クオンタムリープ株式会社代表 出井伸之さん 知と知をつないで知識集約型社会へのイノベーションを実現する

元ソニー社長として日本のグローバル企業の先駆者として時代を駆け抜け、その役割を終えてからも日本とアジアの飛躍的進化を目指すクオンタムリープ株式会社の代表、美しい森林づくり全国推進会議や一般社団法人全日本ピアノ指導者協会など多彩な分野に携わり、今の時代と世界を感じながら変化し続ける出井さんにお話を伺いました。

◆出井伸之(いでい のぶゆき)さんプロフィール

出身地:東京都

活動地域:東京を拠点に世界主要都市を中心に活動

経歴:1937年東京都生まれ。1960年早稲田大学卒業後、ソニー入社。主に欧州での海外事業に従事。オーディオ事業部長、コンピュータ事業部長、ホームビデオ事業部長など歴任した後、1995年社長就任。以後、10年に渡りソニー経営のトップとして、ソニー変革を主導。退任後、2006年クオンタムリープ株式会社を設立。

現在の職業:クオンタムリープ株式会社 代表取締役 ファウンダー&CEO

Q:テクノロジーの進化によるパラダイムチェンジを早くから予測し、日本の変化の必要性についても提言されていますが、出井さんが思い描く理想の未来や夢はありますか?

出井さん(以下 敬略称) 未来に、あまり理想というのはないんですよ。
今の日本は今までになかったような時代に入りつつありますよね。
僕が子供の頃に日本は戦争を始めて、戦後は辺り一面が焼け野原だったところから追いつけ追い越せで必死に働かないといけなかった。今の日本は戦後70年たってなんとなく先進国ぽくなっているけれど、周りはどんどん変化しているのに平和ボケしているというか、たるんでいる世界があるのかなと感じます。
平成の間には多くの災害があって非常に多くの人たちが亡くなりました。災害にあった人たちは今を生きることに精一杯な状況で、「働き方改革」の対象にはならないと思うのです。
阪神・淡路大震災のあった1995年頃はまだインターネットも普及していなかったけれど、今は瞬時にインターネットで各地の情報がわかる時代。それなのに、一部の都市中心で改革が行われているようなことに、僕はものすごく違和感を抱くんです。
未来を考えるよりも、今のたるんでしまっている状態をどうやって気分を変えていくのかという方が大変だなと思っていますね。

記者 そうですね。時代の変遷を見てきているからこそ余計に感じられる違和感もあるのかもしれませんね。

出井 そういう意味では、僕はいくつかのパラダイムを通過してきていると思います。それに比べても、こんなに一部の人がひどくて一部の人がのん気でいていいのかなという気がしています。
実際にOECD(経済協力開発機構)の調査でも日本のシングルマザーの子どもの貧困率は先進国の中でトップです。そういうのを見ると日本は思っているよりも悪いのではないかと。

未来の話にいくとSociety5.0の時代になり、AIやIOTが導入されて人口が減っても大丈夫とか色々といわれていますが、問題は今日本で半導体業界を牽引しているのはソニーと東芝くらいです。メモリーの世界シェアは5%しかないんですよ。
AIやIOTを支える半導体のような産業が国内でここまで減っている中で、AIを活用した将来像を語られても、本当に活用できるのかと、僕は非常に危機感を持っていますね。

記者 データを見ると日本の半導体産業はかなり急激に衰退していますね。

出井 そう。逆にいい面からみると、京都をはじめ日本各地でたくさんインバウンドの人が来るということは、日本が平和で安定している社会だからだと思います。
けれどずっと続くのかという懸念はあって、日本は働き方改革とかしているうちに会社がなくなったり、中国や韓国が作ったものをただ輸入している国になってしまうのではないかというくらいの危機感を覚えます。
日本の成長というのは戦後60年間はすごく伸びて、80年代はアメリカの社会学者が書いた『ジャパン アズ ナンバーワン』という本でも高度経済成長した日本式経営が高く評価されたり21世紀は日本の世紀といわれていた時期があったんです。それが90年代・平成になってバブル崩壊して株が暴落して環境破壊も進んでしまった。それなのに嫌なところや現状を見ないで、頭の中にはその80年代のいい記憶だけが残っている状態なのではないかなと。

だから大事なのは、おじいさんやお父さんの世界ではなくて、若い人たちが自分たちが創る世界はどんなものかを描いてみるということが一番重要なのではないかなと思うんですよ。

Q:そのような危機感を感じている中で、出井さんが常に心がけていることはありますか?

出井 僕が一番心配しているのは、今の大きな企業とベンチャーの間が切れてしまっていること。だから何とかその2つを繋ぎ合わせれば、何か面白いことができるんじゃないかなと思っています。
例えばベンチャーの悩みを聞いて僕の経験やノウハウを提供することで「自分では考えもつかなかったことだ」と驚かれたりする。ほかにも人的ネットワークがあれば、直接の繋がりだけでは解決しなくてもその先に何か知っている人を紹介してもらえるかもしれないですよね。特に今はネットの世界だから。

記者 結びつける"媒体"の役割のようなことをされているんですね。

出井 ネットワークでは"信頼性"というものがとても大事なので、そこをちょっとだけ押してあげることが、若い人たちに対しての僕ら世代の役割なのかなと思うんです。
ベンチャー支援というとお金を投資しているんでしょうと言われますが、もちろん投資もするけれど、それよりも重要なのはコネクションであって、向こうの身になって考えてあげることですよね。
単なる投資家やベンチャーキャピタルというものではなく、僕は"知と知をつないでイノベーションを起こす"ということは必ずあると思うので、それを一所懸命やっています。面倒な事もありますよ(笑)だけど繋がってそこから何かまとまったら嬉しいからやっている、それが一番大きいです。

Q:日本とアジアのイノベーション、プラットフォームづくりとしては具体的にどのような取り組みをされているのですか?

出井 例えば、いま中国上海のビジネススクールCEIBS(China Europe International Business School)に教えに行っています。何百人の前で講義をするのかと思われるけれど、そうではなく1対1で相談に乗っています。前から申込みをしている学生に対して、じっくり話を聞いて、僕ならこうするという話をします。時には人生相談にのることも(笑)。
1対1から、また繋げる人がいたらN対Nでネットワークができるんです。

アジアの人たちからすると、第一次産業革命に乗って戦艦大和やゼロ戦をつくったというのはアジアで唯一日本しかないわけだから
、その時代から日本のことを仰ぎ見るような人たちはたくさんいるんです。今としてはだんだん距離が近くなってきているけれど、過去日本が経験したのはどんなことなんだろうということを、本当に知りたがっているんですよ。
例えば、僕が日本人でグローバル企業のトップをしてアメリカ企業を買収した中で「どんなことが起こって、日本とアメリカはどう違って、何が苦労したのか」などが、中国の学生さんが一番知りたいポイントなんですよ。
PMI(Post Merger Integration:企業の合併・買収成立後の統合プロセス)といわれたりするけれど、男と女でも同じで、結婚する前に結婚したらどうなるのかを知りたがるようなもの(笑)。ファンになるといろんなことを知りたがるんだよね。

Q:クオンタムリープ設立に込めた思いや、背景は?

出井 ソニーを出てから書いた一冊目の本が『迷いと決断』。マネジメントがいかに迷うか、リーダーとしての孤独な世界があるわけですが。
社長をやっているときは、いくらグローバル企業で社員が15万人いるとしても、考えることは「会社」の成長や利益のことで、どういう風に決断するのが会社全体として一番いいのか、などすべての視点が「会社」だったんです。
会社から離れてみたら「この国はどうなってるの?」という視点に変わり目線が広くなったんです。
日本がどうなっているのか、どういう日本を創ろうとするのか、どう外から見られているのか、日本の未来はいったいどうなるのか、日本の視点、日本と世界の人の視点、が加わるわけでそこが全然違うのね。
だから、僕たちの世代が「やることがないからゴルフやってる」とかは本当にもったいないと思っていて、日本は少子高齢化社会なんだから、もっと老人の知恵を使えばいい気がするんです。どんなにできる人でも定年で切ってしまう定年制はおかしいと思う。逆に中国からみれば年齢は関係ないから海外に出て働いてる人も多い。それは、いいけれどもったいない。
日本が本気でイノベーションを考えないといけない。
そういう意味では「日本の立場に立って物を考える」というのがクオンタムリープ

僕は日本がジャンプすることが必要だなと思っているんです。

だから、ベンチャーの人と話す時には「おじいさんやお父さんがやってきたことを引き継いでやるのは継続的なイノベーションで、それも重要だけれど、あなたの時代にはあなたがやれることをやらなきゃいけない。今までと違うことをやる、それはあなたのイノベーションだよ。」と伝えています。
連続的なイノベーションと非連続的なイノベーションの2つが揃って会社の命が長引く。時代が変われば新しいイノベーションをしないといけない。今の日本は、そこを考えないといけない。

記者 いま、日本という国に関心がない、国がなくなってもいい、執着せずに海外に行ってもいいと考える人もいます。確かに国というものに縛られず個人で見ればその考え方もある中で、出井さんは個人の視点ではなく日本の視点に立ち「日本の将来にどう貢献するか」という価値観を強く持たれている、そこをもう少しお聞きしたいです。

Q:日本を何とかしたいと強く思われている背景は?世界を見てきた中で、日本の役割をどのようにお考えですか?

出井 それをいうと僕は古いなと自分でも思うけれど、日本が国を大切にと言い続けていた時があったの。「国」は何のために作られたのかというと(アジアとヨーロッパでは色々と違いもあるけれど)国というものが言語を一つにしてまとめて集団にしているということは、戦争のためなんですよ。近代国家というのは一国一言語で軍隊を持つために、集団として敵に勝つためにまとまった方がいいというところから興っている。
例えば、中国は違う民族がまとまっていったけれど『キングダム』という漫画で書いているように、一つの国が成立する中で人が育つ過程もある。日本人の視点から描いた話だから、国がテーマというよりも人の成長の話になっているけれどね。そういうのをみていくと国と個人との関係は非常に面白いんですよ。

記者 国という枠組みや守るものがあるからこそ、個人の力がより引き出されたり成長に繋がるところもありますよね。

出井 僕は、日本として絶対に守らなければいけないことがいくつかあると思っていて、一つは、日本は平和国家を70年やっているのだからこれは絶対に続けなければいけないと思う。
もう一つは、テクノロジーが色々進化しているのだから、文化や伝統を含めてもっと環境を大事にする国でないといけないと思う。
例えば京都など日本はどこに行っても、長い伝統が今も残されている。中国人が日本に来るのは、自分たちが壊してしまった文化を見に来るんですよ。中国は文化革命の時に、お寺を含めて何でも壊してしまったから、振り返るものがなくなってしまっている。そういう伝統を大事にしてきたことは日本が誇るべきものだと思っています。

明治維新で国が生まれたわけですが、廃藩置県の制度も、県の中に違う勢力や仲の悪い者同士を一緒にして、変な反乱を起こさないように頭のいい人によって工夫されていたりする。
日本が国を作ったということ、これだけきちんとできたということは、奇跡のことなんですよ。イノベーションをちゃんと次の世代に引き継いでいく。歴史的にみても江戸時代からこれだけの成長をやった国は、なかなか無いんですよ。
だから外から見ると、

日本がこれだけ近代国家になったのは奇跡だと言われているんです。僕はそれを本当に実感を持って感じるから。

だからソニーを卒業しても、学び続けている感じです。

Q:最後に読者へのメッセージをお願いします。

出井 自分の中にあるものを育てないといけないよね。学校の評価や親にいわれたとかではなく、

自分自身の才能というものを発見していく努力をするというのが人生だと思う。

それをするには、今までやっていることと反対のことをやるのがいい。年をとると一番いけないのは、後ろを振り向いて過去の話ばかりしてしまうこと。僕はそれも好きだけれど(笑)外のいろんな人と出会うことが楽しいんです。そうすると自分が意外な面を持っていることもわかるから。

記者 今までと反対のことをすることによって、逆に自分の才能に気付いたり、新しい自分に変化するという価値観になれば、異質を拒否するのではなく、出会いから生み出される可能性にワクワクしますね。
「日本という国ができていることは奇跡」という、出井さんの力強く実感のこもった言葉がとても心に響きました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

******** 出井さんの活動に対する情報はこちら ********

●クオンタムリープ株式会社
http://qxl.jp
●Forbes JAPAN 連載「The IDEI Dictionary 〜変革のレッスン〜」
https://forbesjapan.com/author/detail/828

【編集後記】
今回記者を担当した、福田、黒田、目黒です。(出井さん直筆の創業の「創」という文字の前で撮影)
・全く異なる分野の方と10年かけて仲間になったというお話もあり、人と心と志で繋がり変化を切り拓く日本精神のあり方を見たようで、宝に感じました。ビジネスという戦場で日本の経済成長を率いた大先輩のお話に背筋が伸びる思いと、今からの日本と世界を創る責任を感じました。掲載しきれなかった内容も多いので著書や変革のレッスンもぜひ読んで下さい。(福田)
・緊張を察せられたのか冒頭から場を和ませてくださり、一つ一つの質問にも丁寧にご対応いただき、最後に時間が過ぎている中でも皆に声をかけて配慮される姿に優しさと器の大きさを感じました。(黒田)
・日本がアジアの国々と手を取り合って今までにないイノベーションを起こしていくという明治維新の完成形ともいうべき日本の未来像を垣間見ることができ、出井さんはまさに明治の侍のような方だと思いました。(目黒)
日本からクオンタムリープを起こしていきましょう!

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