木こりの世界に最先端技術を導入する革命児 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授 仁多見 俊夫さん

   日本で取り残されたような第一次産業としての林業に光を当て、最先端のIT化とロボット開発により活性化させるために、業界の常識に真っ向勝負をかける革命児 仁多見俊夫さんにお話をお伺いしました。

仁多見 俊夫さんプロフィール
活動地域:全国
出身:新潟県
経歴:東京大学大学院農学系研究科林学専門課程修了。農学博士。東京大学農学部助手、演習林助教授、秩父演習林長、スウェーデン農科大学およびカナダ林業工学研究所客員研究員な どを経て現職。
現在の職業及び活動:東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。林業の情報化にいち早く取り組み「スマートフォレストリー」を提唱。2012 年には岩手県大槌町と連携し、東京大学産学コンソーシアム「日本の木」を設立。木材生産から街づくりまでをつなげる新しいビジネスモデル構築を牽引している。
座右の銘:権力は権力を志向しない
(人間の尊厳を蔑ろにしてしまうような権力には、意味・価値はない。健全な権力は、慎重に繊細に行使されるものだ。)

自然環境の豊かさに人間の自由さをみる

Qどのような夢・ビジョンをお持ちですか?

仁多見俊夫さん(以下仁多見、敬称略):私のテーマは森林関係です。現在の林業は、補助金が無くては成り立たないと思われていますが、「補助金がなくても地域のメジャーな産業になるものだ」と気づけば、容易に地元の人々は動き始めます。補助金がなくてはだめだという思い込みに気づいて解ければ、動けるようになるです。そのために、上から目線の発言ではなくて、小さい企業でも可能となるモデルを地域から徐々に展開していくことを目指しています。

記者:未来の理想のイメージはどんなものですか?
仁多見:それは、産業としての林業が成立している状態です。これは不可欠です。そして、自然環境に恵まれた精神性豊かな生活です。これが本来の日本人としての生活なんだろうなと思っています。

記者:自然環境に恵まれた精神性とはどんなものですか?
仁多見:子供ができたころに東京下町の町屋という場所に住んでいました。そこは下町といってもコンクリートばかりで公園に行かないと土もないところでした。そんな中で、近くの親父(おやじ)がプランターで植物を楽しんでたんですよ。たまにプランターの土をひっくり返しては混ぜてそれをまたプランターに戻すんです。彼の自由とは、プランターの一つか二つ分だったのです。そこに、「自分で自由にできる自然は、数えられるほどしかない」ような気がしたんです。あの親父はプランター二つ分なんだなって。これは寂しいですよね。私は、「プランター二つ分じゃいやだ」と思いました。小さくてもいいからお庭があって、木もばんばん高く伸ばして、少し足を運べば森もあって山もあって川も流れている。それを想像したんです。つまり、自然環境の豊かさに、人間の自由さをみていたのですね。だから、豊かな自然環境を創造しつつ、自然と繋がって暮すことが豊かさということでもありますね。「森林(やま)に住みましょう」と言っているのは、そのことなんです。

記者:人間にとっての自然とは何ですか?
仁多見:癒される空間ですよね。ですから、あの親父はプランター二つ分が辛うじて入手できた癒される環境だったわけです。

違いこそがクリエーションを生み出す

記者:人間と自然のあるべき関係とは何ですか?
仁多見:地場産業によって地域の中で雇用が回らないといけないし、お金も回らないといけないし、エネルギーも回らないといけない。極端に言えばエネルギー需給が地域で自立でき、地域内で完結することが可能になると思います。それができれば、地域に住む人の生活は安定するでしょう。地域といってもある程度の広がりがないといけないと思います。AというまとまりとBというまとまりが接した時に、両者の違いが見えて、その違いから問題意識が芽生えます。違いがあるからこそ問題意識が生まれるのです。違い同士が接して、融合することでクリエーションが生まれます。閉じてしまっては創造性が生まれないので、外に開いて交流することが必要になります。ですから自立と同時に広がりも必要になるわけです。

記者:つまり林業の産業化をしながら地域を活性化させるということでしょうか?
仁多見:その通りです。私のテーマは、コミュニティーと地域産業の育成にあります。

プロフェッショナリティーを使う

Q夢・ビジョンを実現するためにどんな計画をしているのですか?
仁多見:私にしかできないことをやるようにしています。それは、林業のコード化とか情報化とかこれまでに無いものを作るということです。これは、コミュニティーの生活者としてではなくプロとしてのスタンスです。私のプロフェッショナリティーを使って、さまざまな企業やグループにプロモートしていくわけです。それが私のやることです。

記者:3年後、5年後の具体的イメージはありますか?
仁多見:3年後にはきっと架線系の高性能林業機械(ワイヤーを使って木材を輸送する装置)ができていて、いわゆる”スマート林業”っていうのが具体的にいくつかの地域で動き始めているだろうと思います。新しいビジネスの形ができていると思いますね。5年後にはさまざまな地域の人々が事業を開始しており、新たに開発したシステムも動いて、林業・林産業によって、金銭的にも余裕のある生活をしている地域の人々が増えていると思います。5年先までは私自身も生きていたいです。

記者:未来の楽しみはありますか?
仁多見:システム的な感覚で仕組みを創るために、使えるものを作りながら実際の地域で試行錯誤して、よりメリットのあるものに仕上げていきます。その先に、楽して儲けることができるようになることですかね。

問題意識からスタートする

Qこの道に入るきっかけは何だったのですか?

仁多見:高校の時にバイクの免許を取得して乗っていたのですが、その時ちょうど1973年のオイルショックによりガソリンの単価が跳ね上がったのです。それにより”不連続”というものを身をもって感じました。また世界というものを意識しました。エネルギー資源問題でも日本には森林があるので、それを使える流れを作れば、持続的に使い続けていけると思いました。

記者:IOT(全てのモノをインターネットで繋ぐ)やAI(人工知能)が進化して活躍していく現代社会で、人間はなにをするべきだと思いますか?
仁多見:AIがどんどん進化していけば、もう映画の世界以上の話に必ずなるでしょう。人間が賢くなるのは難しいことです。だから、悩んでいてもしょうがないですね。難しい問題ですね。

記者:最後に若者へのメッセージをお願いします。

仁多見:何かを知ろうともせず、何かを考えようともせず、そのまま流されてしまっていては勿体(もったい)ないです。問題意識を持って、未知の世界に関心を持ちましょう。無知を恐れましょう。

記者:林業や林産業は駄目なんだという世の中の常識を覆して、地域の人たちに持続可能な森林資源の活用を促し、産業として自立させようとするチャレンジは、地域創生にとってとても大切なことだと思います。
貴重なお話をありがとうございました。

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仁多見俊夫さんに関する情報はこちらです
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【東京大学教員プロフィール】
http://libcds1.lib.a.u-tokyo.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000002profile_10000471

【編集後記】
取材を担当させていただいた大場です。記者は、仁多見俊夫さんが住まわれた東京下町出身ゆえ、プランターの中にしかない自由空間の情景が目に浮かびます。プランターの中の狭い空間を、広々とした大自由な空間に変化させていくことと、プランターの中の小さな自然から、大自然を活用する地域産業化社会へと変化させることが結びついていると思いました。日本自身が大自由になって、豊かな関係性を取り戻していくことが必要ですね。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!

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