人口問題など本質的危機に警鐘を鳴らし、地域創生を訴える藻谷浩介さん

20年前から地域の人口減少によって必然的に起こる問題に警鐘を鳴らし続け、テレビ・新聞・講演会で訴え続ける藻谷浩介さんにお話をお伺いしました。

藻谷 浩介さんのプロフィール
活動地域:全国
出身:山口県周南市
経歴:1964年山口県生れ。平成大合併前の約3,200の市町村のすべて、海外109ヶ国を自費で訪問。地域特性を多面的に把握し、地域振興や人口問題、観光振興などにに関して精力的に研究・執筆・講演を行っている。
現在の職業および活動:日本総合研究所調査部主席研究員、日本政策投資銀行地域企画部特別顧問(非常勤)、地域エコノミスト。
最近の主な著書:
『デフレの正体』 角川書店 (2010年)
『里山資本主義』角川書店(2013年)共著、第七回新書大賞受賞
『観光立国の正体』新潮社(2016年)共著
『完本・しなやかな日本列島のつくりかた』新潮社(2018年)
『世界まちかど地政学NEXT』文芸春秋(2019年)
など著書多数。
座右の銘:
「GM・SY・KY」(現場見る・数値読め・空気読まない)
「一事が万事」、
「無知の知」(ソクラテス)、
「覚悟という事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思っていたのは間違いで、覚悟という事は如何なる場合にも平気で生きている事であった」(正岡子規)

Qどんな世界を目指していますか?

藻谷浩介さん(以下藻谷、敬省略):
皆さんなら”こんな世界を目指したい”というような、さまざまな夢や目標をお持ちですよね。ですが私には、”世の中をこうしたい”という目標はありません。そういうものがあっても、自分以外の人にとっては余計なお世話かもしれないのです。
その代わりに私には、”世の中はこうあってはならない””世の中がこうなるのだけは止めたい”という目標があります。例えば、「戦争でいきなり殺される世の中にはしない」、「後世に汚染物質を残し資源を浪費するようなエネルギー利用はしてはいけない」というようなことですね。最低限の条件が満たされた先は、各自が目標を追い求めればいいのです。

私は小さなころから、「これがしたいから目指す」ということがありません。一方で、したくないことは幾つかありまして、しないようにしています。例えば、家や車は、とにかく自分で管理をしたくないので買いません。仕事においても、他人と並んで机に座るとか、誰かに管理されるとか、書類を整理することが何より嫌なので、オフィスを定めず、パソコンを持ち歩き、ペーパーレスを実現しています。タバコの煙を吸いたくないので、盛り場には行きません。同じように、社会全体にとって、殺し合いがあるとか、核廃棄物が増えるということは、してはいけないし、させてはいけないことでしょう。

他方で、夢とか目標だとか言う前に、できることは、できる範囲でさっさとやってしまいます。結婚もご縁があった相手とすぐ実行して、たいへん仲良くしておりますし、旅行も好きなのでどんどん行きますが、「何ヶ国に行く」といった数値目標はありません。

記者:一貫していますね。

藻谷:このような発想は、ギリシャ正教の「ビザンティン神学」に似ているのだと最近知りました。カトリックの神学では、「神は○○だ」と定義や証明をしようとするようですが、正教では「神は少なくとも○○ではない、○○でもない………」というように、証明ではなく反証、定義ではなく反定義を考えるのだそうです。たどり着けそうもない真実を探す前に、少なくとも嘘を信じるのは避けるという発想ですね。この点は、カトリックより正教の方が納得できます。
人類の技術の進歩も、このビザンティン神学的な発想の下でなされたものと言えるのではないでしょうか。PDCA(Plan Do Check Act)のサイクルを回すことで、良い結果をもたらさないものを排除し、少しずつ最適解に近づいて行けます。「そこで終わり」という正解はないし、ましてや最初から正解がわかることはない。しかし過去の経験からPDCAを回していけば「これは明らかに正解ではない」ということは分かります。

Qどんな目標計画で、どんな実践行動をしているのですか?

藻谷:”こうしたい”という夢や目標ならば、計画立案もまっすぐにできるわけですが、 ”〇〇のない世の中にしたい”という目標ですから、そもそも計画を立てるのが難しいのです。そもそも何がいけないことなのかを判断するには、経験からPDCAを回し、事実を見分ける思考力の訓練が必要です。そこで私が目指しているのは、「嘘とわかっていることを信じ込んでしまう人を一人でも減らすこと」そして「思い込む前に事実を確認する習慣を持つ人を一人でも増やすこと」です。
年間300回を超える講演や、連載、寄稿、出版、テレビやラジオへの出演、といった私の発信活動の全てが、その方針で行っています。テーマは、地域活性化だったり、日本の経済政策だったり、世界の動向だったりといろいろですが、どんなテーマを語る場合でも必ず「事実を数字と現場で確認し、思い込みから脱出する」というコンテンツを盛り込むようにしています。

Q現在の活動をするきっかけは何だったのですか?

藻谷:20数年前から、地域振興に関する講演の声がかかるようになったことです。ネタがたまったところで、「雑誌に連載しないか」との声がかかり、文章がたまったら「出版しないか」と声がかかりました。出版したら今度は、「総論部分だけを要約して新書にしないか」と言われ、出した新書が売れたのでテレビから声が掛かるようになり… というわけで、本当に”人様のおかげ”としかいいようのない連鎖で今に至ります。有り難いことです。

Q活動の原動力は何ですか?

藻谷:”ビザンティン神学的”な怒りと言えばよいでしょうか。「誰も得をしない、みんなが損することをなぜするのか?」という怒りです。目先の感情に走ったり、皆が言っていることを調べもせずに事実だと信じ込んでいるのではないでしょうか。”事実が事実であることを指摘する”、この”指摘する情熱”こそが、私の原動力と言えます。語っていることは、私の個人的な”意見”ではなく、裏打ちのある”事実”です。だから”主張”をしているのではなく、”指摘”をしているということです。

記者:今日は、藻谷さんが本質的な問いを世間に問い掛け続けている背景をお伺いすることができました。いつもなら聞けない貴重なお話もお伝えいただきました。
有意義な機会をいただき、ありがとうございました。
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藻谷浩介さんに関する情報はこちらです
↓↓↓
【株式会社日本総合研究所研究員紹介 HP】
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=20680

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【編集後記】
取材を担当させていただいた大場龍夫、大場光洋、高橋、高山、細井です。藻谷さんが一貫して一見厳しそうな言い方で警鐘を鳴らし続けている背景にある、大きな優しさを感じることができました。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!

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