「未来におけるあたりまえのはたらきかたをつくる」Polaris取締役ファウンダー”市川望美”さん

「ポラリスとは北極星の事です。北極星は地球の軸の天辺にあるから動かないんですね。でも地球って傾いているから、何万年に一回北極星が変わるんです。なので、迷ったときに立ち返る指針を持とうという事と、でもそれも大きい時代でみたら変わり得るし、新しい時代を創りたいという2つをポラリスの会社の意味に込めました。」と話す市川さん。変わらないものと変わり得るものを同時に持っていらっしゃる市川さんにお話を伺ってきました。

市川望美さんプロフィール
出身地:東京都世田谷区
活動地域:東京
経歴:1972年生まれ。短大卒業後IT系企業へ入社。9年勤続後育児をきっかけに退職し、自分が暮らす世田谷で当事者発信型・循環型の子育て支援NPOに参画。2011年内閣府地域社会雇用創造事業ビジネスプランコンペで採択され、地域における多様な働き方を支える基盤づくり事業を開始。2011年8月「ここちよく暮らし、はたらく為の拠点」として”cococi” Coworking Space立ち上げ。「セタガヤ庶務部」など地域からの新しい働き方や地域×企業による価値創造を目指して事業を展開。2016年10月、意思決定主体を経営メンバーから参画するチームへと拡張する「フォロワーシップ経営」にチャレンジするために代表を交代。
現在の職業及び活動:非営利型株式会社Polaris 取締役ファウンダー

「一番大切なことは心地よさ」

記者:今日はよろしくお願いします。ポラリスという意味の中には静と動が一緒にある感じですね。具体的に事業を始めるようになったきっかけはありますか?

市川:よろしくお願いします。仕事は私にとって善なるもので人の役に立つものであり、出会わない人に出会えるもの、そしてコミュニケーションのツールでもありました。私は仕事が好きでした。
その大好きな仕事を育児で休んでいる間に一つの価値観の変化がありました。私はママを一括りにして毛嫌いしていましたが、出会ってみれば一人一人色々な背景のある女性が母になったという事に気がつきました。地域や子育てというのが面白くなり、通っていた子育て支援のスタッフになりました。私たちは当事者発信型子育て支援と呼んでいましたが、自分達が発信して循環していくというやり方が凄く面白いなと思ってました。けれど、子どもが大きくなると当事者としての視点が変わります。子育て支援という立場から、母となった女性のキャリアや働く事についてやっていきたいという思いになりました。どちらを選択するかの葛藤もありましたが、ちょうど内閣府のビジネスプランコンペがありそれに応募し、採択されました。自分達がやっていて楽しい事をするという思いと、仕事が好きという思いが上手く合流したのです。社会との接点を意識しながら社会課題を解決するための事業であることを強調する為に、非営利型の株式会社をつくりました。それがポラリスです。

記者:ポラリスではどんなことを大事にされていますか。

市川:ポラリスは心地良さを大切にしています。心地良さというのはごまかしが効かないんですね。正しいかどうかで判断すると理屈で抑え込むことができます。自分の気持ちをごまかさない為に心地良さを凄く大事にしています。多様な心地良さが共存できる場所にしたいんです。
誰か一人が心地良くて、その心地良さに合うのだったら居ていいよというのではありません。私たちは「自分はこういう働き方が心地良いと思っているけど、相手が違うんだったらどうやったら一緒に共存できるか」を考えます。その為にこんなことを言ったら嫌われてしまうのではないか、叱られるのではないかなど、そういった思いをお互いに素直に言い合ったり、聞き合ったりする事が重要だと思います。

記者:誰もが心地良いって素敵ですね。

市川:そうですね。でも中々大変ですよね。みんな良い人達なので。良い意味で遠慮してしまいます。「あなたの我慢は誰も幸せにしない。」という言い方を私はします。例えば仕事をずっと握り占めてる人がいたとしたら、「重たい荷物を持ってくれて嬉しいけど、あなた以外持てなくなるから、それはやっぱり良いことではない。あなたを否定するのではなく、ポラリスとしてはそうだよ。荷物を持ってもらうことで、機会が与えられたり、役に立ったりするんだから、ある意味あなたが他の人の機会を奪っているんだよ」と言うと「はっ!」となります。皆がそういう感じで、わがままとか弱音とかじゃなく機会をシェアする発想となるまでが結構大変なんですね。

記者:日本は特に自分の意見を言わないことが美徳だったり、自分が言いたい事を言わない習慣がありますね。それが我慢だとも気づかずに…。

市川:そうですね。当たり前過ぎて気づかないことが多くて、「心地良い」と言った人に対して、「それ他の人にも同じこと言える?子供にも同じこと言える?」と私が聞くと、初めてそこでその人は気づくのです。自分が我慢をしていたり、本当は嫌だったという事に。ポラリスにいると気持ちが痛いことも多いです。自分の本当の気持ちに気づくことを突き付けられることもあるので。
そういう文化を創る為にポラリスでは「ここは違う国です。」という言い方をよくします。「このポラリスという国においてはそういうことは許しません。」「それはだめです。」「それは良いことだとされています。」と言います。精神の習慣を変えるためには環境が変わらないといけないし、それが違う文化を創るということになります。

譲りたくないものも違う価値観に出会ったら棄てられるぐらいの身軽さ

記者:これからAIが活躍する時代と言われていますが、その時代に必要な事とは何だと思いますか?


市川:AIとは共存できればいいなと常に思っています。でも、最近哲学やアートがすごく注目されていると思います。それは予測可能なシステマティックの合理的なものではなく、予測不可能な偶発性とか、摂理みたいなものなどが求められていてれているからだと思います。それらは人間だからこそ、より上手に扱えるような気がします。変にAIなどのテクノロジーに対抗せずに、そういう感覚的なところを上手く汲んでいったり、偶発的な素敵なものを上手く生み出す様な事というのが人として凄く価値ある事と思います。

記者:これからの時代AIが進化していくことで、「今ある職業がなくなるのではないか」と今言われている中、市川さんはお子さんとこれからのこと、未来のことを話されることはありますか。

市川:うちの息子は今N高というちょっと変わった高校へ行っていて、彼は成績ありきの勉強が好きではないんです。私自身も問いと答えがセットになっているパッケージを探す様な事がものすごく嫌で、うちの子供たちにも「そうじゃなくていいんだよ」ということも言ってきました。
息子は、学校の作文で、楽しくなかったのに楽しいとは書けないというところで作文を書けませんでした。普通は皆、楽しくないと思っていても、楽しいと何となく書くと思います。息子はそういう枠の中で決まっている事をこなしていく事に対して違和感を持っていました。だから「そうではなくていいんだよ、時代はそういう時代ではなくなっていくよ」という話をよくします。

記者:親子でそういう話しができていることが素敵ですね。

市川:そうですね。娘が「他の親は親と子が対等ではないし、うちは子ども扱いしないからじゃない。」と言ったことがあります。
そういう対等さ、フラットさ、違うことを楽しめる関係性なんですね。その対等さが大事だともよく話してます。
また、子供達には自分はこれだけは絶対譲りたくないというのも持っていて欲しいと思いつつ、でも違う価値観に出会ったら、その譲りたくないものを捨てるぐらいな身軽さでいて欲しいとも思っています。自分の考えに固執して潰されたりしないで、違う価値観に出会ってどうでもよくなったみたいなことも大事だし、さらに一周してそれを取り戻すことも大事だから、そういう取捨選択できる人であって欲しいし、私もそうなりたいです。

記者:同感します。軸がありながらも柔らかさがあることはこれからの時代に必要な事ですね。市川さんはこれからどんな美しい時代をつくっていきたいですか?

市川総天然色の世界が美しいと思います。総天然色なら、それぞれ持つ色があるので、本当にどんな個性でも発揮できると思います。それぞれがその色を発揮して、その色通りの世界ができればいいなと思います。今だと自分は青だと思っても相手は黒になったり、赤になったりしてしまうし、受け取り側の画像が荒ければ、総天然色が16画像くらいにしか見えないですよね。その色通りの世界、ズレのない世界が難なく広がっていけばいいと思っています。

記者:これを広げていくにはこんなのがあったらいいのではと思うことありますか?

市川:そうですね。そういう武装解除する人が増えるというか、どんどん身軽になっていく人が増えていくと良いと思います。今までは大成功してきた人がロールモデル的に時代を創ってきたかもしれません。けれど、これからは色々な人が小さな成功や達成をつくっていく時代だと思います。誰かに影響を与えるのを恐れないことですね。結構真面目な人達は人に影響を与える事を怖がります。一方で実は影響与えることをしたいとも思っています。なので、普通の人達が変わるだけで、もの凄く世界が変わると思っています。あの人は特別だからなどと言ってしまわずに、私にもできる、私もやりたい、となることが広げていく第一歩だと思います。

あるべきものにとらわれてきた人達の鎖を断ち切りたい

記者:これから新たにやりたいことはありますか。

市川:学校の先生をやりたいです。教育ってすごく大事だと思っています。先ほどのAIにもつながる話しですが、教育も学習棄却、アンラーンといって学ぶよりも学んだことを捨てていく事の方が難しいという話しを最近聞きました。学習した事を捨てるのはAIより人間のほうが得意ではないかと思います。アンラーンの様に今までとは違う学びの形ができていくともっと面白いと思います。
私、1、2年前に大学院に通っていましたが、そこは社会人の方が学んでいました。その方が「今まで俺のやっていたことは全く意味がなかった」といいう気持ちになり、ぱーっと開花するのをみました。何歳になっても、こうやってまた無邪気になれるのだと思うと、そういう場に立ち会いたいと凄く思います。
あるべきものに捕らわれてきた人達の鎖を断ち切りたいという思いがあるので。

記者:それは静かな革命家のようですね。

市川:そうです、革命ですね。知らないを知る事が私の今のテーマです。世の中には知っている事と知らない事があって、知らない事すら、知らない事が多い。こんな世界があったんだという知らないを知るという事がその人の伸びしろだったり、可能性だと思っているので、知らないことを知るという事を広めたいと思っています。ポラリスでも「知らないを知る事がすごく大事だよ」という話しをいつもしていて、そうすると「知らなくてすみません」は無くなります。また「知り尽くしてやろう」みたいな、支配する知識欲ではなく、「知らない事を知ろうする事が良い事」だとすると、違いを持っている人と出会う事が良い事となる。そういう考えだったのか、そういう人がいるのか、知らない事に出会えて幸せだなと思う、そういう場にしたいです。

記者:知らないを知るという発想は大事ですね。脳が捕らえる世界はほんの一部分ですよね。

市川:ビジネスをしていても、自分よりも知っている人に託す、自分よりもわかってる人に託すと、上下ができます。けれど、お互いに知らない事を知る人が集まると、共に「知らない事を知るを見つけましょう」となり、それを理解しあえる相手とは凄くいいパートナーになります。
「知らないを知るという領域があるよね」というところから、一緒にやろうという仲間が増えていくと、パートナーシップや、協働という事がビジネスの世界においてもできます。また教育や、人とのコミュニケーションにおいてもフラットなものになっていくと思います。 支配したくもされたくもないんです。 私の性格もあるのかもしれないけど、そういう関係性が上手く作れて、怖くないと思えたら良いと思います。

記者:心地良さ、フラットさ、そして軸がありながらも柔らかさをある、仕事だけではなく、どの関係においても大事なことだと思います。仕事が大好きだと言われる市川さん。お仕事に市川さんの在り方そのもがあらわれていて、美しいと感じました。本日はありがとうございました。

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市川望美さんに関する情報はこちら
非営利型株式会社ポラリス
http://polaris-npc.com

【編集後記】

インタビューを担当した善家、村田、山下です。
市川さんのお話はどれもが興味深く、この記事に載せきれなかったことがとても残念です。お仕事から人間の本質へ向かうようなお話しを聞くことができ、あらためて大切なものは何かを考えました。
これからのご活躍も益々楽しみに、応援しています。
ありがとうございました。

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この時記事は、リライズ・ニュースマガジン”美しいじだいを創る人達”にも掲載されています。

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