にするんだと思う人が実はきわめて少ないことがわかりました。

どういう手順を踏んで絵本を制作すれば作品がレベルアップするのか、に特化した絵本講座が必要だと思い「えほんみち絵本講座」を始めました。講座を3年前に始めて今年までには5名の新人の絵本が出版される予定です。

記者 すごいですね、早川さんは絵本界の革命児ですね!

 

 

自分が納得出来る発信の場を

 

Q:その夢を持ったきっかけは何ですか?そこにはどのような発見や出会いがありましたか?

早川 2004年から書店で絵本の読み聞かせをするなかで気が付きました。オープンな場所でやる理由は、子どもたちが面白そうだと思えば近づいてくれて面白くないと思ったら立ち去ってしまえるシチュエーションでやりたかったからです。その代わりこっちは必死なわけですよ、つまんなかったら全員いなくなるから。ですから読み聞かせする絵本は私が気に入ったものしか読まないと決めているんです。

たいてい子どもたちは僕の読み聞かせに付き合ってくれますが、それでも明らかにちょっとダレるときがあるんです。それがなぜだか最初のうちはわからなかったんですが、徐々にその理由がわかってきました。読み聞かせって基本的に絵本を開いて見せますよね。聞き手たちはもうその瞬間に絵からかなりの情報を得てしまうのです。だのにその聞き手たちに文をダラダラ読んで聞かせたらそれはダレますよね。情報過多ということです。読み聞かせの経験からそこに気が付けたことで、逆に絵本にはまだまだ伸びしろがあると感じたんです。

絵本の中には本来、その作者の揺るがない自分がいるはずです。だって作家なんだから。そこがすごく大事です。

記者 最初におっしゃった夢中になるものに出会う子どもたちの環境づくりのお話と繋がってきますね。

早川 そうです、私の中では一気通貫です。自分が納得できる発信の場があると、そこに集中するから他のことは気にならなくなる。そういう自己表現の環境づくりをしたいんです。

 

 

Q:その発見や出会いの背景には、何があったのですか?

早川 私は中学高校と私立に通っていたんですが、見事に成績が悪かったんですよね。母親も厳しかったしその期待にこたえられない自分に完全に自信喪失していました。大きな転機があったとすれば、大学のゼミで教育経済論を選択したことから、今の学校教育はなんでこうなっているんだろうという疑問を抱いたことですね。その疑問は前の会社で増幅され、自分で会社を始めたり絵本の読み聞かせを経験したことでもっと強まり、集文社という出版社を譲り受けた時には絵本の出版社にしようという思いにつながったんだと思います。

 

Q:最後に、読者の方へメッセージをお願いいたします。

早川 さっき言い忘れたんですが、もしお母さんがいつも笑顔だったらその子どもも笑顔になりますよね。家にいるお母さんと子どもが笑顔だったらお父さんも自然と笑顔になると思いませんか?そういう家庭が全国に増えれば日本中が笑顔になると思っています。

読者の方へのメッセージですが、一番大事なことは「子どもの邪魔をしない」ということですね。30年後40年後の事なんて誰も責任取れませんから。学校以外に子どもが生き生きする場があったら、子どもの問題のほとんどが解決すると思っています。私も私なりにそのような場作りをお手伝いしていきたいです。

記者 早川さん、本日はどうもありがとうございました!

 

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早川裕さんに関する情報はこちら

株式会社集文社
http://shubunsha.net/

えほんみち
http://ehonmichi.com/

【編集後記】

 

インタビューを担当した稲垣、安田、坂村です。規定の枠にとらわれず自己表現の場を提供し続ける早川さんはまさに絵本界の革命児であり新しい教育を発信されている方だと感じました。貴重なお話をどうもありがとうございました。

 

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