「社会を持続可能に変える革命家」千葉大学大学院社会科学研究院教授 倉阪秀史さん

 持続可能な社会への変革を使命とする倉阪秀史(くらさかひでふみ)さんは、ご趣味のマラソンのように、変革への道を今も走り続けています。

倉阪秀史さんプロフィール
出身地:三重県伊賀市
経歴:東京大学経済学部卒。環境庁(現環境省)に勤務。環境基本法、環境影響評価法などの政策立案。米国メリーランド大学客員研究員。千葉大学法経学部経済学科助教授を経て現職。
現在の職業および活動:千葉大学大学院社会科学研究院教授。市町村別の再エネ供給量などを試算する「永続地帯」研究(http://sustainable-zone.org/)、人口減少のインパクトを市町村別に視覚化する「未来カルテ」プロジェクト(http://opossum.jpn.org/)、自主講座の「法案作成講座」などを進める。
最近の著書:
『環境 持続可能な経済システム』(勁草書房、2010年)
『政策・合意形成入門』(勁草書房、2012年)
『地図で読む日本の再生可能エネルギー』永続地帯研究会編(共著、旬報社、2013年)
『環境政策論〔第3版〕』(信山社、2015年)
『なぜ経済学は経済を救えないのか―資本基盤マネジメントの経済理論へ(上・下)』(詩想舎、2017年)
座右の銘:「なんとかなる」(普段から学生に言っている言葉です。ただこれは、アクションを起こす人に限定します。何もしないで、何とかなるというわけじゃないですから。)

持続可能な社会のために経済を根底から変える

Q思い描いていらっしゃる未来のイメージ、夢はなんですか?
倉阪秀史さん(以下倉阪、敬称略): 
私は、二つのライフワークを設定しました。一つは、エネルギーの使い方の見直しです。具体的には、化石燃料を基盤とするエネルギー供給構造から再生可能エネルギーを基盤とする供給構造に変えることです。このために「永続地帯(Sustainable Zone)」研究と題して、市町村別の再生可能エネルギーによるエネルギー自給率を毎年集計して公表しています。
もう一つは、モノの使い方の見直しです。物を売り渡す経済からサービスを売る経済に変える必要があります。これを「サービサイズ」といいます。
長期的な持続可能性を確保するためにこれらを確実に進める必要があります。そのためには、ベースとしての経済学自体も変わらないといけないと考えています。
記者:経済学を変えるのですか?
倉阪:この話は大学生時代から考えていたことですけど、エネルギーやモノといった経済を支える実物に着目した経済学に変えていく必要があります。今の経済学は、利潤や効用をいかに上げるのかということに焦点が置かれている経済学です。この経済学では、国内総生産つまり国内総生産(記者注:一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額)が対前年度比で成長すれば良いという考え方になります。しかし、持続可能性の確保という観点からは、GDPの成長という経済指標は不完全な経済指標といえます。

地域には「お手入れ」が必要

記者:ではどうすればよいのでしょうか?
倉阪:経済運営の目的を、資本基盤ストックの持続可能性を確保することに置く必要があります。資本基盤とは、料理人やフライパンのように、生産に使われるけれども生産によって失われることはないものを指します。地域には、人的資本基盤、自然資本基盤、人工資本基盤、社会関係資本基盤という4つの資本基盤があります。これらの資本基盤は、ケア・メンテナンスを行わないと、長く使えないという性質があります。このようなケア・メンテナンスを「手入れ労働」と呼んでいますが、人口が減っていく中で「手入れ労働」がいち早く確保できなくなっていきます。このために、将来、維持されるべき資本基盤の量と質に応じて適切な量の「手入れ労働」を確保するように経済運営を進める必要があります。
記者:具体的に、どのようにされるのですか?
倉阪:例えば、それぞれの地域にどれだけの資本基盤がどのような質で存在するのか「棚卸し」をします。そして、将来にわたって維持すべき資本基盤量を見積もります。人口が減る中で壊したほうがいい資本基盤もあるでしょう。そのような合意形成を行ったうえで、将来に必要となる「手入れ労働」が確保できるように、人口を維持し、そのために必要な収入を得るということになります。
 日本で人口が減っていく中で、フローの成長というのは立ち行かなくなると思います。そのことを伝えるために「未来カルテ」発行プログラムを作って公開しました。このプログラムをダウンロードして、自治体コードを入力すると、2040年まで現状の傾向で推移した場合に何が起こるのかを自治体別に視覚化した結果が出力されます。「未来カルテ」は、地域での資本基盤マネジメントを進めるきっかけになればよいと思い作成したのですが、思わぬ効果がありました。

地域資本を見える化する

記者:それはどういうことですか?
倉阪:教育的効果です。「未来ワークショップ」というプログラムを考案しました。それは地域の将来を担う中高生に「未来カルテ」の情報を伝え、未来の市長さんになったつもりで政策を検討します。そして現在の市長さんにプレゼンをするのです。「未来カルテ」には、いいことばかりが書いてあるわけではなくて、人口が減って産業を支える人も少なくなって介護をする人もいなくなるといったことも書かれているのですが、参加した中高生たちは盛り上がって検討しているようですし、地域のことをもっと知りたい、地域に貢献したいという感想も届きます。
記者:それは面白いですね。
倉阪:未来の市長となった中高生たちからは、明るくポジティブな政策提言が出てくるのです。それを見れば未来は捨てたものではないなと実感します。そのほか「エネルギー自給率向上ワークショップ」というものも開発しています。これは、2060年にエネルギー自給率を100%にすることを目指して、10年ごとの省エネ・再エネ投資を決定するシミュレーションゲームを行うものです。まだ開発途中ですが、こちらも「未来カルテ」のように全自治体に適用できるものを作りたいと考えています。
記者:法案作成講座にも取り組まれていますね。
倉阪:はい。毎年11月から12月に、テーマを決めて法案を作成する自主講座を2005年から実施しています。金曜日の夜に3回に掛けて法案を作成します。
記者:国の法律が自分たちで作成できるというのはすごいですね。
倉阪:法案をつくるのは難しくないですよ。千葉大の講義の中でも、法案作成の方法を受講生に教えています。15年くらい継続していますけど、まだ、実際に法律になった法案がないのが残念です。未来に出番を待っている法案を蓄積している状況です。
記者:政治家でなくても政治に参加できるし、政策立案に参加できるイメージが持てますね。

持続不可能な社会を変えたい

Qそもそもこの世界に入ろうと思ったきっかけは何ですか?
倉阪:環境問題を生涯の仕事にしていきたいと思ったのが大学2年のときですね。そこで、当時、流行っていたエコロジーに関する読書会を立ち上げました。また、環境関係の新聞記事を切り抜いて勉強していました。
Q今に至るまでどのような問題意識をもっていましたか?
倉阪:社会科学は、社会にインパクトを与えて「なんぼ」だと思ってるんですよ。色んな新しい課題が出てきて、それに対応して社会的な制度が変わっていかなければいけない。だから、そういうものに貢献をしたいということなんです。
記者:何が問題だと捉えたのですか?
倉阪:それは、このままでは持続しないということです。このままではやばいという危機感をずっと持っていました。
記者:それは、どんな危機感なんですか?
倉阪:学生の頃に経済学を学び、近代経済学もマルクス経済学もだめだねって思いました。資本主義も社会主義のどちらも持続可能性について正面から取り扱っていないのです。これまでの理想であった「自由」と「平等」が実現したとしても、「持続」しなければ意味がないという感覚があったのですね。「持続させる、持続させない」という新しい軸が経済学の理論にも取り上げられてないし、社会的な制度化も遅れている。ただ経済成長を目指しているだけではだめで、自分がこの時代にいる以上、持続可能性を軸として社会を変えていくことが必要であると思いました。

記者:倉阪さんの問題意識から来る情熱が、まっすぐに実践行動に繋がり、それを積み重ねていらっしゃってきた様子が伝わってきました。

お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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倉阪 秀史さんに関する情報はこちらです↓↓
【倉阪環境研究室】(持続可能性・法案政策など濃密情報が盛りだくさんです)
http://kurasaka.world.coocan.jp/

【FB】
https://www.facebook.com/hidefumi.kurasaka

【永続地帯webサイト】(地域のエネルギーと食料の自給率が分かります)
http://sustainable-zone.org/

【未来カルテ】(25年後の地域シミュレーションから政策を検討できます)
http://opossum.jpn.org/

【大学サイト】(研究成果の全体像がわかります)
http://www.le.chiba-u.ac.jp/member/kurasaka.html

【編集後記】
取材を担当させていただいた大場です。倉阪さんは、伊賀の国出身で、ご趣味がマラソン。忍術のようにさまざまな道具を開発して、現代のエネルギー問題、地域資源問題、人口問題に警鐘を鳴らしています。のみならず、法案作成自主講座まで準備して、忍者のように全国を走りながら、地域をひたすら励まし続ける姿に感動しました。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!

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