誰もが学べる環境をつくる、認定NPO法人Kacotam(かんがえる・こうどうする・たのしむ)代表 高橋勇造さん
プロフィール
【名前】高橋勇造(たかはし ゆうぞう)
【経歴】1986年、北海道札幌市に生まれる。青山学院大学理工学部電気電子工学科卒業後、北海道大学大学院経済学研究科会計情報専攻へ。その後一般企業に勤めながら児童養護施設でボランティアを開始。2011年にボランティアサイトを活用し、2012年に任意団体Kacotamを設立。2014年3月にNPO法人格を取得。事業拡大を継続し続け、2017年11月 公益財団法人 社会貢献支援財団 第49回社会貢献者に表彰される。2019年4月 札幌市から「認定NPO法人」の認定を受ける。
【活動地域】北海道札幌市を中心に北広島市、苫小牧市、恵庭市など。
【現在の活動】経済的理由や家庭環境等の周りの環境によって学びの機会が少ない子どもや若者を支援する認定NPO 法人Kacotamの理事長を務める。
【座右の銘】「自分で行動すること、行動することを楽しむこと」
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
知られざる学習機会の格差を是正する
記者:現在の活動について教えてください。
高橋勇造さん(以下、敬称略):今の日本社会には子ども達や若者の「学びの機会」に格差があります。塾に行けない、部活に入れない、家庭体験学習の不足など、自身の努力ではやむを得ない環境下で「やりたい」「学びたい」という意欲が満たされず、その意欲自体が削がれてしまうことがあります。その結果、「どうせ無理だ」という考えが定着し、機会があったとしても掴み取ることが難しくなります。
子どもたちが周りの環境に左右されず、安心して楽しく学べる場作りを行なっています。現在は「学習に取り組める環境づくり」「視野が広がる環境づくり」「つながりができる環境づくり」を中心に様々な活動を子ども達に寄り添いながら行っています。
記者:「学習に取り組める環境づくりが必要」ということは、そうでないということですよね?具体的にはどんな事例がありますか?
高橋:例えば、子どもに対するネグレクト(育児放棄)です。親や兄弟から家族として認識されていない、食事や衣服、寝る環境など生活のあらゆるところで配慮されず、家が安心して過ごせる環境ではない。そういう場所では安心して学習することは困難です。
また、思春期になると特に親との関係性が悪くなり、家に居づらくなることがあります。特にひとり親家庭だと親1人子1人で互いにイライラして衝突することも。そういう子に安心して過ごせる環境や様々な学習の機会を提供しています。
記者:子ども達はどういったきっかけで利用するようになりますか?
高橋:子どもが自分でTwitterで発見したり、親御さんが検索して連絡をくれたりですね。使っている人から話を聞いた、という人もいますし、小・中学校でチラシを配布しているところからも来てくれています。
記者:実際にはどんな活動をされているんですか?
高橋:Kacotamでは自分で考えて行動すること、楽しむことを大切にしています。
子ども達にはやってみたいこと、知りたいこと、関心があることがある。でも経済的に厳しい、自分の力ではできない、親が必死に働いている姿を見て、「これをしたい」と言えない、ということも多々あります。
私たちのところで安心して「やりたい」を口に出して、実際にできるように様々な方法を実践しています。
子どもの「やりたい」をカタチにするプロジェクトでは「おいしい唐揚げを作りたい」という声が上がり、あらゆる方法を検証する「からあげ研究会」を行いました。また、「ジェットストリームはなぜ書きやすいのか」ということを、実際に作っている会社に聞きに行ったこともありました。その時に応じて、機会を作るようにしています。
また、自分がなりたい仕事について実際に聞きに行く、「お仕事カコタム」では管理栄養士になりたい、という高校2年生と一緒に藤女子大学 人間生活学部 食物栄養学科の先生のところに話を聞きに行くこともありました。
それ以外にも子どもたちの状況やニーズに応じて勉強や人との繋がり、居場所づくり、受験対策や就職に関することなども行っています。
記者:この活動を始めたきっかけはなんですか?
高橋:大学三年生の就職活動の時に、やりたい仕事がなかったんです。本を読んだり、会社訪問をして話を聞いて、自分のやりたいことを探しました。その中で「チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える」(日経BP社出版 渡邊 奈々著)という本から「社会起業家」(社会問題を事業により解決する人)を知って、かっこいいなって思ったんです。
社会起業家の活動として、経済が重要だと思ったので、大学院で会計を学びました。
その頃、家庭教師をしていた中学校1年生の女の子が友達や先輩、学校の先生とのやりとりで悩んでいましたが、親は共働きで忙しく相談できない状況でした。そのことを自分には話してくれたんです。
そこから色々な本を読むようになって。児童養護施設にいる子は、尚更相談ができる状況じゃないと思ったんです。何かに悩んでいる、何かを諦めている子ども達に関われることがしたいと思うようになりました。
記者:高橋さんの今後の夢やビジョンはなんですか?
高橋:今、Kacotamは札幌近郊が中心です。今の活動を北海道全域に広げたいですね。179の市町村全てにKacotamのような学びの場があってもいいと思うんです。札幌から離れれば離れるほど、そういった場は少なくなっていきます。市町村に一つでもあれば、子ども達の拠り所になる。あと30年で自分は65歳です。それまでになんとかやりきりたいですね。
記者:北海道全域に広めるための計画などはありますか?
高橋:札幌近郊から広めていきたいと思っています。学びの場がない地域からの要望もあり、その地域の人をサポートして場を作って行く動きも始まりました。七年間やってきた学習支援などのノウハウを提供していき、広める動きをしていければ、と思っています。
記者:今後の課題はなんでしょうか?
高橋:先ほどのノウハウの整理が追いついてない状況ですね。整理されているものと、そうでないものがありますが、思うように進んでいない現状があります。学習支援標準化チームを立ち上げ、言語化、文章化、標準化に取り組んでいます。今年度中に整理をして、第一弾として発表したいと思っています。
記者:ありがとうございました。お話を伺って私もこの活動にとても関心を持ちました。Kacotamの活動を応援していきたい、という人は何から始めたらいいでしょうか?
高橋:まずは私たちの活動を知っていただき、メンバーとしての活動や寄付への協力、支援が必要な方へ「こういうのがあるよ」と知らせていただければ嬉しいです。
********編集後記*******
ここまで読んでくださってありがとうございます!取材を担当した深瀬と原田です。若くしてメキメキと頭角を現わした高橋さん。どんな人なんだろう!?と、ワクワクしながら事務所にお邪魔しました。物腰も柔らかく、笑顔も可愛らしい好青年ですが、活動は精力的かつとても活発な様子でした。北海道全域への広まりは
想像以上に早いのではないかと期待しています!
高橋さん、取材へのご協力、本当にありがとうございました。