教育X クリエイティブの越境で、新しい学びとCreativeの可能性を探る/一般社団法人 Learn by Creation 代表理事 竹村詠美さん

ビジネス業界で活躍された後、スタートアップPeatixを共同創業し、現在は創造性溢れるライフロングラーナーを育てる教育文化作りやSTEAM/PBL教育を中心テーマに活動されている一般社団法人 Learn by Creation 代表理事 竹村詠美さんにお話を伺いました。

竹村詠美さんプロフィール

出身地:大阪府

活動地域:日本各地

経歴:1990年代前半から経営コンサルタントとして、日米でマルチメディアコンテンツの企画や、テクノロジーインフラ戦略に携わる。マッキンゼーを卒業後、エキサイト、アマゾン、ディスニーといったグローバルブランドの経営メンバーとして、消費者向けのサービスの事業企画や立ち上げ、マーケティング、カスタマーサポートなど幅広い業務に携わる。2011年にアマゾン時代の同僚と立ち上げた「Peatix.com」は現在27カ国、400万人以上のユーザーに利用されている。現在は、創造性溢れるライフロングラーナーを育てる教育文化作りや世界レベルのSTEAM/PBL教育を中心テーマに活動中。小・中学生二児の母。慶應義塾大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクール・ローダーインスティチュート卒。

現在の活動:「創る」 から学ぶ未来を考える祭典、Learn X Creation 事務局長、教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed 」日本アンバサダー、Peatix.com 相談役、総務省情報通信審議会、大阪市イノベーション促進評議会委員、Fresco Capital インパクトパートナーなども務める。

座右の銘:「継続は力なり」

「創るから学ぶ」体験を通して子ども達の可能性を切り開く

Q:竹村さんの描く夢やビジョンをお聞かせください。
竹村詠美さん(以下、竹村):
2019年8月に「創るから学ぶ」をテーマにしたLearn X creation(ラーン バイ クリエイション)というイベントを2日間に渡り開催しました。このイベントは一時的なお祭りで終わるのではなく、新しい学びのムーブメントの発信基地となることを目指して始めたイベントです。

「創りながら学ぶ」という学びの文化が当たり前となることで、子ども達の個々の可能性を切り開きたいと思っています。「つくる」というと、日本人はものづくりと思いやすいですが、それも内包されたアイデアを出すことや絵を描くことも「つくる」ことかもしれない。仲間と協働してもいいですが、自分で考えてアウトプットをしていくことを総称して「創る」と言っています。

「創るから学ぶ」という文化を先生も子どもと一緒に楽しみながら出来る、草の根からですが上から下にその様な文化を創ることは難しいので、ボトムアップで各コミュニティーや学校や地域で少しずつ盛り上がっていくことで、点が線や面になって分厚くなり、時間がかかる世界だと思いますが、10年後には景色が大分違ってくることを願っています。この活動に賛同頂ける方が年に1回集まり、全国で孤軍奮闘されている方達が実践されていることを共有し、互いにインスピレーションを受けて元気になって帰って行ける様な場として始めました。

Learn X creation 2000人の参加者と250人のボランティアスタッフで開催

Q:活動の今後の目標や計画はどの様なものですか?
竹村:現在の活動の先駆けとなる、上映会の活動を3年前から始めて来ました。映画「Most Likely to succsed」は、「人口知能(AI)やロボットが生活に浸透していく21世紀の子ども達にとって必要な教育とはどのようなものか?」をテーマにしたドキュメンタリー作品です。現在も42都道府県で400回以上の上映会が開催されています。

今年8月に開催したLearn X cleationには2日間で2000人の参加者と、250人のボランティアスタッフの皆さんが集まってくださり開催することができました。来年も開催して欲しいという声を多くの参加者やパートナー、登壇者の方々からも頂き、2020年の開催に向けて準備しています。

このイベントは、新たに設立した社団法人SOLLAという団体で、現在4名の理事がイベントの事務局となり運営しています。イベントの他にも、海外の登壇者の先生方と教員研修も実施しています。

届けたい人にとって、良いものなのかを徹底的に考え続けていること

Q:竹村さんの活動指針はどの様なものですか?
竹村:
活動指針としては「自分のフィルターを通して良いと思う活動を、国内外の垣根を超えて紹介していきたい」ということです。本質的に教育の課題に向き合っている方を積極的に紹介したり、尊敬する先生方と一緒に研修を組み立てることを心がけています。

元々会社の事業やPeatixのサービスを立ち上げる際に感じたことですが。息が長く成功するサービスやプロダクトは、創り手が心の底からこれは良いものになるとある程度自信を持って創り、プロデュースしているものです。

そこは魂が入っているかどうかで、結果が分かれてくるということを色んなことで体験して来ましたし、業界は関係ないと思います。そこは数字やロジックだけでは説明できないところではあります。

もう一歩掘り下げて表現すると、届けたい人にとって、これが良いものなのかどうかを徹底的に考え続けていることだと思います。魂が入っていないものは、ユーザーにとっていいものかどうかよりも、売上やスポンサーの方が大事なってしまう。届けたいものが明確で、コミットしていたらある程度の犠牲は払えると思います。

教育という硬直したシステムを変容するお手伝い

Q:竹村さんが現在の夢やビジョンを描くきっかけはどの様なものですか?
竹村:
「創るから学ぶ」というコンセプトに行き着いたのは、中心になった事務局メンバーと話し合いを重ねたことです。そして、私自身は元々STEAM教育という教科横断型のリベラルアーツ教育に3年程前から関わり、講演なども行っていました。夏休みに子ども向けのSTEAMキャンプを開催したり、海外のカンファレンスで学んだ STEAM 教育の最前線を伝えたり、STEAM 教育の理解や楽しさを広める活動を行なっていました。

その中でSTEAM教育自体だけにフォーカスをあてても学校教育や子ども達の学びの環境が良くなる気がせず、より根底にある学びの文化を揺さぶる大きなコンセプトが必要だと思う様になりました。
プログラミングやロボットといった特定の分野では自分自身が役に立てることはあまりないなと思い、それよりは教育という硬直化した仕組み、システムを変容するお手伝いをできないかと私自身の考え方も進化して行きました。

私が「創るから学ぶ」にコミットしてるのは、大人も楽しめるコンセプトでもあるからだと思います。教育は、教員は聖職だから子どもの為に犠牲を払う様な日本の文化がありますが、それはナンセンスだと思います。先生も成長しながら子どもと一緒に学ぶことを体感していないと、疲弊してしまいます。先生のウェルビーイングを考えると、先生自身も人間的に成長できる様な学びの環境が絶対に必要だと思います。

先生の成長という視点も考えると、外の風を入れながら、クリエイティブな人たちや保護者など、いろんな人と授業を創っていくべきだと思います。学外の人たちにとっても、子ども達の学びに関わる事で様々な学びがあると考えています。また、結局将来を背負うのは子どもたちなので、子どもに関わるということは自分の未来に投資するという事とイコールのはずです。そういうことにも共感できる人が増えるといいなと思い活動しています。

Q:ここからは、竹村さんの生い立ちとも繋げて「教育」について掘り下げてお聞きしたいのですが。
竹村さんのご両親の教育はどの様なものでしたか?
竹村:
私は医系家族に生まれ、どこを見ても医者ばかりの環境で育ちました。ロールモデルが医者や看護婦さんや薬剤師さん以外にいないクローズドな世界だったので、逆に私は世の中に興味を持ち、小学生の頃から留学したいと思っていました。

大学3年生の時にアメリカに留学し、当時海外に行って気付いたことは「自分を認めてもらうことは努力が必要なんだ」ということでした。どうしたら大勢の中の1人ではなく、自分を個として見てもらえるのかすごく考えるようになりました。海外に行くとポジティブに自分を追い込む経験になるので、海外に行った経験は、人生の節目として大きな経験でした。

Q:竹村さんはこれまでアメリカ、イスラエル、イタリア、韓国の先端的な教育事情を視察したり、フィンランドやオランダの教育についても学んだそうですが、その様な経験から日本の教育の現状をどの様に見ていらっしゃいますか?
竹村:
日本の年功序列で形を重んじることも良いことは沢山あると思いますが、システム化され硬直的になり過ぎていることが、今の日本の最大の課題だと思います。そこと個々の創造性を発揮することのバランスを、もう少し取っていく時代なのではないかと思い現在の活動を行っています。

日本の教育は自分を知る機会が少ないと思います。外が決めた基準の中で生きている感じがするので、だから社会に出て病んでしまう人が多いと思います。

少なくても色んなコミュニティがあるので複数顔を出すと、いくつかの自分を引き出すことができます。
そういう意味では学校に行っている子どもが一番可哀想だと思います。学校はとてもクローズドな環境で、中学になると部活で朝から晩まで学校の中にしか居ないですよね。外から人も滅多に来ないし、硬直した人間関係で、ロールモデルの大人は先生しか居ない環境は非常に特殊で人工的な環境です。なので、社会の色んな人が学校に来て風穴をあけることが大事だと思いますし、部活を強制せずに外のイベントも沢山あるので行ける様にしたり、もう少し人が年齢に関わらず循環する社会になっていった方が良いと思います。

希望がない時代。それは自分で創り出し、編み出せる経験と自信がないから

Q:最後に、竹村さんはAI時代のこれからの未来、日本社会がどのように変化していくと思いますか?
竹村:私は基本的には、大企業中心で社会が動く時代は終わったと思っています。資本はあっても変化への対応が遅すぎると機能不全に陥りやすい時代ですし、社会の持続可能性を考えると、より産学官民が連携して社会を共に創る方向性に向かわないといけないと考えています。
ビジネスについては、中小企業だけでなく、より個人がエンパワーされていく時代になっていくと思っています。スタートアップやフリーランスの様な、起業マインドのある人が増えてくことは大事だとあらゆる場所で言われる様になってきましたが、無料で使えるサービスも多いので、学生の時からどんどん色々なビジネスを立ち上げる子ども達が増えていくと日本も元気になっていくと思います。

折角、インターネットというテクノロジーと今はAIも出てきている中で、個人がすごくレバレッジが効く時代になっているのに、使わないのは勿体ないと思います。

日本は中小企業が数としては多いですが、系列構造など繋がりで生きている中小企業が多いため、スタートアップ的な文化で新しい業界を生み出していくパワーのある企業はまだまだ少ないと思います。アメリカの方が大企業が寡占している分野もありますが、業界構造を覆してしまうスタートアップも多く輩出する文化や資金調達のできるエコシステムがあります。

真逆の話をすると、AI 時代は逆にテコが効く分 GAFA が取りざたされる様に富が一極集中しやすくなっています。日本は日本語と言う壁で市場がある程度守られていますが、自動翻訳の精度も上がっている中いつまで続くか分からないですし、個人が自分で食べていける、自分で何か事を起こせる力を付けないと会社は守ってくれない時代だと思います。

今はまだ日本には大企業が沢山ありますが、もしかしたら10年後には多くの企業が中国やインドに買われているかもしれないですよね。そうすると多くの日本人は、外資系企業子会社の社員になります。ブランド名は日本企業に見えても経営の文化が中国やインド、アメリカの場合、終身雇用はまずないでしょう。10年後には大企業に勤めることが理想の就職でない可能性も大きいと考えると、人生の選択肢をつくれる人になりたいですよね。

オリンピックという明るい話題もありますが、社会や経済としては希望を感じさせないニュースや統計調査を沢山見る時代です。でも自分で何か生み出せると思うと、見通しが暗くてもチャンスを見出せたり、自分なりに幸せに生きる道を見つけられると思うのです。幸せは年収や就職先のブランドに依存しないと思います。

そんな時代だからこそ、「創りながら学ぶ」という体験を通じて自分で何かを創り出し編み出せるという経験と自信を、子ども時代から育んでいくことが必要だと思います。

記者:本日は、貴重なお話をありがとうございました。

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竹村詠美さんの情報はこちらから

一般社団法人 Learn by Creation (ラーン・バイ・クリエイション)
https://www.main.learnx.jp/

一般社団法人 FutureEdu
http://www.futureedu.tokyo/

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【編集後記】
今回、記者を担当しました久保、牧野、目黒です。
竹村さんとの出会いは、映画「Most likely to succed」の上映会でした。今回お話を伺い、竹村さんの生い立ち、国際的な視野、そして様々な業界でのご経験を通して、未来を見据えるシャープな視点にとても刺激を受けました。これからのAI時代に子ども達が「創りながら学ぶ」という経験を蓄積していく必要性を感じ、竹村さんのこれからのご活躍を心から応援しています。
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取材:久保真弓、牧野祐子、目黒秀綺
撮影:目黒秀綺

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