“子どもたちの人生を救うために” 日本こども支援協会 代表理事 岩朝しのぶさん

「こどもファースト」を掲げ、自身も養育里親でありながら、様々な問題を抱えた子どもたちを救うために愛の連鎖をつくっている岩朝しのぶさんにお話しを伺いました。

プロフィール
出身地:宮城県仙台市
活動地域:日本全国
現在の職業及び活動:2010年5月5日に設立した日本こども支援協会の代表理事に就き、児童養護施設や里親の支援をしながら社会的養護の現状や里親制度の啓発を活動。
その他虐待防止活動、母子家庭支援、父子家庭支援、育児相談、震災孤児・遺児支援活動を行っている。
奈良県養育里親として11歳の女の子を養育中
座右の銘:「If you want others to be happy, practice compassion. If you want to be happy, practice compassion.」
“もし、あなたが誰かを幸せにしたいなら思いやりを持ちなさい。もし、あなたが幸せになりたいなら思いやりを持ちなさい”  ダライ・ラマ

尊い命を社会全体で守りたい

Q.今、岩朝さんはどんな夢やVisionをお持ちですか?

岩朝しのぶさん(以下、岩朝) 里親とそれを支援する団体が必要のない社会を目指しています。
今は里親を募りながらその数を増やしていますが、そもそも子どもたちが虐待を受けない、暴力で子ども達が怯えて暮らしたり、命を落としたりすることがない社会を目指しています。
それを目指すには、今は里親が必要というだけですね。

保護されて施設に入ってくる子どもはちゃんとした家庭を知りません。
1日3食あるとか、歯を磨くとか、当たり前の生活習慣もない、放っとかれている子ども達が多いです。
大事なのは、子どもが“私は大事にされている”“愛されている”という感覚を日々の暮らしの中で感じて育つことです。
自分の存在価値を感じることができればどこでもいい、里親でも、施設でも。
しかし、施設ようにその他大勢の1人になってしまうと存在価値を感じにくい。施設の先生が一生懸命でも時間がくれば帰ってしまうし、結婚して辞めたり、継続して関わることが難しい。
里親が一緒に暮らして、ご飯を作って“美味しい”って食べる子こどを見守ったり、誕生日に子どもの好きなメニューを作ってあげたりして、“ぼくのこと考えてくれたんだ”“わたしの好きなもの作ってくれたということを感じることが必要なんです。
このように言葉は交わさなくても感じることっていっぱいあると思います。
日々の暮らしの中でそれを感じさせてあげることによって、その子が親になった時に親として同じように子どもを育てることができる。
その連鎖をつくっていきたいと思っています。

記者 子ども達が存在価値を感じながら、育つ環境が大事ですね。

Q.それを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?

岩朝 ちょっとずつ、ちょっとずつ虐待のない社会の実現を目指してやっています。私が生きている間には無理だと思いますが、次に繋がる世代を作っていくことはできる。
それが今の私の役割なのかなと思っています。

今、日本にいる社会的養護が必要な45,000人の子ども達が自分達がされたことを繰り返さないように、愛情を注いだり、社会システムや環境を整えていくこと。

そうした理想の社会の実現への流れを作るしかないと思っています。
生きている間にできるのは見通しを立てること。3世代・4世代先になった時には今の3分の1くらいになるという見通しができるような流れを作りたいと思っています。

記者 未来の理想を見据えて、今を動かれているんですね。

Q.その目標や計画に対して、日々どんなことを大切にされていますか?

岩朝 私も里親なので、今見ている子のママであることを最優先にしようと思っています。もしこの子をないがしろにして、「子ども達を救ってください」と言ったら“なんやねん”ってなるじゃないですか。
言ってみたら血縁なんて大事じゃなくて、確かな信頼関係が大事なんです。
何があってもこの人は自分を見捨てないという絶対的な安心感が大事。
子どもは私と血が繋がってないことを知っているけど、「そろそろ繋がっていると思う」と言ってくれ、感動しました。
いくら結婚してずっと一緒にいても血が繋がっているとは思えないのに(笑)
血が繋がっているくらいの確かな信頼関係、母として絶対に子どもの盾になるということを感じてくれている。
もうこの子は大丈夫って思う瞬間ですね。
この子が親になって子どもを育てる時には、私に育てられたように育てていくと思う。
この子に愛の連鎖がちゃんとできたなと思っています。

里親をやることによって“里親自身の人生も豊かになるんだよ”というの伝えたいなと思っています。

私自身、子どもを産んでないのにこんなに楽しい人生にしてもらってありがたいことです。本当に私の方が与えられているな、人生収入を頂いているなって。私の人生は間違いなく豊かだなと思います。

記者 人生収入っていい言葉ですね。

Q.里親支援をやろうと思ったきっかけは何ですか?

岩朝 私は子どもが産めない病気を持っているので里親になったんです。
1番最初の子どもが5歳の女の子だったんですけど、1ヶ月経って親が急に「返してくれ」と言ってきて、親権は向こうが持っていたのでその日のうちに返すことしかできませんでした。その時に、
「これって大丈夫なの?」
「こんなことがまかり通っていいのか」と思いました。

私1人が里親になって養護が必要な子どものを預かっても対処法でしかない。
そもそも養護が必要な子どもができないように根本的に解決しなきゃいけないと思ったので、初めは既存の団体に私が加勢できたらいいなと思いました。
しかし、根本的解決を目的としているような団体がなかったので、自分が立ち上げるしかないと思ったのがきっかけです。

いつ死んでもいいくらいの気持ちで精一杯全力で生きていこう

Q.どうしてそこまでの意志を持つことができたのですか?

岩朝 私は小学校4年生まで病院で暮らしていたような状態だったので、周りの小児がんや胆道閉鎖の子ども達などが次々に亡くなっていくんです。
死が近づいてることが分かっているけど、どうすることもできない。
いつお別れするのかわからない気持ちで毎日遊んでました。

私が入院中の18歳の時に亡くなった幼い命があった。私は何とも言えない気持ちで1日中、屋上で泣いていました。亡くなっていく子たちをどうすることもできない気持ちを抑えられなくて。

でも、私は生きている。その子が亡くなってすごく辛いのに、お腹は空くんですよ。ご飯を食べながら涙が溢れてくるんです。
生きてるのが申し訳ない、どうすることもできないし、すごく辛い誕生日でした。その時、“絶対に自分の命を無駄にしないで生きていこう”と決断しました。

記者 そう思えたのはなぜですか?

岩朝 
生きていけない命がある。
生きてることは当たり前じゃなくて、生きたくても生きていけない命があって、
助けたくても助けられない命がある。

子ども達の親が亡骸にしがみついて、半狂乱になりながら泣きじゃくる姿を見て、「代われるもんなら代わりたかった」と言うんです。

「なんでうちの子なの?」
「私が代われたら…」って。

私の母もそうだったんですよ。
私が「痛い、痛い」と言っても親はさすってあげることしかできない。
つきっきりでも何もできないし、病気を治してあげれない。母は「代わってあげられなくてごめんね」と。だから、頑張ったら何とかできたんじゃないか、救える命があるんじゃないかと思うと見過ごせなくなって、

里親になってみて虐待問題などリアルな実態を目の当たりにして、社会が救えた命がたくさんあると思ったんですよ。

里親になったきっかけは自分が子どもを産めない体だったということからでしたが、だんだんと事実を知ってしまったからには知らないフリしてご飯を食べれないわけですよ。
やるしかない。
やらないで自分の幸せはあり得ない。
今でも、8年間活動してきたのに虐待でなくなっていく子どものニュースを観ると、「私は何が出来ているんだろう」と、心が折れそうになる時もありますが、でもこれからの8年間も同じような思いはしたくないので、一生懸命やるしかないと思って全力でやってます。

ただ私だけが全力でやっても意味がないので、みんなが全力でというのはさすがに求めませんが、せめて1日の中の10分、もしくは一生の中のほんのわずかな時間をみんながちょっとずつ出してくれることによって、あの子たちは死ななくてもいいじゃないかなって思っています。

また、命だけを救っても無責任だなって思ってます。
うちの子ももし施設に入っていたままだったら、今でも親を殺したいって言ってるかもしれない。
そうすると生きてるだけで人生を失ってるわけなんですよね。
私は病気で生まれましたけど、今はこんなに幸せに生きてる。
どんなスタートであっても、子ども達にチャンスがあれば人生を豊かに生きていくことが出来る。
そのチャンスをあげたい。
私たちしかチャンスをあげることはできないので、何とか子ども達に人生を取り戻してほしい。

記者 頑張ったら何とかできたんじゃないか、そう思ったらやるしかないですよね。

記者 最後に読者の方へのメッセージをお願いいたします。

岩朝 もしこれを読んで何かしたいなと思っていただいたとしても、思っているだけでは何もしてないのと同じなので、何でもいいから行動を起こしてほしいですし、社会に向けて立ち上がってほしいなと思います。
例えばこの記事のシェアだったり、ほんの3秒あったら出来ること。
私たちに寄付していただくことでもいいですし、何もできないという事はないと思うので、出来ることを何かして欲しい。
そのまま通り過ぎないで欲しい。

記者 岩朝さん、今日は本当にありがとうございました。

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【編集後記】
今回インタビューの記者を担当したCallingerの帆足と中村です。
岩朝さんがご自身の経験から里親支援に出会い、活動されているストーリーを聞かせていただきました。岩朝さんの目から溢れ出る涙を通して、子どもに対する強く優しい想いや無条件に愛されるはずの命が傷つけられてしまう社会に対する悔しさ、活動に対する懇切さを感じました。
1人でも多くの子どもたちの命が豊かに育まれる社会の実現を願っています。

岩朝さんのこれからのご活動を応援すると共に楽しみにしております。

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