第25回ITS世界会議コペンハーゲン2018 Industry Award受賞 西鉄情報システム株式会社 浦正勝さん
ITS(高度道路交通システム)は目には見えにくいですが、私たちの生活を根底から支えているシステムです。ITSが世界的にもまだ普及していなかったころから、日本で先陣を切ってシステムを構築した浦正勝さんのお話を伺いました。
プロフィール
出身地 福岡県柳川市
活動地域 福岡県
経歴 電気メーカ系ソフト会社を経て、1987年西鉄情報システム株式会社入社、主に地方公共交通情報基盤構築・コンサルタントに従事。2006年ITS世界会議ロンドンにて「バスロケーションシステム」を発表。2008年六府省主催の国土交通大臣賞「九州のりものinfocom」を受賞。アジア太平洋地域ITSフォーラム2018の福岡大会実行委員会事務局長を務める。功績が認められ、2018年ITS世界会議コペンハーゲンにて産業界功労賞を受賞。
今の活動および職業 九州IT & ITS利活用推進協議会「QPITS」会長、他、様々なITS関連の会社に顧問として活躍。
座右の銘 人事を尽くして天命を待つ
「父から受け継いだ『武士の情け』」
Q:どんな心の在り方や認識の変化が今の活躍に繋がっていますか?
浦 正勝さん(以下、浦) 親父の影響が大きいですね。親父は「武士の情け」を持った人でした。今で言うなら「許し」というのが一番近い言葉かな。でも僕にとっては「武士の情け」。親父は辛抱強かったですね。誰に非難されても裏切られても許す。本人が気づくまで待つ。その親父のDNAが今の僕に繋がっていると思います。
今の活動は、2000年の西鉄高速バスのハイジャック事件が大きな起点になりました。あの事件は本当に衝撃的でした。危機管理、安全・安心なインフラの構築が早急に求められました。しかも九州全域が対象。当時は今みたいなシステムも全く時代。世界的にも前例がありませんでした。ですから僕にプロジェクトの話が来た時は、全く新しい世界に飛び込むことになったのです。でも僕はその時「ぜひやらせてください!」と言っていましたね。
そうは言ったものの、無いところから立ち上げるのには生みの苦しみがたくさんありました。特にこのプロジェクト自体西鉄内部だけでできることではないと思ったから、他の会社や分野の人たちに声をかけて一緒に取り組むことになりました。その中で意見の衝突、たくさんの非難を受けました。それでも継続してやってこれたのは、人との繋がり、信頼関係のある仲間がいたからです。
信頼関係をつくる上で大切にしていたことは、僕たちがつくったインフラを利用する人たちが喜んでいる顔を想像して、そのイメージを仲間たちに共有することでした。僕たちが取り組んでいるインフラづくりは、目に見えて「すごいモノだね!」と誰もがわかるような商品ではありません。誰も気づかないけど、誰もが当たり前に使って安全・安心に笑顔で暮らせるもの。それが僕たちがつくっているインフラです。そんなみんなの笑顔を仲間たちと想像しながら、つくりあげる達成感を共有することで、深い信頼関係が築けたんです。今でもずっと、その時の仲間との関係性が続いています。
2018年アジア太平洋地域ITSフォーラムin福岡を無事開催できたのは、そんな仲間たちがいたからです。結果としてITS世界会議コペンハーゲン2018で産業部門にて功労賞をいただいたのはアジア人では僕が初めてであり、本当に嬉しかったです。
世の中ってみんな争ったり意見の衝突を繰り返すじゃないですか。自分の中で、その時のわだかまりや感情が消えてないから争いを繰り返します。「武士の情け」は何が起きても許す許さないも超えて、全て受け入れます。争いから学びを得て、次には解決できる自分たちになれるから、その時まで待とうって。常に「武士の情け」は僕と共に在ったんです。
「AIとAIがコミュニケショーンをとる時代がくる」
Q:AIが活躍する時代に必要とされるニーズとは?
浦 AIに関しては色んな問題が出てくると思いますが、特に僕が問題だと思っていることは、AIとAIがコミュニケーションをとる時代がくるということです。これを僕たちは意識に入れる必要があります。
AIが進化していくのは世の中の仕組みとしては当然の話で、今までも自転車がバイクに、バイクがスポーツカーになったりしてきました。AIは変化の速さや効果が増しただけのこと。AIは人間を超えていくとか、人間の仕事がなくなるとか色々言われています。AIと人間はコミュニケーションをとっていくでしょうし、人間がAIと共存共栄するのは必然です。でも今のところ全てAIと人間との比較の話ばかりです。
しかしいずれそう遠くない未来に、AIとAIがコミュニケーションする時がくきます。例えば僕のAIとあなたのAIがコミュニケーションをとるようになるというような。。。そうなるとどうなっていくのか?AIと人間を比較するのと全くレベルの違うことが起きてきます。これはまだ議論されていないんです。それくらいAIの問題は深いということです。
AIとAIがコミュニケーションをとってつながっていく時代を今から意識に入れて、人間自身がどうあるべきか、向き合っていかないといけないのではないでしょうか。
「境界線の無い時代に備えて、共通土台をどう高めていくか」
Q:どんな美しい時代を創っていきたいですか?
浦 これから異なる国の文化が交わったり、お互いに理解し合っていく境界線のない時代になっていきます。その時に、必ず人間は衝突を起こします。それは共通土台がないからです。
人間はそもそもが40%は共通な行動や考え方ができます。だからお互いの見方やちょっとした工夫で共通土台をもっと高めていくことができます。そうすれば衝突することなく、お互いを認め合うことができます。認め合うために、まず相手に関心をもつことです。関心をもって交流すれば、心が通い合って、お互いの中に相手の心が残ります。そんなつながりができたら色んな工夫をして共通土台を高めていくことができると思います。僕はモノや形ではなく、心を相手の中に残していきたいと思っているんです。
僕らが取り組んでいるITSはまさしく共通土台となるインフラをつくることです。さらに今後は交通弱者(高齢者、身体障害者、子ども)が安全・安心に社会に貢献できるインフラをつくっていきたいと思っています。
そして誰もが笑顔で暮らせる社会になっていくと思います。
今を生きる日本の若者に対してメッセージをお願いします。
自分をこの世に産み落としてくれた両親に感謝してください。それだけです。
記者 ありがとうございました。
浦さんが取り組まれてきた誰もが安全・安心に笑顔で暮らせる社会となるためのインフラづくり。それは道路だけでなく、人の心をつないできたことがよくわかりました。
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浦正勝さんの情報はこちら↓↓
facebook:https://www.facebook.com/ura.masakatsu
【編集後記】
今回インタビューをした小水と五十畑です。
ITSを生み育てたといっても過言ではない浦さん。人間はどうしても衝突を起こす未熟さがあります。それも「武士の情け」で全て受け止め、相手に関心をもって心を通わせながら気づくのを待ち続けた姿勢は、全てを抱きしめる大和の心そのものに思えました。
今回、ITS世界会議でアジア人として初めての受賞となったことは、日本の誇りです。ありがとうございました。