円満な離婚の道をお手伝い 家族のためのADRセンター 離婚テラス代表 小泉道子さん
3組に1組は離婚すると言われている現代の日本。沢山の家族と向き合う事を通して、円満な離婚の道を作っていくADRセンターを開設。法律の専門家として一人一人の心と向き合いながら、新しい未来を共に創られている小泉さんにお話を伺いました。
プロフィール
平成14年4月 家庭裁判所調査官補(国家公務員一種)として採用
以降、各地の家庭裁判所にて勤務
平成29年3月 東京家庭裁判所を最後に辞職
平成29年4月 家族のためのADRセンター離婚テラス設立
初期段階のアドバイスってこんなに響くんだな
記者 どうぞ宜しくお願い致します。
小泉 道子さん(以下、小泉) どうぞ宜しくお願い致します。
記者 今のお仕事を始められたきっかけを教えてください。
小泉 前の仕事は家庭裁判所調査官という仕事をしていました。ある意味天職だと思うのですが、募集を見て「これいいな」と思って決めたんです。大学の専門は法律でも心理でもなかったのですが、やってみたい仕事だと思って頑張って勉強しました。
家庭裁判所調査官の仕事自体は、とてもやりがいがありました。普通の大企業みたいに色々な部署に回される事もなく、家庭裁判所に来た問題について集中できる調査職だったので、職人的でしたね。ただ、凄く大変なところもいっぱい見てきました。
例えば離婚問題の10分の9の方達は協議離婚といって、ご自身達で離婚届を提出して協議離婚で終わりなんです。弁護士さんが間に入っている事もありますけれど。ですが残りの1割、この方達が家庭裁判所に来られるのですが、非常に揉めているんです。
家庭裁判所の特徴として、お子さんが裁判所に来る事、それがひとつあると思うんですね。お子さんの気持ちを聞くような調査ですとか、直接ご自宅に行って家の様子や、家の中で行われる親と子供のやり取りを見せて貰ったりとか、そういうのを見て親権者はどっちが適切なのか、監護状態は良いのかなど、そういう事を裁判官へ報告するんです。
ただ家庭裁判所に来る時には皆さん闘争モードになっています。最近は弁護士さんが付いている事も多いのですが、弁護士さんってどうしても仕事の職業柄、その人の最大限の味方であり、勝ちを勝ち取るような役割なので、穏やかな解決や譲歩して上手くやっていくとか、そういう方向性じゃないんですよね。そうすると徹底的に争うので解決も長引くんです。それこそ裁判所で一ヶ月に1回くらい調停があるんですけど、見る度に顔色が悪くなってきて「鬱になりました」「入院しました」「仕事辞めました」みたいな、そういう方がおられたりですとか、それが子供に影響して学校に行けなくなっちゃったりとか。親の大変さに子供が巻き込まれているのを見ると、何とかならないかなと思うんです。
こちらとしては色んなアドバイスをするんですよね。例えば「お子さんにとって親は親ですよ」と。「子供ってお父さんとお母さん、半分ずつで出来ているから、子供の前でお父さんの悪口を言うのは、お子さんの半分を否定する事になるんですよ」とかそういう話をするんですけど、もう聞いてくれないですよね。家庭裁判所に来る頃には、もう色々なものが出来上がっていて、中々聞いて貰えない事が多々ありました。
そんな中「私は子供の為に父親に会わせます」って言い切ったお母さんがいたんですね。それまでは凄く頑なな方だったので、「この方、何でこの点だけ柔らかいのかしら?」と思って聞いてみたところ、「離婚カウンセラーに相談に行った時に一番最初にそう言われた」と仰ったんです。その話を聞いて初期段階のアドバイスってこんなに響くんだなと、とても実感したんですよね。その事を通して「(離婚問題に直面している)残りの9割の方達ってどうなっているのかな?」とか「そこでのサポートってどういうものがあるのかな?」と思ったのが独立を考えた第一歩でした。そこは夢や目標というよりは、興味に近かったと思います。調査官の仕事自体はとても素晴らしい仕事で、やりがいもあるし良い仕事ですが、私としては、離婚前後の子どもの福祉にかかわる仕事であれば、1つの仕事にこだわる気持ちはありませんでした。色々な時期が重なって、そろそろ新しい仕事をしようかなと思った時に、ずっと思っていた9割の方達への興味関心というか、何か出来る事あるかな、と思う中で出会ったのがADR(裁判外紛争解決手続)だったんです。
ADRとは?
記者 ADRとは何でしょうか?
小泉 ADRは、Alternative Dispute Resolutionの略で「裁判外紛争解決手続」です。裁判ではなく、民間の専門家による解決を目指すものになります。
例えばADRの認証制度というのがあります。ADR法に基づき、法務大臣が認証を与えた機関のみが、認証機関として法的な問題も含めて扱う事ができるのですが、その認証をとるのが結構大変でした。個人事業主として、全国初で認証を取ったんですが、規定という手続きを進める上でのルールブックのようなものを作成するのですが、それがとても大変でした。準備は色々と大変でしたが「自分にできるのはこれかな」と思いましたし、やる中でADRを選択された方の満足度や納得度が、裁判所で触れ合っていた方達と非常に違い、その違いに愕然としたんですね。「こんなに違うものなの?!」というのがとても分かってきて、そこからより力を入れてADRに取り組むようになりました。
記者 どう違ったんですか?
小泉 裁判所で行う調停というのは話し合いの段階なので、決めるのは当事者なんですね。家庭裁判所という場所を借りて、調停委員という人の力を借りて、当事者が話し合いをするステージなんです。ですが自分で合意したはずなのに、「決められた、合意させられた」という他責な感じが強かったように思います。決め事も中々守られなかったり。そういうのが残念だなと思っていました。一方ADRの方は、申立人は自分が話しあいたくて申し立てるのでニーズがあるのは当たり前なのですが、相手方は話し合いに消極的であることも多いです。ただ、そんな中でも、解決しなければならない問題があることは認識されていて、話し合いの場が提供されると、積極的に取り組んでくださる方も多いように思います。ADRを終了した後に、納得の上で合意した、次に向かえるという内容のメールやお声をいただくことが多かったんです。こういう感覚で終われるというのは、次に向くための終わり方として凄くいいなと思ったんですよね。
目標はただ一つ。ADRを世に広めること
記者 今、目標にされている事はなんでしょうか?
小泉 目標はただ一つですね。「ADRを世に広める」ということですね。私は今相続とか離婚とか、家族の問題を扱っていますけれども、ADRには他にも色んな分野があるんですよ。固い分野もあれば、柔らかい分野も色々あって。少し大きな話になりますけど、貧困の問題とか不幸の元というのは、選択肢の無さだと思うんですよね。例えばシングルマザーの方達の中には、色んな情報を知らないので、選択肢がないと思われている方がいるんです。例えば「とにかく別れたいから養育費もいらない」と言って別れたからもう貰えないと思っていたり、お金に困っているから子供を大学に行かせられないとか。それは色んな選択肢を知らないからそうなるんですよね。実は養育費というのは後からでも貰えたり、大学に行くにしても色んな補助金や返さなくていい奨学金の制度があるんです。
本当は色んな選択肢があるのに、情報をキャッチできなかったり知らないから、貧困の方向に行ってしまう、というのがあると思っています。ADRが向く人、向かない人、向く分野、向かない分野、色々あるので、とにかくその選択肢の一つとして、認知して貰えるようになる事。それが一番の目標ですね。
記者 ADRには色々な分野があるんですね。知らなかったです。
小泉 そうですよね。多分知らない方がいっぱいいらっしゃると思います。例えば福島の原発問題の保障もADRだったんですよね。決裂しちゃいましたけれども。他にも医療過誤のADRや敷金礼金の返還のADRがあったりですとか、保険のADRなど、結構色々あるんです。
記者 実はとても身近なものなんですね。
小泉 そうなんです。すごく身近なものなんですよね。日本はそんなに進んでいませんが、アメリカですともう少しメジャーだったり。日本でも本当は風土的には合うはずなんですよね。昔から村長とか、村の有力者がきっとやっていたはずなんですよ、そういう仲裁とか。どちらかというと、争いを嫌ったり、出るとこ出て白黒つけようという国民性ではないはずなんですよね。なので本当はぴったりくるはずだと思っています。実際「あんまり公に争いたくはないんです」とか「穏便に済ませたい」ということでADRを選ばれる方が結構いらっしゃるんです。
記者 もっと皆さん知っていれば、身近に相談しやすいですね。こじらせる前に。
小泉 そうですね。こじらせる前にがとても大事ですね。
記者 ADRを広めていくという目標の中で計画的にされている事はありますでしょうか。
小泉 以前から行っている事としては、行政への働きかけです。家庭の小さなお悩みというのは、意外と行政機関が受けている事が多いんですよね。男女共同参画センターが色んな区にありますが、そこの機関がDV相談を受けていたり、お子さんがいる方だったら区役所の子供家庭課、一般の主婦の方達は行政の相談窓口に行かれる事が多いんです。行政の窓口の相談役の方って実はもの凄く大事な役割だと思うんですよね。色んな相談が来る中で正しいところに振り分けていくという能力が必要なので。本来そこで「あなたはADRですね」とか「あなたは法律相談ですねとか」と分けられるのが良いので、各区に法務省と一緒になって「ADRの説明をさせてください。」と働きかけています。職員研修をやったり、パンフレットを窓口等に置いて頂いたり。
記者 なるほど。もっと多くの方に知って頂きたいですね。
小泉 そうなんです。色んな人の相談にファーストタッチするような方、行政の方とか、それこそカウンセラーの方とか、離婚の相談を受けるような方とか、そういう方に制度を知ってもらいたいですね。
記者 独立をされて、一番良かった事って何でしょうか?
小泉 まずやる事を自分で考えるという癖がつくのが、面白いですよね。何をするにしても、目標や目的があって、目標を達成するにはどうすればいいかっていう思考ができた事もそうですし、色んな考え方に触れることもできる。裁判所の後ろ盾が無いので、信用を自分で創っていかないといけないですし。法務大臣の認証もそうですけど、ちゃんとした機関なんですよ、というのを自分で築いていかないといけないのは、しんどいですがやりがいはありますよね。
記者 読者の方にメッセージをお願いします!
小泉 意外と夢は近くにある気がします。皆さん、大きな事を言わないといけないような気がしていると思うんですよね。この前、子供の小学校の発表を見てもそう思ったんですけど、世界的な何とかになるとか、プロの何とかになるとか、昔聞いていたようなお母さんになりたいです、っていうそういう子がいなかったんです。やりがいがある仕事を見つけなきゃいけないとか、輝かないといけないとか、そういうのがあると思うんですが、逆に迷うと思うんです。僕にはその夢がないとか、出来ない事ばっかりだって。だけど意外と小さい事や目の前にある事でも夢になり得たり、自分が幸せになる道だったりするので、あんまり肩肘を張らずに興味がある事や、今の自分ができる事で全然構わない気がしますね。
記者 本日は貴重なお話、ありがとうございました。
小泉 ありがとうございました。
小泉さんに関する情報はこちら
↓↓↓
◇家族のためのADRセンター 離婚テラス HP◇
https://rikon-terrace.com/
◇家族のためのADRセンター【相続部門】◇
http://koizumi-gyosei.com/office
【編集後記】
今回インタビューの記者を担当した住吉です。沢山の方と真摯に向き合われてきた小泉さんの姿勢や、お一人お一人に対して少しでも前向きな未来へ再スタートをきって欲しいという意志に心動かされたインタビューでした。小泉さんのご活躍、心から応援しております!