日本人の原点に戻る笛の音色を奏でる ‟豊嶋くるみさん”

能楽・雅楽・浪速神楽を3つの柱として、笛の音色、笛を奏でる喜びをたくさんの人に味わっていただきたいと語る、豊嶋くるみさんにお話を伺いました。

プロフィール

能管・龍笛 豊嶋くるみ(Kurumi Toyoshima)

(能楽笛方森田流名誉師範・不易流行雅楽会代表)

能管を野口傳之輔師(重要無形文化財)、龍笛を桒垣忠行師(神楽方)に師事。

宮内庁式部職楽部楽長補 松井北斗師のもと、研鑽をつむ。

能楽堂・寺社仏閣・有名ホテルなどにて多数演奏。

能楽・雅楽・浪速神楽の奏楽・指導を行う。

古典のみならず、ピアノと奏でる現代曲など活動領域は多岐にわたる。

記者 どのような夢ビジョンをお持ちですか?

豊嶋くるみ さん(以下敬称略) ひとつのことを極めていらっしゃる方はたくさんいらっしゃると思うのですが、伝統芸能を様々なアプローチからお伝えすることが私の役割と思っています。

3つの笛の音色を通して、能楽、雅楽、神楽身近なもので、日本人の原点であることを思い出していただく。特別な事ではなくて、昔は身近なものだったということを伝えていきたいと思っています。

もともと平安時代の人たちは、自分が悲しい時、嬉しい時、大切な人のことを思う時に、笛を奏でていました。笛は人の暮らしと共にありました。さまざまな娯楽や趣味が溢れている現代、日本人の原点として笛の音色を広めていきたい。というのが夢でしょうか。

記者 それを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?

豊嶋 伝統芸能は敷居が高いと感じられている方や見たことがないという方にも、本当は身近なものと感じていただくことが必要と思っています。神社やお寺だけではなく、ホテルやレストラン、お茶席、ロビーコンサートなどを通して、まず音を聴いていただくことが大切だと思っています。能楽、雅楽、神楽というジャンルにこだわらず、聴くだけでなく実際に笛を吹く、舞を舞う、その行為自体を楽しんでいただくことが第一歩かなと思っています。ひとつひとつ繋がり、5年後10年後、笛が身近なものになっていくのではないかと思います。

記者 その目標や計画に対して、現在どのような活動をしていますか?

豊嶋 古典だけではなくて、耳なじみのある曲、例えば童謡、クラシック、ジブリの曲なども演奏しています。ピアノなどの洋楽器ともコラボしたり、新しくて懐かしい音をお届けしています。また、子供、学生に笛や舞の体験をしていただける神楽教室や能楽教室も取り組んでいます。

記者 夢やビジョンを持ったきっかけは何ですか?

豊嶋 小さい頃から言葉で表現することが苦手で、人前で話すのが苦手でした。ピアノを3歳から習っていたのですが、自分が音を出している感覚があまり感じられなかったんです。その時にリコーダーと出会って、息を出す=音を出す、自分自身を表現できるという気持ちになりました。

能との出会いは、ご縁をいただき、能楽堂に勤めた時。お稽古場から聞こえてくる音色に惹かれたのが能管との出会い、師匠との出会いでした。能管の先生がニコニコと、「前に座って息を出してごらん」と。「ピーッ」と鳴ったんです。能の笛って、ドレミファソラシドがないのです。あえて音階を外している、いわゆる音痴な笛なんです。吹けば吹くほど、毎回違う音が出るので深みにはまりまして。能管を学ぶうちに、ルーツとなる音楽に遡りたくなったんです。能楽が日本で生まれるはるか以前、今から1500年前から日本に伝わっていたのが雅楽。雅楽で使われているのが龍笛。それがフルートの原型でもありますし、世界の中の笛の原型といわれています。不思議なご縁をいただき、雅楽、神楽に出会い、龍笛の道にも進むことになりました。

学んでいくと、能楽・雅楽、神楽は共通していることが多いのです。今まで自分がしてきたことはひとつの線の上にあり、点と点が線に繋がった時は嬉しかったです。

いつも笛を奏でていて、思うことがあるのですが...。
笛は、心の写し鏡。吹いている人の心を映し出します。例えば、誰かが笛を吹いています。姿が見えないのに、誰が吹いているかがわかるのです。特に能管はわかりやすいです。あえて笛に細工をした部分を「のど」と言うんですよ。私たち人間と同じ「喉」という字。この「喉」があることによって、100人いたら100とおりの声があるように、100とおりの笛の音が出るんです。不思議というか、そこが面白いなって。その人の個性が思い切り出るものだなと思います。また、吹いている人の心の状態で音色も変わります。悲しい時、嬉しい時、どんな時でも笛は心に寄り添ってくれます。まさに「笛は心の写し鏡」です。

能楽の世界では、笛ももちろんそうですし、小鼓など、師匠から伝えられている楽器があります。
室町時代に作られた楽器が、今でも使われています。お道具という言い方をしますが、自分の相棒として大切にします。笛にとっての一番のメンテナンスは息を入れること。つまり、お稽古しなさいということなんですね。そうして大切に受け継いでいきます。

何百年も生きている笛の方が私よりはるかに大先輩。この笛がどんな音色を奏でたいのかというのをいつも考えながら吹いています。その笛が奏でたい音色を出すことが自分の目標であり、課題です。どんな音色を奏でていたのかな?と江戸時代にタイムスリップして聴いてみたいです。音は残ってないですもんね。ところが、今でも師匠の音色を鮮明に覚えています。当時の音は現在にはないけれど、心にはしっかりと刻まれているのです。実態は無いけれども、人の心に残るような音色をいつか、奏でられるようにこれからも笛の道を歩んで参ります。

記者 ありがとうございました。

豊嶋さんのご活躍は以下のHPからご覧になれます。

https://www.wanofue.com/ 「和の笛」で検索

豊嶋さん集合写真

【編集後記】

インタビューを担当した田沢、山口、長尾です。能楽、雅楽、神楽に限らず芸術の神髄は同じであり全てが繋がっている。300年前に作られた能管、250年前に作られた龍笛、何世代にも渡り受け継がれている大切な「お道具」が令和の時代に奏でられていることが日本の宝だなと思いました。ありがとうございました。

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