尺八という和楽器の伝統や可能性を伝えられている、都山流竹琳軒大師範”山崎箜山”さん
尺八を少しでも認知してもらい、もっと身近に和楽器の音や演奏を聴ける機会を増やしていくために演奏活動をされている、”山崎箜山(やまさき こうざん)”さんにインタビューさせて頂きました。
■プロフィール
出身地:島根県
活動地域:福岡県
経歴:都山流尺八を二代山崎北山(父)と二代池田静山に、古典本曲を磯玄定(博多一朝軒)に師事。都山流尺八本曲コンクール全国大会優勝2回。文部科学大臣賞、北九州市民文化賞受賞。都山流竹琳軒大師範、都山流講士・検定員
現在の職業および活動:尺八・土笛演奏家
座右の銘:Younger than yesterday(昨日より若く)
Q:山崎さんは、どんな夢やビジョンをお持ちですか?
山崎箜山さん(以下、山崎敬称略):昔からずっと思っているのは、尺八吹きは月を眺めて吹いているような風情の曲が多いです。現代は人間が月や宇宙に行くことが可能な時代ですし、宇宙飛行士が笛を吹いている映像を見ると、私も1度地球を眺めながら尺八を吹いてみたいなと思います笑。
和楽器があまり認知されていないのは、歴史的経緯として明治維新から第2時世界対戦の敗戦などあり、外国の文化が入ってきたことで隅っこに追いやられてしまったことも理由としてあります。
和楽器の音が聞こえなくても誰も不思議に思わない現状だと思うので、少しでも認知してもらいたいと思っています。
最近、和楽器奏者のメディア登場回数が増えて状況は随分変わってきていますが、メディアで見える部分が全てではありません。
伝統はきちんと守りながら、もっと身近に和楽器の音や演奏を聴ける機会を増やして身近に感じてもらえるようにしていきたいですし、それが携わっているものとしての責任だと思っています。
Q:そのビジョンを達成するために、どのような目標計画を立て、実践されていますか?
山崎:頂く仕事自体が、目標達成の道具になっていますね。
所属している流派で伝統には携わりながら、今の仕事の大半は他の楽器演奏者とのコラボです。そっちの方がもともと好きです。
和楽器でのライブだけではなく、クラシックやジャズライブでもコラボで演奏することがあります。こちらから様々な場所に演奏に出かけて行くことで、色々な方々と出会い演奏を聞いて頂ける機会になりますし、ジャンルの違うクラシックやジャズ好きの方にも興味を持ってもらうきっかけになると思っています。そして、有難いことに広報活動にもなっています。
また学校公演にも、琴奏者である妻と一緒によく行きます。子供たちは大人以上に新鮮に聞いてくれるし、反応がストレートで面白いですよ。
公演では、目の前で演奏を聴き音楽を全身で感じられる時間を最初と最後にとって、後は実際に楽器を触ったり自分で演奏してみるなど、体験を大事にしています。
今はどんどんバーチャルの世界になっているので、”感じる”機会が減りつつあります。多感で偏見や先入観がない時期だからこそ、身をもって体験して欲しいと思っています。
記者:尺八という楽器を演奏する上で一番大事なことは何ですか?
山崎:今までの尺八奏者の方々が残した、様々な精神や教え・技術を無くさないことだと思います。
根無し草みたいに、地に足が着いてない状態だといい演奏はできません。
私自身コラボで演奏する際は、今まで伝わってきた技術・精神を守っていれば、何かあったとしても倒れたり流されたりはしないです。
尺八というのは、何があっても泰然自若・自由自在なものであるという精神があると思います。
記者:コラボ演奏の難しさや、気をつけていることはありますか?
山崎:相手の演奏をなるべく感じて理解し、まずは歩み寄ることが必要です。ですが、歩み寄るだけではなく「尺八を使っている意味はどこにあるのか?」を考え、尺八にしかできないことで主張していきます。
異質と思えるクラシックやジャズの中に、尺八の特性を生かして入り込んでいくという面白さや楽しさがあります。
音楽は、言葉に頼らず感じられることです。
尺八の良さを分かっているからこそ他の楽器とのバランスや折り合いをつけ、”ここは尺八が得意”、”ここは相手の楽器が得意“など、お互いに主張し合いながらコラボしていきます。
事前にいくらリハーサルをしたとしても、本番は場の雰囲気によって自分も相手もリハーサルとは違う演奏になります。
今までの様々な演奏経験の蓄積を通して、”伝統”の部分は自分の中にしっかり染み込んでいるので、コラボしている時の自分の感覚に合わせて演奏します。楽器も答えてくれますし自然と一体感が出てきます。
記者:尺八をやる中で、「習得できた!」と思えることはあるのですか?
山崎:実感などはある訳ではありませんが、長年携わってきた中で、今頃になって気づくことが少しずつ増えてきました。
自分自身での修練だけではなく、弟子に教えている時や弟子からの質問によって、「私自身も昔思ってたし、あ〜あの時師匠はそういうことが言いたかったんだ〜」などと気付かされることがあります。その気づきが財産だと思いますね。
私はもともとバンド小僧で、全て我流で習得し今でもギター演奏や2つのバンドをやっています。尺八の特徴や他の楽器の良さも理解しているので、コラボ演奏する中で相手に歩み寄りやすいです。
私は、大学のときから尺八を習い、30歳で独立しプロの道を選択しました。40才の時に吉田兄弟と一緒に全国ツアーを回る機会を頂き、そのおかげで色々な繋がりができたのでとても感謝しています。
私は尺八という楽器そのものも、その可能性も信頼しています。カバンに入りどんなところにも持っていける機動性もあり融通もききます。そして手穴も5つしかないから、その間の音は自分で決められるし相手の音に合わせることもできます。
私は、この楽器で対応できる限りのことはこれからもやっていきたいと思っています。
Q.尺八奏者になろうと思ったのは、どんな発見や出会いがあったからでしょうか?
山崎:音楽との出会いは、両親の影響がとても大きいです。家の中に父の好きな歌謡曲や母の好きなクラシックのレコードがたくさんあり、小さい頃の私のおもちゃのようなものだったので、片っ端から聞いていましたね。
両親は和楽器の愛好者でアマチュア奏者でした。なので家に人が集まって演奏したりする環境もあり、気づいたら私も色々な楽器を演奏していましたし、音楽が楽しむ原点となっていました。
高校の時に、父からの依頼でテレビでの放送をカセットレコーダーで録音したことがあります。NHK交響楽団と尺八の共演で、現代音楽の演奏でしたが、その時代でのオーケストラと尺八のコラボは私的にはコペルニクス的展開でとても驚きました。
奏者は、紋付袴で登場し、髪も長めで見た目も格好良く、聞こえてくる尺八の音もオーケストラに負けてない澄んだ迫力のあるものすごい音色で衝撃的でした。
後に人間国宝になる大先生の演奏だったのですが、そのプロの演奏を聞いたことがきっかけです。
記者:その演奏の何が衝撃的だったのですか?
山崎:それまで家で聞いていた父の演奏は純粋に伝統の音楽だったので、この楽器はそれが全てだろうと思っていました。
ですが、オーケストラの演奏に日本の楽器が入っていけるという今までにない世界観と出会い、とても面白く新鮮で、当時としてはかなり斬新でした。今までアマチュアの父の尺八の音を聞いていたので、そのプロの演奏がどれだけすごいのかが分かりました。
日本の和楽器は伝統楽器というだけではなくもっと可能性があるのではないか?と感動し、それまではバンド一本だったのですが、初めて尺八という楽器が興味の対象になりました。
記者:尺八奏者になりたいと思ったのはどのポイントだったのでしょうか?音自体の神秘さですか?
山崎:尺八そのものがすごいということよりは、尺八を使ってコラボ演奏や自分では今までイメージできなかったことができるんだ!と知ったことだと思います。
凝り性なので、自分が面白い・面白そうだなと思うところには、突っ込んで見たり聞いたりしていきました。
Q:今の活動をされている背景には何がありますか?
山崎:以前、尺八50人のインタビュー記事とCDのセットが出版されたとき、私もその一人としてインタビューして頂きましたが、最後の締めの一言として、”尺八ってかっこいい”という言葉を言いました。
テレビでプロの演奏を見たときに、颯爽と現れた尺八奏者が、すごく格好良く見えました。外見がどうとかではなく、その姿に全てが入っていると思ったのです。歴史的なものも最先端の吹奏技術も、そして人間性も全てが集約されていた姿が格好良く見えました。
私が高校生のときに受けた印象のように、あるとき私が演奏している姿をみて、観客の誰かが「尺八ってかっこいい!」って思う人が一人でも現れたらいいなと思います。
記者:立ち姿から滲み出るものがありますよね。
山崎:そうなんです。どんなに高いブランド品で着飾ったとしても格好良くなるわけではありません。
舞台に立っている人間は、裸で立っているのと同じだと思っています。普段からやっていることや考えていることが演奏に全て出るので、舞台に立つ人間として、普段から色々なことに意識をしておかなければいけないと思っています。
木の幹が強いと倒れないように、尺八の幹である伝統の部分にしっかりと取り組むことによって演奏を楽しめるようになります。
幹を強くし枝葉を茂らせ、外からくるものを受け止める。そしてもっとたくさん受け取るためには、さらに枝葉を茂らせ幹を強くしないといけないように、私もそういう存在でありたいと思っています。
Q.最後に記事を読まれる方へのメッセージをお願いします。
山崎:興味や好奇心を大事にすることが、その人を豊かにすると思うので、面白いと思う気持ちを大事にして、色々なものを恐れずにチャレンジして欲しいと思いますし、自分のやっていることに信頼・信念があれば、ぶれることはないと思います。
きっかけが、お金がかかることかもしれないし、かからないかもしれないし、遥か彼方にあるものかもしれないし、何かのきっかけで偶然そういう人と出会うかもしれないので、境界線を引かずに出会いを重ねていくことだ大事だと思います。
記者:山崎さん、今日は本当に貴重なお話をありがとうございました。
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≪山崎箜山さんの詳細情報について≫
■ブログ ↓↓
https://blog.goo.ne.jp/kohzan
■Twitter ↓↓
https://twitter.com/kohzan1
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【編集後記】
今回インタビューを担当した波多江&多田野です。
インタビューの間も終始柔らかい姿勢で対応頂き、何にでもなれる・何がきても編集デザインできる山崎さんの器の大きさを感じました。
泰然自若とした態度で舞台に立たれているその姿が、和心そのものだと思います。
今後の山崎さんのご活躍を心より応援しています。