「すべての子どもたちがキラキラと輝いている世界を創りたい」 ミライプラス 代表 小林 誠司さん

「AI時代の教育を考える」といったテーマで「Most Likely to Succeed」の上映会・交流会等、様々な教育イベントを開催され、教育と社会を繋げていく活動をされている小林誠司さんにお話を伺いました。

出身地:東京都
活動地域:現在は日本中心
経歴
1991年 ソニー株式会社入社
2013年 ソニー株式会社メディカルビジネスユニット統括部長
2019年 退職
2020年 独立 ミライプラス代表
現在の職業および活動
教育システムアーキテクト、世の中のすべての子供たちがキラキラと輝けるミライのために、子どもたちが自ら学び、考え、チャレンジする世界を作ることを目指して活動中。
座右の銘:有言実行

「先生も子供も、楽しく学びを深めていける学校を増やしたい」

Q1.どのような夢やvisionをお持ちですか?

小林誠司さん(以下、小林 敬称略):これからの教育に求められるものに、ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」に出てくる学校、High Tech Highが取り組んでいるようなProject Based Learning(プロジェクトに基づく学習)があります。
最初は、そういう学び方をいろんなところで上手く取り入れて、何か提供していくことをやるのがいいかなと思っていたのですが、上映会を開催する中で、いろんな先生と出会ってお話を聞かせていただくことが多くなった今は、「先生の意識が変わっていくこと」と「職員室が楽しくなること」に貢献できたらと考えています。
ひとつの学校に数十人の先生がいるとなると、全国各地合わせたら、すごい数の先生達がいらっしゃいますよね。私が開催するイベントに来て下さる先生は、既にいろんな取り組みをされている方が多いですが、学校の先生皆さんがそうではないのだなと感じました。一部の先生がすごくチャレンジしているけど全体の学びは変わらないという現状があり、よく先生方から聞くのは、「職員室つまんないよね」ということなのです。これは学校そのものの組織を変えないといけないのかなと思っていて、学校がもっと学習する組織になるとか、企業で人事やマネジャーを経験してきた視点からは、学校の職員室は「ほとんど組織として機能していない」と感じたのです。何より、先生たちにワクワクしていてもらいたいですよね。子供が好きで、子供と関わりたいから先生になっていらっしゃる方がほとんどじゃないですか。先生の皆さん、教室は好きなのですよ。自分のクラスと向き合っている時がすごく嬉しいとおっしゃる方は多いです。職員室はつまらないけど、教室は楽しいと。もっと先生たちが職員室含めて楽しく仕事している雰囲気になると、子供たちももっと楽しくなるのではと思っています。


Q2.その夢を実現させるために、どんな目標・計画を立てていらっしゃいますか?

小林:教育と社会を繋げていくという大きな目標はありますが、こういうステップでやっていこうという計画は立てていないです。それは、ソニーで医療機器の開発に携わっていて経験したことが大きいですね。ソニーは医療を専門に扱う会社ではないから素人なのですね。医療の現場が何を求めているかを正しく理解しないで、医療の本質とは違うところで、自分たちの映像技術はこういうふうに生かせるはずだと、中長期の開発計画を立てて取り組むのですが、それは医療現場が求めているものとは限らないのです。実際に使うのはお医者さんであり、自分たちが直接患者さんに関わるわけではないですから、現場で何が起こっているのかわからないのに、いくら構想を練って提案しても、求められていることと違うことになってしまいますよね。教育でも同じで、学校現場を直接見ていないのに計画を立てても仕方ないと思っています。そのため、子どもの学びに関わることをやろうということだけ決めて、他は特に決めていませんでした。そのおかげで今はいろんな先生方とお会いして、学校現場に入らせていただく中で見えてきたこともあって、その時その時で企画が生まれてきていますね。

Q3.現在はどんな活動指針をもって、どんな取り組みをされているのですか?

小林学校の先生たちが、もっと楽しく教育に関わる、もっと主体的に学びを深められる企画を考えています。今は大体その活動していますね。映画の上映会に学校の先生には是非来てほしいと思っていますし、教員研修として開催してくださいと依頼を頂いたら、是非やらせてくださいと伺います。私がやっているのは、映画を見た後に参加者同士で対話する時間を創るのですが、そこで映画の感想だけで終わってしまうのはもったいないので、日本企業の現状やAI技術がどこまで進化しているのか等、事実を伝えることをしています。日本企業は今や大企業に入ったとしてもどうなるかわからないですし、昔みたいに良い大学に入って、良い会社に就職しても必ずいい仕事に就けるという保証はありません。日本企業ってどうなる?日本って何?日本人は何をしないといけないのか、ちゃんと考えなくてはいけませんし、先生たちも学んでほしいと思っています。「メーロン アカデメイア」という名前のプロジェクトを立ち上げ、学校施設を使って、教員と教員ではない人に来てもらって未来の社会のことを学びあうことを企画しています。外部の会場を使ってやる、と言うのはすぐできるのですけど、そうすると熱意や問題意識のある学校の先生しかいらっしゃらないのですね。だったら、中に入っていってしまおう、学校設備を使わせて下さいと伝え、出来れば公立の学校でやりたいと思っています。私立だと受け入れてくれやすいのですよ。私立はある程度、ユニークな教育を行なっている学校が多いのですが、日本の学校の全体数としては少ないので、なるべく公立の学校にアプローチして場所を使わせてもらい、有識者にも来て頂いて、ディスカッションしましょう、という場を創っています。近年、いろんなところで「教育改革」という言葉を耳にしますが、「社会はこんなにも変わったのに教育が100年前と変わっていないのはいかがなものか」ということが原動力になっている気がします。私は「教育が社会を創る」と思っているので、「社会が今こうなっているから教育を変えましょう」ではなく、「30年後50年後はこういう時代になるから、今教えるべきはこうだよね」ということを先生たちにも考えてもらう、それが活動の軸になっていますね。
今は休校や外出・イベント自粛がある中なので、オンラインを活用して様々なプロジェクトを開催しています。映画上映会だけでなく、「みんなの職員室プロジェクト」といって、ZOOMでのグループ対話とホワイトボードツールなどを組み合わせてワークショップを開き、学校システムの課題や職員室のあるべき姿をディスカッションする企画も始動しました。他にもオンライン授業の実践をされた先生方からお話を聞かせていただく会を実施しています。イベントに参加してもらった人に価値あるものを提供できれば、自然とその先に新たな動きへ繋がっていくという感覚ができてきましたね。


Q4.現在の活動をされるようになったのは、どんな発見や出会いがあったのですか?

小林:私はソニーを辞める時は人事にいたのですが、その1年半前までは技術開発の部長としてインターン受け入れや面接もやっていて、一流大学の学生とも多く接していました。学生たち皆、頭はとても良いと思うのですが、先が見えない状況で自ら切り拓いていくという点で大丈夫かなと感じていたことがありました。会社ってけっこうプロジェクトで動いていますよね。特に開発部となると次に何をやるのかは決まっておらず、自分たちで探さないといけないので、中長期計画立てて、今は世の中こうなっているけど次にどうしていくか等をみんなで話し合っていく時に、「こういうことが必要だと思います」と言える人と、「うーん・・・自分では決められないのでお願いします」と言う人もいます。皆すごく優秀だとは思いますし、「こっちだよね」と言ったらやれる人もいるのですけど、毎日毎日、学校で先生から言われたことをノートに書くということだけやっている中では、プロジェクト的な学びは生まれないなと思っていました。特に最近、世界の大学と比べると日本の大学のレベルが下がってきていると言われていますよね。今の社会と教育の違いに対する違和感と、このままでは日本人は世界で競っていけなくなるのでは?という危惧がありました。そんな中で出会ったのが、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」と、映画の舞台となっている大空小学校の初代校長である木村先生です。映画を通して大空小学校を観て、木村先生の講演を聞いて、これが本質だなと思いました。
「みんなの学校」は保護者や地域の人も一緒になって、障がいを持っている子も、どんな子でも居場所がある学校を創るという挑戦を描いている作品ですが、私はあの映画の中で一番好きなのは職員室なのです。あんな職場を創れたらすごいなと思い、会社に木村先生をお呼びして上映会を開催したこともあります。その後も、木村先生とはやり取りさせていただいて、私が会社辞める前にも、「私はあの映画の中で職員室が一番好きなので、他の学校でもあんな職員室が増やせるようにしたいです」と話したら、木村先生も「そうなのよ!あの職員室が作れたら最強よ!あんな場ができたら、何をやってもうまくいく!」と仰っていました。そのため、大空小学校の職員室をモデルに仕組み化していこうと考えています。
学校の先生たちと一緒にワークショップ等やりながら、実際に他の学校の人たちから見たら、大空小学校の何がすごいのかその事実を掘り起こしていこうとしています。それができれば、なぜ大空小学校が素晴らしいのかが観えてきますよね。木村先生のリーダーシップやバイタリティだけではなく、なぜ大空小学校はすごく良い場が生まれたのか、なぜ他の学校ではできないのか、それを明確にしていこうと思っています。

Q5.教育に関わる仕事で貢献していきたいと思うようになったのは、どんな背景があるのですか?そして、今の活動を続けて広がっていけば、どんな未来が作れると思いますか?

小林:ソニーには最初にエンジニアとして入ったのですが、それよりもっと前の小さい頃から、「そもそも自分は何で生きているのか」、「何のために自分は生まれてきたのか」ということをけっこう思っていました。大学で工学部に入って、その時に研究が面白くなり、エンジニアとして就職してから、研究開発の仕事にも携わるようになり、自分が開発した技術で人々が幸せになればいいなと思うようになっていたのです。そんな中で2001年に娘が生まれたのですが、その子が生まれてまだ何か月も経っていない時に高熱が出て、夜中にすぐ病院へ行き、妻が付き添って緊急で入院しました。幸い娘は大した程ではなく、私は会社に行きながら見舞いに行っていたのですが、病室と同じフロアに新生児集中治療室(NICU)があったのです。NICUはナースステーションの近くにあって中の様子が見えたのですね。入院した病院は大きな病院だったので、そこには重症のお子さんも結構いました。いろんなチューブなどが体に付けられている、生まれてきたばかりの赤ちゃんから1歳2歳の子もいれば、明らかに10歳くらいではないかという子もいたのです。私はその時まではそういう子供たちに出会ったことが無かったので、その病院に勤めている知り合いの看護婦さんに「あの子とかってずっと病院なの?」と聞いてみたら、生まれてから一回も病院を出たことがない子もいること、その子のご両親はあまり病院にいらっしゃっていない、という話をされました。病院に預けっぱなしのようになってしまっている、その状況を見た時、ずっと病院から出たことが無くてもこの子たちは必死に生きているのだなと思ったのですね。当時は今から20年くらい前ですが、その頃から小中学生の自殺がニュースで取り上げられることが多くなっていましたし、今でさえ親による児童虐待とかありますよね。この子たちは何かに貢献しようということもなく一生懸命生きているのに、小学生が自殺するってどうなの?やっぱりそれはおかしいなと思うようになりました。それまでは、人のために何かを作り出そうと思っていましたが、そういうことではないのではと感じたのです。シンプルに自分の子孫を残すこと、次の世代の子供たちに何ができるか、そのために生まれたのだなと思いました。そうして改めて現代社会を見ていくと、私たちが小学生だった時よりも、今の時代の子の方が楽しく学校に行っていないなと感じました。それならば、子供たちがもっと学校に楽しく行けるようにした方が良いのではと思い、子供の教育に関わることをやりたいと考えるようになりましたね。

今までは会社に行って、家に帰っても「まだ仕事残っているから処理をしなければ」ということもありましたが、独立してからは働き方が変わりました。好きな時に休憩して、資料作っておいて、土日はイベントやるとか。そうなると、仕事をしているトータルの時間は会社で働いていた時と比べたら短くても、いろいろな活動に関わることが出来ていると思います。これからの未来は、そういう働き方がもっと増えてくるのではないかと思っています。一つ一つのプロジェクトは小さいけれど、同時並行で10個のプロジェクトやっていますとか、それぞれ得られる収入は少なくても、10個やればたくさん得られるとか、いろんな人が自由な働き方になって、教育も今までのようにガチガチなものではなくなっていったら、大人も子供も自分らしく楽しく暮らすことができるようになっていけるのではないかと思います。

記者:貴重なお話をありがとうございました!

小林さんの活動、連絡についてはこちらから↓

◎ミライプラス → 

https://www.facebook.com/mirai.plus.x/


◎Brightening The Future → 

https://www.facebook.com/groups/444233106405141/


◎メーロンアカデメイア → 

https://www.facebook.com/groups/2445283639018867/

【編集後記】
今回、インタビューの記者を担当させていただいた内田・玉井です。

教育に対する想いを抱き続けて独立し、先生方との出会いを大切にされている小林さんの姿勢に感動しました。学校と先生のみならず、保護者の方や地域との関わりなど客観的に捉えて生み出される様々なアイデアや企画のお話も、とても共感することばかりでした。
素敵なお話と貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました!
小林さんの益々のご活躍をこれからも応援しております!

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