子どもたちのSOSに気づける居場所 「NPO法人 子どもの未来・にじ色プレイス」 代表 ”安田香織さん”

地域全体で子ども達や親たちの心に寄り添うことができたなら、この悲しみの連鎖が無くなるのかもしれないと考え、札幌初の「こども食堂」を開設し、多くの子どもや親たちの居場所づくりをめざしている安田香織さんにお話しを伺いました。

安田香織さんプロフィール

出身地:北海道札幌

活動地域:札幌中心

経歴:2001年、「労働と福祉を考える会」入会、路上生活者の支援活動、2009年、ホスピス病棟・生活介護事業所などでヨガのボランティアを開始。2012年、児童養護施設入所児童と交流。2015年、札幌初の子ども食堂「にじ色こども食堂」を開設。

現在の職業および活動:「こども食堂」を中心とした5事業を展開しています。月2回の夕食提供「にじ色こども食堂」、親と子どもが少人数で集まれる居場所「にじ色フリースペース」、中高生対象の学習支援と夕飯提供「にじ色学習スペース」、就学援助支援世帯への無料食品配達「にじ色フードバンク」、多様性を学ぶ場として様々なジャンルの講師を招く「にじ色学び舎」をボランティアの皆さんと共に展開中。子ども達への関心が広がるように、各地で子ども達の置かれている現状を講演会や研修会を通して講演活動も実施中。

座右の銘:「知行合一」

子ども達が大人に平等に愛される社会と居場所作り

Q.安田さんが目指す夢やVISIONを教えてください。

安田さん(以下、安田 敬称略):にじ色プレイスが目指す社会、VISIONでもありますが、「どんな環境に生まれようとも、すべての子どもたちが大人たちに平等に愛され、健やかに育っていくことができる社会」を目指しています。
私達の団体は児童養護施設の子ども達とも関わっています。そこから見えてきたことは児童養護施設の正しい理解がされていないということです。「障害を抱えた子が行く施設でしょ」とか、「家庭で手に負えない子の行くところでしょ」と聞かれることが多くあります。実際、施設には育児放棄や虐待などの理由で家庭において養育環境が整っていない状況で苦労を強いられていた子ども達が多く生活をしています。その子ども達も元は自分たちが住んでいる地域で生活をしていたのです。その地域に目を向けた時に家庭環境に恵まれない子、何不自由なく親たちから愛情を受けている子、一見幸せそうな家庭に見えていても家庭の中で孤立している子など様々な子ども達が生活をしています。自分の地域の子ども達を自分の子どものように愛情をかけられるような大人達が増えていくことが望みです。
今は食事を通した居場所づくりをしていますが、いずれは生活全般を通した場所を築きたいと思っています。

そんな想いからこども食堂の活動を知り、こども食堂の生みの親でもある東京都大田区<だんだんこども食堂>近藤博子さんの所に行って、色々とお話しを聞きました。その時、博子さんが言った「こども食堂なんてなくなった方がいい」という言葉がとても印象的でした。それは地域の子どもが一人でいたなら「ちょっと寄っていって、ご飯でも食べていきな」と声が飛び交うような、民家1軒1軒にこども食堂の暖簾が立ち上がるくらいの地域コミュニティーが出来上がればいいということだったんです。

私達が立ち上げた札幌初のこども食堂を皮切りに多くのこども食堂が増え続けていますが、今はまだこども食堂がなくなる時期ではないと思っています。この活動を通して地域により多くのそういう意識を持つ人が増え、いつかこども食堂がなくなるくらいに地域が活性化していけばいいと思っています。

子ども達が何でも言える関係性つくり

Q.どのような事を心がけて活動をされているのでしょうか?

安田:できる限り一人一人の子どもたちと向き合い、信頼関係がつくれるようにというのを心がけています。また、スタッフと共有している事として、子どもに対して絶対に上から目線にはならないような対話をするように気をつけています。
親でもなく、先生でもなく、友達でもない、ちょっと面白い関係の私達だから見ることができる子どもたちの顔があります。当時、中学だった子が高校に進学し、寮生活になったり、通学時間や部活の関係で忙しくなったりして、こども食堂に来ることができなくなってしまうことがあります。そんな子たちが学校の長期休みの時や学校から早く帰ってきた時に「ただいま」とふらっと来て、ご飯を食べていくことがあります。
冬には小学生の子が真っ赤な顔をして友達と一緒に来て、私の手を自分の冷たい頬にくっつけたり、友達と手を奪い合ったりしているのをみていると幸せな気分になります。子ども達がスタッフに自分の家庭のことを一生懸命愚痴っているのを見ると、この場所にいる大人と関係性がどんどんと深まっていってるのを感じます。3年という月日が子ども達とのこの関係を育んでくれました。

一人の少女との出会いから

Q.「生活全般通した居場所を作りたい」という夢を持ったきっかけは何ですか?

安田:私は7年前に児童養護施設で生活をする2歳と小学4年生の少女に出会いました。彼女とはある団体を通じて、文通や外食などをするようになったのですが、少しずつ親しくなっていくうちに彼女が保護されるまでにどんな辛い思いをしていたかという胸の内を話してくれました。その時に彼女が親や大人たちから受けた心の傷を知りました。会った当初は笑顔が少なかったのですが、共にする時間を重ねたり、手紙のやり取りでだんだんと心を開いてくれているように感じました。
社会的養護に切り替わり、施設での生活に入ってしまった子たちは狭い世界で守られていて、外の人間が関わり何かしたいと思っても中々、難しいのです。今、その子に対して何もできないなら自分には何が出来るのかを考えた時に、そういう子たちが18歳になって施設を退所した時のための居場所も含めて地域の子ども達のSOSに気づけるような、そして見守っていけるような場所を作ろうということでこども食堂を開きました。

偏見や差別でなく、声を聞いてほしい

Q.その夢やきっかけの背景には、何があったのですか?

安田:
私のボランティア経験は路上生活者支援から始まっています。当時、自分を含めて人間が持つ偏見とか差別心などに関心がありました。マザーテレサの本と出会い路上生活者の人の存在を知り、その人たちと関わりを持ちたいと思いました。その時の思いはその関わりの中で自分はどう感じて、どういう感覚を持つのかを知りたいという思いが強かったように思います。
ある時、夜回りと言う活動の中で一緒に動いていた学生が言いました。「生活保護にまで持っていけて、一旦路上生活から離れて、まともに住むところを確保できた人がまた路上に戻っていくのが悔しいと」と。
答えは見つからないのに、その時期の私は「なぜまた路上生活に戻ってしまうのか」を考え続けていました。社会に溶け込めない人たちは、人間との関係ができていないのではないか、人間を信用していないのではないか、そんなことを考えていた気がします。

その後、ヨガ指導士になり、ヨガをツールとして、ホスピス病棟や難病を抱えた人たち、障がい者、ハンセン病の方と関わりを持ちました。考えてみると、私の関心は常に世間からみて差別や偏見を受けるような社会的に弱いとみられてしまう人たちにあったようです。最終的には児童養護施設の子供達と関わりました。関心のある人たちと関わり、その場所に自ら身を置いて分かったことは、偏見や差別心の強い人はその人の無知からきているのだということでした。

自分がやってきたこと、点がいつの間にか繋がって線になっていたんだと感じた瞬間でした。子どもの支援に移ったのは、すべて子ども時代に偏見や差別が刷り込まれていると思ったからです。だからこそ子ども達には狭い価値観にとらわれずに、いろんな人たちと付き合って欲しいです。

記者:偏見とか差別に対して意識するきっかけが何かあったのですか?

安田:
私が小学生の頃、学校には養護学級があり、身体障がいの子や重度の知的障がいの子がいました。子どもがゆえに「あの子はどうして自分と違うのか?」と不思議そうに見ていた記憶があります。親や大人たちには「見るんじゃない」と言われ、目を背けていた気がします。あれが子どもの頃からとても不思議でした。

また別の日には街で路上生活者の横を通り過ぎる時に匂いがして「臭い」と言うと、「そんなこと言うんじゃない」と言われるのですが、なぜダメなのか、なぜそのような人たちがいるのかという説明がなく、疑問が膨らんでいきました。大体の子たちはそうやってその人自身の背景を知らずに、偏った味方や自分とは全く違う人種なのだと誤った認識を持ってしまうのではないかと思うのです。
だから自分の子どもにはちゃんと納得できるように説明したいと思っていましたし、今では私が得てきた体験から説明ができています。

記者:環境によって人は育つといいますが、そこまで人の為に動ける安田さんはどんな家庭環境で育ったのですか?

安田:小さい頃から厳しい家庭で、あまり私の声を聞いてもらえませんでした。何か言うと『子どものくせに!』とすぐにシャットアウトされてしまうんです。声を聞いてもらえなというのは本当に寂しいし、自分の存在価値を見いだせなくなってしまいます
だからこそ今、子どもたちの声を聴こうとしています。

一歩踏み出す勇気を持って欲しい

Q.最後に読者の方へのメッセージをお願いします。

安田:色々なところで講演をさせてもらっていて、「自分は何をすればいいですか?」「自分に何が出来ますか?」と言う質問があります。正直、それは人に聞いても分かりません。
私の話を聞いてくださり、子どもに何かしたいと思ってくださるならば、「自分の地域の子ども達に目を向け、外で子どもとすれ違う時など、挨拶をしたり、微笑みかけてください」とお伝えします。その時に「今の社会では不審者と思われ、通報される可能性がある」という言葉が返ってくる時もあります。大人はできない理由を探します。でも実は自分の想い一つでなんでもできると思うし、いくつになってからでもできるのです。だから、できない理由を探さないで一歩踏み出す勇気を持って欲しいです。

記者:以上でインタビューは終了です。
常に子どもたちの目線に立ちながら、共に喜んだり悲しんだりしながら現実社会に向き合う安田さんの存在は子ども達だけでなく、地域社会にとっても、大きな存在だと思いました。
これからも行き場のない子ども達のために居場所作りを頑張っていただきたいと思います。

本日は貴重なお話し、ありがとうございました!
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【編集後記】
今回インタビューを担当した菊地と中西と内澤です。
どんなことにも興味関心を持って知りたいと思うことをとことん追求していく子どものような純粋さと、子ども達と一生懸命に向き合おうとする姿勢や人柄に大きな愛を感じました。
未来社会を担うこども達のためにも、よりよい社会や時代を創っていきたいと思いました。

今後のご活躍を応援しています!

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