人間らしさがいちばん美しい~英語落語家・喜餅(きもち)さん~

落語を英語で伝えることで日本の伝統文化を肌で感じてもらいたい、お客さんを笑顔にしたいとおっしゃる喜餅さんにお話をお伺いしました。

喜餅さんプロフィール

出身地: 愛知県

活動地域: 全国・海外(呼ばれればどこへでも)

経歴: 

2010年8月 

仲間内で発表する出し物のために立ち寄った桂三輝師匠の英語落語ワークショップを受講。桂三輝師匠がワークショップ最後にやった5分間の「動物園」を耳コピ、仲間内で発表。

2010年10月 

東京の「キャナリー英語落語教室」に入会、鹿鳴家英楽師匠から教えを受ける。以後、2013年9月まで在籍。それまでは鹿鳴家喜餅として活動。

2013年7月 独立

「どまんなか寄席」席亭として活動を始める。同時に名前を亭号のない「喜餅(きもち)」に。以後、名古屋にて開催、また2014年8月より東京、2015年9月より大阪、2016年12月より横浜、2017年9月より群馬にて公演を開始。最近は、オリジナル英語落語の創作の楽しみも覚える。

キャッチフレーズ:社交的なひきこもり

落語から始まるコミュニケーション

記者 どんなきっかけで今のお仕事をするようになったのですか?
喜餅さん(以下、喜餅 敬称略)30歳から英語を勉強するようになりました。その過程で英語学習仲間達と出会いました。年に一回のオフ会のときに英語に関する発表をするということになって。できる範囲プラスちょっと背伸びしようかと思いまして、落語なら座布団があれば、どこでもできるし、ひとりでもできるなぁと思って。
『社交的な引きこもり』がキャッチフレーズです。よくしゃべるんですが、基本一人が好き。そんな自分が英語落語やってるのびっくりです。人に伝えることでみんなを笑顔にしたいなんて当時はなかったけど今は大きな視点でとらえられるようになりました。

記者 落語をやっていてワクワクするのはどんなときですか?
喜餅 空気を支配する。しゃべっててきゅっと目線を変えただけで笑いがとれる。そういう一挙手一投足で皆の笑いや悲しみが引き出せるのが魅力ですね。英語を学ぶのにもかなりいい。自分でスクリプトを創っていくと、アウトプットに対する必要性のアンテナが立つので、映画や本、音楽などに触れていても、よいフレーズと沢山出会う機会が増えます。
 アメリカなどでは、演説などに聖書の言葉などが引用されていたりします。聖書や有名な作品の引用は、教養の尺度の一つとして捉えられているところがあるんですよね。自分も英語落語に、色々な引用を織り交ぜています。入れてみると、わかる人はニヤリとするので、あとで親しくなれるんです。相手との距離感を詰めるのもいい。
 あと、自分が引きこもりで人との距離を取りがちなんです。距離が縮まることで相手の粗も見えちゃうし、自分の粗もみえちゃう。夫婦などが最たる例なのかもしれませんが、違う文化で育った二人が一緒に暮らすと、ぶつかることもありますよね。でも、それが苦手で。でも、落語やスピーチといった表現することを通じて、相手にグッと近づいてもらったり、僕のことをわかってもらえたら、というのがどこかにありますね。

記者 ぐっと距離が縮まるってなかなかできないですもんね。
喜餅 皆さんと楽しく会話できるし、お話する相手を決して嫌ってるといったことじゃなく、距離を自分から縮めることに遠慮とというか、怖さを感じてるのかも知れないですね。ある意味、さみしい(笑)。自分の進む道、伝えたいこと、表現する場所として英語落語、パブリックスピーキングがあってよかったです(笑)。最近は日本の中でも「話すこと・伝えること」の必要性が高まってきてます。僕も英語落語のワークショップなどを開催していて、「間」の取り方などを学んでもらってます。
 英語学習にしても、英語落語にしても、最初は何気なくはじまったものですが、あとから大きな理念がついてきました。

記者 人との距離が縮まって、心が通じ合ったところから今後どうしていきたいですか?
喜餅 お邪魔できるところは、どこへでも行きたいですね。せっかく日本の伝統芸能がベースになっているので、日本を知ってもらう入り口の一つになれれば嬉しいです。もちろん、日本語での落語に英語の字幕が出てくるものを聞いてもらうのも結構ですが、世界の共通語になっている英語で聞いてもらうのも、意味があるのではと。カナダ人の桂三輝(かつら さんしゃいん)師匠など、外国人の方もプロの噺家として活動していらっしゃいます。そういった方達とは別に、日本で生まれて日本で育った日本人のマインドを背景にもつ僕が英語で落語をやるというのは、意義深いことだと思います。喜餅の英語落語は「間」の取り方があるんですよ。売りとして。

記者 独自の文化ですね。
喜餅 ええ。ハリウッド映画でも、沈黙で演技をするシーンなどありますが、落語の、いえ、狂言や能も含めた日本の伝統芸能の「間」の取り方は、独特ですよね。そのテイストを壊さずに欧米の言語に変えるのはやりがいのある作業なんですよ。英語落語に関する本も増えてきていますが、参考にさせて頂きつつも、あくまで自分の英語で作り上げます。中には書き言葉で書かれているものもあるため、オーディエンスが理解をして笑うには少し難しいものも。やはり英語として笑ってもらえるような形にしたくて。そうなると欧米の文化も勉強をしないといけない。英語ですからね。英語力も向上させないと。落語力と英語力、この両輪を伸ばさないといけないので、負荷は倍、かかってます。

相手との衝突で気づいたこと

Q.どんな心の在り方や認識の変化が今の活躍に繋がっていますか?
喜餅  所属するトーストマスターズクラブにて副会長をさせてもらってた時の会長は、10歳年下のメンバーでした。彼は仕事ができるようになりたいから、会長職を通じて色々と学びたいと言ったので、「じゃあサポートするよ」と。彼の「仕事ができるようになりたい」という言葉は、僕の中で「仕事ができる人はこうあるべき」という物差しに変わりました。「メールはこう返信する。会長ならこうするべき。〇〇な人は、こうあるべき!」と。相手の能力を無視して、こちらのテンプレートを無理矢理当てはめようとしたんですよね。喧嘩も何度もして、最終的に向こうも僕が正しいと理解はするのですが、人間だから心から納得できないことも。
結局、会長の任期が終わった後、彼はクラブを去りました。フェイスブックの友達も外され、メルマガの解除も、解除ボタンを押せばいいところを、メールで「お金払って聞くなら英語がもっとうまい人の英語落語を聞きたいので、もう送らないでください」って。
 この一件、2年前に起きたのですが、僕が長年「変わらなくちゃ」と思っていたことが凝縮されてるなと。その時、自分が変わる最後のチャンスだなと思いました。体内の血を全部入れ替えて、人格を替えるぐらいの覚悟でやらないと、と思ってその翌年、そのクラブの会長をやったんです。トーストマスターズクラブは、その活動はすべてボランティアなので、メンバーのクラブ活動への関与は楽しいといったモチベーションが必須です。その時、「しっかりやる」という感覚よりも「楽しくやる」ということを意識したんです。そしたら自分の芸風も変わりました。2年前のこの一件より前から僕を知る人には、印象が変わった、凄く柔らかくなったと、そして、この一件より後で僕を知った人からは、とても想像できない、と言われます。
 彼には、本当に申し訳ないという気持ちと同時に、感謝の気持ちがあります。気付かせてくれたので。今なら心の底から謝ることができると思います。彼はもう会いたいとも思わないだろうけど、いつか話ができたら嬉しいと思っています。

無駄や余白=心の余裕

Q. AIが活躍する時代に必要とされるニーズは?
喜餅 人間力っていうと大袈裟ですが、人工知能にはない無駄というか、ハンドルの遊びのような、脇の甘さのような、そういったところが人間の魅力として出てくるのではないかと思っています。銀行業務や税理士の確定申告といった、物事を整然とこなしたり、完璧な処理を求められるという点では、AIのほうが得意でしょうしね。逆に時にミスをしてしまう人間がもつ、無駄であったり余白の部分であったりが、AIには難しいのではと思います。

Q今後どんな美しい時代を創っていきたいですか?
喜餅 ライフハック・時短・合理化といった無駄をなくすことも、もちろん大事だと思います。僕だって、僕の英語力が上がれば、今までかかってきた時間の半分で処理できる。これも、ある意味、〇〇ハックな訳ですから。反面、AIにはない人間の特色である無駄や余白、これらを楽しめることが、美しい時代になっていくのではと。無駄や余白を受け入れられるってことは、心に余裕があるってことですからね。毎日の生活が手一杯で、精神的に余裕がないと、きっと僕の言うことなんて届かない。皆さんの余白をつくる、そのために英語落語が役立てば嬉しいなと思います。

記者 なるほど。心の余裕が美しい時代を創るとは、さすが日本の心を伝えている喜餅さんならではの言葉だと思いました。本日はありがとうございました。

喜餅さんの詳細情報についてはこちら↓↓
HP 
https://www.kimochi2010.com/

Facebook  https://www.facebook.com/kimochi2010/

【編集後記】
 インタビューの記者を担当した樋口、中川、小松谷です。
『社交的なひきこもり』というキャッチフレーズで、皆を笑わせる喜餅さん。ご自身の心の動きを躊躇することなく表現していただきました。落語を通して人間や様々な学びを貪欲に吸収している熱意、姿勢はプロフェッショナル。
人が傷つかない笑いで世界中が埋め尽くされるようご活躍を期待しております!

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