地域コーディネーター 伊藤将人さん
長野県池田町を中心に地域と人、情報と人、人と人のつなぎ役として幅広いフィールドで活躍されている、伊藤将人(いとう まさと)さんにお話を伺いました。
伊藤将人さんプロフィール
出身地:長野県松本市
活動地域:長野県
経歴:コミュニティ研究者。一橋大学社会学研究科所属。
KAYAKURA代表。
長野県をフィールドに地域に研究者であり、活動者として2015年から関わり続けている。
現在の職業及び活動:ファシリテーター・地域コーディネーター・コミュニティ研究者
座右の銘:「The personal is political(個人的なことは社会的で政治的なこと)」
人々が共生し、理解し合える地域や社会をつくりたい
記者:伊藤将人さん(以下 伊藤、敬称略)は、どのような夢やビジョンをお持ちですか?
伊藤:ぼくが興味関心をもち、ボランティアや仕事で行っていることをお伝えするときに、以下の四角形の話をさせてもらっています。
1つ目が観光、インバウンド(訪日外国人旅行)。
2つ目は、地方移住。
3つ目は、地域づくり、まちづくり。
そして4つ目が、社会学です。
4つ目の社会学については、ぼくの専門分野であり、普段は一橋大学社会学研究科大学院にてコミュニティ・地方移住・地方社会などの研究をしています。
この4つが自分の大きな要素になっていて、「これがぼくの関わっている領域です」とお話しさせていただいています。
ぼくが抱いている現代の問題意識は、複雑かつ多様性が増していることです。
地域やインバウンドに関しても、もともと地元にいる人と移住者、住んでいる人と観光客、年齢層も若い人とお年寄りとうように、2つ以上の括りに分かれて対立構造が生まれやすい世の中になっています。
むかしのように皆が同じ環境に育ち、なんとなく同じ価値観を抱いている訳ではなくて、
価値観もライフスタイルも異なっている中で「多様性があるよ」と言っているだけでは、なかなか世の中は良い方向に向かっていきません。
なぜなら多様性があるだけでは、それは「差異」をキッカケとした争いや摩擦につながるからです。
中東で止まない宗教の違いをキッカケとした戦争などはまさにその代表でしょう。
何らかのかたちで能動的に手を組もうとしたり、お互いを理解し合うことが必要だと思うんですよね。
そのために、ぼくはフリーペーパーやウェブメディアの運営、ファシリテーション(会議やプロジェクトなどの集団活動が円滑に進むように支援すること)を行っています。
多様性がただあるだけではなくて、もうちょっと積極的に人々が共生していける、お互い理解していけるような地域や社会をつくっていくことを今後もしていきたいです。
今まで体験したことがないところに意図的に入っていく
記者:「人々が共生し、お互いが理解し合う地域や社会をつくりたい」という夢を具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?
伊藤:株式会社ニッポン手仕事図鑑代表の大牧さんがおっしゃった、キャリアのV.S.O.Pという言葉がいいなと思っています。
【20代】V:Variety(バラエティー・多様性)
できる限り視野を広げる。
【30代】S:Specialty(スペシャリティー・専門性)
20代で経験した中から一つ自分の専門性をピックアップして磨く。
【40代】O:originality(オリジナリティー・独創性)
独自の個性を発揮する。
【50代】P:Personality(パーソナリティー・人間性)
〇〇さんだから頼みたいと言われるようになる。
ぼくらの世代(20代)は、時代の流れが早いからこそ、焦ってしまうことって結構あるんです。
留学している人がいたり、起業している人がいたり、学生のうちからメディアに多数出ている人がいたり。
現代は、人生100年時代、動ける時間が長くなっているので、そこまで焦らなくてもいいんじゃないかなと思っています。
20代のうちはできる限り、自分が今まで体験したことがないところに、
意図的に入っていくことをやった上で、自分はこれがやりたいというものを20代後半か、30代前半に行っていきたいです。
つなぎ役になりたい
記者:伊藤さんは現在どのような活動指針を持って活動していますか?
伊藤:ぼくは、長野県の池田町で生まれ、幼少期から暮らしてきました。
この地域をよりよくする活動として、「フリーペーパーいけだ いろ」
の発行を2015年から5年間しています。
これは、外に情報を発信するのではなくて、池田町や周辺市町村の人に、町の魅力を再認識・再発見してもらうというコンセプトでやっています。
また、その活動とは別に、NAGANO TRIPという訪日観光客向けのサイトの運営をしています。
今までの情報発信って、自分たちが発信したいものを発信するという傾向が特にインバウンドでは強かったんです。
自分たちの地域にある魅力的なものをたくさん並べてあるような。
NAGANO TRIPは、そのような発信者目線ではなく、情報を受けとる相手や立場、視点を踏まえて発信していこうというのもコンセプトにしています。
最後に、古典を読むことが重要だと思っています。
特に移住に関してですが、エビデンス(根拠)や学問的ベースよりも、
熱意や地域への愛着が重要視する側面がこれまでは強かったように思います。
しかし、実はいま移住絡みで現代人が困っていることは100年近く前から研究されていて、一定の答えが出ているものもあるんです。
それに関わる多くの人が知らないだけで。
だからこそ、今の人たちが欲しいけどない情報を知っていたら、もっと活動がやりやすくなる情報があると思っているんですね。
ぼくが間に立って、古いものやすでに言われているものをもってきて、
こっちで頑張っている人達につなぐ。
ぼくが運営している新しい地域・観光・社会について考えるWebメディアKAYAKURAはまさにそういうサイトです。
そうすることによって、自分たちが行っていることは正しいんだとか、
何か新しいことをやるときに関係者を説得する材料に使っていただく。
このようなことは、自分にしかできないことかなと思っています。
人間誰しもマジョリティーでありがながらマイノリティー?
記者:そもそも「人々が共生し、理解し合える地域や社会をつくりたい」というビジョンを持ったきっかけは何ですか?そこには、どのような発見があったのですか?
伊藤:小学生の頃から地域の活動に親が比較的積極的だったんです。親から「こういうの参加してきなよ」と言われて行ったのが、はじめて地域と関わるきっかけでした。
子供向けの体験会があったのですが、普通の小学生で暮らしていると接する大人って親や学校や塾の先生、親戚ぐらいなものだと思うんです。
でも、福祉の講座などに参加してみると、「おじいちゃん、おばあちゃんって面白いな、自分が普段見てる大人とは違う」という感覚になりました。
二つ目は、多様性を語る上ではずせない、マジョリティ(多数派)とマイノリティー(少数派)という区分です。
そこでいくと、ぼくは今とても人と話すのが好きなんですけど、もとは吃音が強かったんですよね。軽い自律神経の乱れみたいなのが保育園の頃からあって、喋るのが苦手だったんです。
人がいるとほぼ喋れない、どもってしまう。それが中学生まであったんです。そのときに感じていたのは、「こういうことって他の人に分からないよな」という感覚です。
例えば、学校に行けるという意味では、ぼくは日本の子どもの中でマジョリティだけど、吃音に関しては、ぼくはマイノリティで他の人がマジョリティだなと。これは運動でも、勉強でも、家族関係でも構図と立場って違うと思うんですよ。
つまり、人間誰しもマジョリティーでありがながらマイノリティーなんだということにずっと関心があったんですよね。なので、自然と社会のことを考えることに行き着いたんだと思います。
自分と相手の感覚は違う
記者:これから美しい時代を作っていくために何が必要だと思いますか?
伊藤:考え方やライフスタイルが「多様であること」をもっと注視していくこと。それは、グローバル化し流動性が増した現代において必然であると同時に、結構苦しいことでもあると思うんですよね。
フリーペーパー「いけだいろ」にもそういう側面があって、あえて地域課題を取り上げるのはなぜかというと、課題に向き合ってこなかった結果がいまの地域であると仮定すると、それをより良くするためには課題に向き合うしかない。
それを見ないでいくと、なんとなくいい感じできているけれど、どこかでそれが破裂することがあるかもしれない。課題を見てみぬふりして先の世代に流しているだけになってしまうのです。
美しい時代をつくっていくためにあえて「美しくない」と感じるものをしっかり見ていくことが重要なのではないかと思いますね。
また、ぼくの専門に引きつけた場合には、「美しい」というのは非常に主観的でかつ限定的なものです。
一部の数字で測れる美しさを除いて大半の美しさは「自分は美しいと思っている。けれども相手がそれを美しいと思っているかどうかはわからない」ものです。
この感覚をもっと認識できたときにはじめて、生き心地というか生きやすくなると思うんですよね。「何であいつはいつもおかしなことを言うんだ!」ではなくて、「そういう人もいるよね」、「あの人はこういう考え方をしているからこれに怒るんだな」という風に。1度Whyを考えることで感情の高まりが消えるというか。
多様性があるよね、それを認め合えるよね、というこのマインドみたいなものをつくっていくことが必要と思っています。
伊藤さんについての詳細情報についてはこちら
↓↓↓
KAYAKURA-カヤクラ
https://www.facebook.com/MATTO48694062
(2020年2月11日撮影)
編集後記
今回、インタビューを担当した小山です。
伊藤さんとお話をすると、一つの質問に対しイメージが広がるたくさんの解答をいただけます。それだけでなく、質問した側にもプラスになることを教えてくれます。話していてほんとうに思いやりの厚い方だと実感しました。
最近では、信州のスキマを好きで埋める「Skima」というフリーペーパーの発行にも携わられました。
Skima信州のURLはこちら
おしゃれで、「こんな魅力的なところが、身近にあったんだ」と新しい発見があってワクワクしてきます。
今後の更なるご活躍を期待しています。