「マーケティングで世直しをしたい」ソーシャルプロダクツ普及推進協会事務局長 深井賢一さん

30年以上マーケティングプランナーとしての実績をもち、
現在はソーシャルプロダクツ普及推進協会を運営されている深井賢一さんにお話を伺いました。

深井賢一さんプロフィール

出身地:東京都

活動地域:東京・大阪

経歴:マーケティングプランナーとして、食品・日用品・医薬品などのマーケティングやプロモーションや、流通小売業の業態開発・売場開発に携わる。現在はソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、SDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用を企業に導入している。  

現在の職業及び活動:株式会社YRK and 執行役員東京支社長、株式会社SoooooS.カンパニー 代表取締役社長、一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会 事務局長

座右の銘:智信仁勇厳、先義後利

記者 本日は、よろしくお願いします。
深井賢一さん(以下、深井) よろしくお願いします。


マーケティングで世直しをしたい

Q.どのような夢やビジョンをお持ちですか?

深井 マーケティングプランナーとして30年以上仕事をやってきました。マーケティングとは生産者であるメーカーと小売であるバイヤーの間に入って、生活者と商品の出会いを作ることです。私はマーケティングで世直しをしたいと思っています。三方良しという言葉でいうと、生産者と流通・小売と生活者、この3つの最適化ですね。

やはりどこかがしんどい思いをするんですよ。今は小売が力があり過ぎるおかげで、商品を選ぶ想像力や適正な商品を選ぶ知識が生活者から失われているので、それを取り戻したい。メーカーでは、原材料が高騰しても商品の値上げができないので同じ価格を維持するために量を減らしたりするんですが、新聞などではそれを悪者のように書かれたりします。小売は小売で大変で常に1円2円レベルの価格競争です。誰かが絶対に悪ということではなくて、やはり全体を良くしていかないといけないんです。

これからのマーケティングの1番中心に置かなければいけないのが「ソーシャルプロダクツ」だと考えています。

ソーシャルプロダクツとは、エコ(環境配慮)・オーガニック・フェアトレード・寄付(売り上げの一部を寄付)・地域の活力向上・伝統の継承保存・障がい者支援・復興支援などに関連する“人や地球にやさしい商品・サービスの総称”で、生活者がよりよい社会づくりへの参加(社会貢献)が可能なものを指します。

ソーシャルプロダクツを通じて本当の意味でのマーケティングを仕事として、社会と市場を創っていきたいと思っています。

今やらなければいけないのは社会と市場の形成

Q.それを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?

深井 今一番力を入れている活動は一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会(以下、ソーシャルプロダクツ協会)です。

もともと2010年に会社の元部下である中間大維氏(以下、中間)が、社内ベンチャーとして株式会社SoooooS.カンパニーを立ち上げました。この会社ではソーシャルプロダクツの開発支援やオンラインモール事業を運営していました。ただ、一時的に震災復興など寄付や困った人を助ける消費は盛り上がるんですが、継続的な社会問題や誰かの役に立つ商品がなかなか根付かなかったんですよね。そこで中間は、ソーシャルプロダクツを適正に普及していくための一般社団法人ソーシャルプロダクツ協会を立ち上げました。昨年彼が急逝したため協会を引き継いだんです。

記者 そうだったんですね。協会を引き継がれてどのようなことを感じられましたか。

深井 ソーシャルプロダクツ協会に加盟する企業は昔から取り組んでいるところが多いんですが、一方でナショナルブランドのメーカーは「うちは無理だよ」という状況なんですよ。フェアトレードやオーガニック、ましてやアフリカの児童労働などの話をしたら「あぁまたそれね」となりやすい。「分断化」があるんですよね。

今、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)のおかげで急激に変わりつつあります。来年オリンピックで2025年は大阪万博、すべてSDGsがテーマなので。ものすごい追い風が吹いているので、今やらなければいけないのはちゃんとした社会と市場を形成することです。

そのためにこの3年くらいでソーシャルプロダクツをまず普及させていきたいです。きちんと生活者が選択できるような、メーカーは取り組んだだけの付加価値が得られるような社会や市場構造を作っていきたい。それは私企業より一般社団法人のほうが第三者機関としてやりやすいと思っています。

資本主義経済の仕組みが大きく変わろうとしている

Q.その目標や計画に対して、現在どのような活動指針を持って、どのような活動をしていますか?

深井 まず、経営者向けや企業向けにSDGsのセミナーを開催しています。そのなかでも特に強く伝えているのがESG投資の話です。SDGsの本質を理解しようと思ったら、企業の皆さんはESGを理解しないといけないんですよ。Environment(環境)Social(社会)Governance(企業統治)の指標を基準にした投資を優先しましょうということを国連が示しているんです。これに欧米の投資家たちがいち早く反応しています。資本主義経済の仕組みがSDGsによって大きく変わろうとしているんです。

SDGsやESGは「取り組んでいなかったらあなたの企業は存続する価値なし」という烙印を押されるようなものになってきています。ここが今までのCSR(Corporate Social Responsibility)と大きく異なる点です。今までみたいに出た利益で木を植えている場合ではなくて、本業のなかでちゃんと還元できるような仕組みにしないといけない。逆にSDGsに取り組むことでものすごく儲かる、企業価値が上がる時代になっているので、積極的に真っ向勝負していくことを早くやったほうがいいと伝えています。

それから、内閣府の地方創生SDGs官民連携プラットフォームにおいて、分科会を2つ実施しています。1つは、もっと広く一般の企業にも門戸を広げてソーシャルプロダクツに取り組んでもらうためのソーシャルアワードの開催です。もう1つは、一社でやるのは大変なので官民・官学・企業間でパートナーシップを組むマッチングのためのプラットフォームづくりを取り組んでいます。

本当の意味で正義とビジネスを結びつけることが世直し

Q.「マーケティングで世直しをしたい」という夢を持ったきっかけは何ですか?
そこには、どのような発見や出会いがあったのですか?


深井 マーケティングプランナーという仕事をするなかで「誰のためにやっているのかわからない」と思ったのが最初ですね。生活者のために本気で仕事をするのがマーケティングで、私たちはそのための仕事をしなきゃいけないと思っていたのに、小売業の仕事をしていた時に、来店するお客様のためではなく、その小売業のバイヤーや販促担当者のために仕事をしているのではないかと疑問に思い、これは違うなと思いました。小売り業は、商圏生活者のために適正な商品を仕入れ、適正な価格で提供するのが仕事のはず。本気で世直しが必要だと思いました。

とはいえ、私たちも商売が前提ですから、そんな簡単にいきませんでした。

元部下の中間がソーシャルプロダクツ協会を立ち上げたのが2012年なんですけど、ものすごく苦戦したんですよね。日本では「きれいごとでは商売はうまくいかない」という価値観が大勢を占めている。「良いことをしてると声高で叫ぶものじゃない」という倫理観もありますね。ここは欧米とは違うところです。私もどこかで「もしかしたらきれいごとかも」と思っていたんです。

ところが事業を引き継ぐなかで、本当の意味で正義とビジネスを結びつけることが世直しなんだと気づきました。「これは!こんなところにあった!」と思いました。

実は私は資本主義が良くない、企業の搾取する体質が良くない、利益主義が良くないといった環境や社会問題に強い意志で取り組む人たちの主張に違和感がありました。「いや、企業もすごくがんばってるよ」と思っていたんです。もともとはずっとマーケティングプランナーとしてそちら側の人間だったので。

そんなときに、ESG投資を世界の経済界が後押ししているというのを知ったのがとても衝撃的でした。社会的な課題の解決と、企業が抱えている売上・利益の課題の解決を両立できることがわかったんです。

腹を決めて引き継いだのは、チャレンジはチャンスだと思ったから

Q.元部下の中間さんが急逝されて事業を引き継がれたとのことですが、引き継がれた背景には何があったのですか?

深井 中間のことは上司部下というより同志だと思っていました。彼は若い頃から途上国を中心に何十カ国も周っていたような人間でしたから、本当に深いんですよ。彼が苦労しながらも一生懸命やっているのは知っていましたし相談に乗ったり応援はしていましたが、結局自分事化していなかったんですよ。そんななか本当に急に亡くなってしまって。ソーシャルプロダクツ協会のもともとの経緯からすれば私はものすごく異質な人間なのでふさわしくないのではと思いましたが、意志を継いでやろうと腹を決めてやり始めました。

正直なところ、もう50歳になっていますから、次のチャレンジができて嬉しかったです。自分の人生の転換になるのではないかという予感がしました。大変な部分もありますが、チャレンジはチャンスだと思っています。ビジネスチャンスというよりも自分にとってのチャンスです。50代になって新しいチャレンジできることは幸せですよね。

Q.最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

深井 明確な夢、目標、ビジョンを持っていなくても、歩いていたらどんどん見つかるものです。私はそういう人生でした。とにかく漠然としていても自分の可能性さえ信じていたら、やりたいことや目標、自分がやるべきポジションは必ず見つかると思っています。目標は一つじゃなくてもいいし成長とともに変わっていくので、いろんな人たちとの出会いで新しいものを生んでいってほしいです。

記者 深井さん、本日はどうもありがとうございました!

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会
http://www.apsp.or.jp/

人や地球にやさしい暮らしのためのショッピングモール
SoooooS.(スース)
https://sooooos.com/

株式会社 YRK and
https://www.yrk.co.jp/

【編集後記】インタビューを担当した杉本、稲垣です。
長年携わられたメーカーと小売の現場から感じた社会への問題意識を、50代になられた今、社会の構造から変えていこうと行動される深井さんの姿に感銘を受けました。またその背景には、誰も痛まない、人と人が理解し尊重しあえる社会をつくりたいと願う深井さんの意志を感じました。たくさんの貴重なお話をどうもありがとうございました!

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