再生可能エネルギーシフトへの革命家 ISEP環境エネルギー政策研究所所長 飯田哲也さん

 再生可能エネルギーへのシフトを先導するオピニオンリーダーの飯田哲也(いいだてつなり)さんに、現代のエネルギー問題と未来へのビジョンについてお話をお伺いしました。

飯田哲也さんプロフィール
出身地:山口県
活動地域:東京都、全国及び全世界
経歴:原子力関連業務に従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動の後、現法人を設立。FIT法の起草、市民風車やグリーン電力証書の仕組み作り、おひさまファンドの設立など数々の社会イノベーションを立ち上げつつ、中央環境審議会、総合資源エネルギー調査会、東京都環境審議会など国や自治体の政策審議委員を歴任。
現在の職業及び活動:認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長。自然エネルギー政策のオピニオンリーダーかつ日本を代表する社会イノベーターであり、日本政府や地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。
主な著書:『エネルギー進化論』ちくま新書、『エネルギー政策のイノベーション』学芸出版社、『北欧のエネルギーデモクラシー』新評論。共著『「原子力ムラ」を超えて~ポスト福島のエネルギー政策』NHK出版、『原発社会からの離脱—自然エネルギーと共同体自治にむけて』講談社現代新書、『今こそ、エネルギーシフト』岩波ブックレット。訳書『エネルギーと私たちの社会』など多数。
座右の銘:
「未来は予測するものではない。選び取るものだ。」(デンマークの恩師のことば)

量の豊かさから質の豊かさの時代へ

Q思い描いている夢ビジョンを教えてください。
飯田哲也:(以下、飯田。敬省略)

私には原点となるベンチマークが2つあります。一つは私は原子力エネルギーの世界で仕事をしていましたが、そこは、「原子力ムラ」と私が名付けた閉塞した世界でした。組織の上に行くほど、中心になるほどダメな状態になっている実態を見ました。20代で見切ってしまった。そのため、「原子力ムラ」から飛び出す決断をしたのです。さらに、国外に飛び出して北欧スウェーデンに渡航しました。
ドイツのような大国ではないスウェーデンですが、国は小さくてもいろいろな意味で極めてレベルが高いと感じました。例えば、日本では数十万人規模の都市でも中心市街地にシャッター街が広がっていることも少なくありませんが、北欧は人口が数万人の規模の町であったとしても文化的にも豊かに暮らせることができ、一人当たりGDPも高く経済力もあります。
 一人一人が自分の頭で考え、創造性を発揮して、それを論理や科学だけでなく、カルチャー、アートも活かして、何かを生み出す力が優っているというに気づいたのです。これがもう一つの、対称的なベンチマークです。
1990年代には、日本のGDPは世界第2位という凄まじく量的な成長をしてきたといえますが、質的な成長・成熟を置き忘れたのではないでしょうか。だから今では一人当たりGDPでは、北欧よりもかなり低くなってしまっています。
環境運動をされている人の中には、「経済成長することはだめだ」と主張される方がいて、経済成長至上主義の政府や産業界を真っ向から否定します。。“成長”VS“ アンチ成長”の対立です。私は、マネーだけの成長は間違いだけれども、質的な豊かさを充実させることが必要だと思っています。物質の大量消費ではなく、リサイクルや循環していく形態にしていくことです。“成長”よりも“発展”させていくという発想が必要です。SDGs(持続可能な発展目標)が世界中で注目されているように、今は、世界がバランスの取れた持続可能な発展に向かい、パラダイムが完全にシフトしています。その中でも、エネルギー転換は期待される変化が加速度的に起きています。世界規模のエネルギー投資は、石炭や石油よりも再生可能エネルギーへの投資が上回り、既に逆転しています。太陽光と風力が指数関数的に増大して主力電源になりつつあります。
しかし、再生可能エネルギーが急速に増えていく一方で、さまざまな問題も発生してきています。これまでの再生可能エネルギーの導入は”全てが善”だという時代は終わり、これからは導入の”適切なあり方”が問われることになるでしょう。基本は、地域の多くの方々が参加できるようなコミュニティー規模で実施する分散型システムを普及させたいと思います。自然エネルギーは、そもそも供給量が変動しますし、需要も変動していきますので、これを繋いでいくためには、たいへん細やかに調整が可能となるシステムを必要としています。それを解決していくためには、電力だけでなく熱エネルギーも含めて、相互に往来して融通させていくような”地域熱電併給システム”の普及なども重要になるでしょう。

外なる有限から内なる無限へ

Q夢ビジョンをどのように具現化していくのですか?
飯田:これまでの自らの“領域”と“国境”の殻を破って、感じ取っていくことが必要だと思います。まずはゲリラ的に”点”を創りたい。いくつかの自治体でリーダー的人材が北欧に行き、交流して空気を感じ取るということをしていくようなことです。その時は、エネルギーだけでなく、教育とか文化とかアートという横の広がりを持ちながら、地域の豊かさを一緒に考えながら創り上げていきたいと思います。
デンマークには、フォルケホイスコーレという国民高等学校があるのですが、そこで行われているのは、人間のクリエイティブな能力開発でした。デンマークはドイツとの戦争に負けて領土を奪われた経験から、「外なる有限ではなく、内なる無限を目指そう!」という合言葉で、教育に力を入れたのです。北欧の荒れた土地を耕すように、人間の能力を上げることに力を入れた。教育による土台作りが重要です。
日本においても、これまでの偏差値いくらという教育から、全く新しいタイプの教育が必要になっています。それは違った価値観を持った人がいかにチームを組んで一緒にできるのかとか、率先してできるのか、どういう役割にしていくのかというように、お互いの違いを活かして協力する力を身に付ける必要があります。
街が活性化していくためには、街がさまざまな人を受け入れ、外の刺激を受けることができるいわゆる“よそ者”が必要だと思いますが、“よそ者”が住みやすい街の在り方にしていく必要があります。例えば、ほどよい暖かさのコミュニティーというようなものです。田舎だと関係性がべたべたしていて、一歩間違えれば排除されてしまうような「熱すぎる」ところがある一方、大都会だと関係性が冷たすぎて、みんなが阻害されてしまうようなところがあります。

Qどんな認識の変化によって今の活動を行うようになったのでしょうか?
飯田:ベンチマークとしてネガティブな閉塞する社会を見てしまったことが大きいですね。それとポジティブな北欧の進んだ世界を見たことです。この二つの基準があることが大きいですね。これによって、全体を対局的、俯瞰的にみるようになりました。

人の意志と「エネルギー」の結集が未来を創る

Q本当に豊かな社会とはどんな社会なんでしょうか?
飯田:日本では、本当の意味でのデモクラシーが遅れています。
エネルギー問題の検討においても供給サイドからの視点が強く、需要サイドからの視点が弱いです。供給者からの視点だけで、消費者目線になっていないのです。デモクラシーとは、一人一人が尊重されていること、多様性、マイノリティー、弱者が尊重されていることが必要です。一方的ではなく、双方的になる必要がある。多数決がデモクラシーではありません。
また、外の世界に価値を生み出していくと同時に、内なる規範やモラルを一人一人が持つことも大切だと思います。社会の中心部のモラルが腐っているように思います。そのためか、現代の日本はたいへんノイジーです。嫌韓、嫌中でヘイトスピーチをしたり、スキャンダルが起こったり、株価が上がったり下がったりして騒いでいる。無駄ばかりしています。一人一人が、意識やエネルギーを本質に集中させて価値を生み出し、心の底から豊かだと感じられる社会にしたいです。タコ壺に入らず、お互いに尊重して協力しながら社会を創り上げられるようにしたい。穏やかで過ごしやすい社会にしていくイメージがあります。
これからの人たちには、もっと自分の領域や国境というような境界線を越えて行ってもらいたいですね。そうすれば、素晴らしい経験ができると思います。「未来は予測するものではない。選び取るものだ。」という恩師からの言葉があります。今に至る自然エネルギーの進展は、コンピューターのシミュレーションでは予測不可能だったものです。それが可能になったのは、多くの人たちの意志と「エネルギー」が積み重なった結果です。
 無数の人々の意志と「エネルギー」が積み重なっていけば、素晴らしい未来が切り拓かれていくのではないでしょうか。

記者:今日は、エネルギー問題から始まり、地域を豊かに、こころを豊かにしていくところまで“領域を越えて“お話をお伺いすることができました。飯田さんの「穏やかな社会」に向かって革命を起こしていく熱い情熱に感動しました。
今日は、貴重な機会をありがとうございました。

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飯田哲也さんの活動、連絡については、こちらからどうぞ!
↓↓↓
【ISEP認定NPO法人環境エネルギー政策研究所HP】
https://www.isep.or.jp/

【Face Book】
https://www.facebook.com/tetsunari.iida

【編集後記】
飯田哲也さんのお話を通して、結局は一人一人の意識と「エネルギー」が重要なんだということを改めて理解できました。誰もが意味や価値あることに集中していくことで、みんなが豊かさを受け取っていける。それがデモクラシーということでもあると思いました。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!

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