子どもがいるからつながる「人の輪」を広げたい/NPO法人子どもへのまなざし代表理事 中川ひろみさん
東京都日野市の仲田の森蚕糸公園でプレーパーク「なかだの森で遊ぼう!」の運営をされている、NPO法人子どもへのまなざし代表理事 中川ひろみさんにお話を伺いました。
中川 ひろみさんプロフィール
出身地:東京都文京区
活動地域:東京都日野市
経歴:都内公立保育園に保育士として7年間勤務。
出産のため退職。日野市に転居。
日野市で子育てサークルを立ち上げ、7年間活動する。
我が子が小学校入学を機に、日野市子ども家庭支援センターに地域支援ワーカーとして勤務。
2003年4月NPO法人「日野子育てパートナーの会」の立ち上げに尽力。子育てひろば「みんなのはらっぱ」開設。会の法人格取得に伴い、子ども家庭支援センターを退職。
2007年日野市次世代育成行動計画「ひのっこすくすくプラン」の市民ワーキンググループのメンバーとして「市民参加での子どもの居場所づくり」について話し合う。
2008年6月乳幼児の外遊びについてのニーズ掘り起こしのため「なかだの森で遊ぼう!」開催。同年11月任意団体「子どもへのまなざし」設立。2009年NPO法人格取得。
現在の活動:仲田の森蚕糸公園においてプレーパーク「なかだの森で遊ぼう!」を月6回開催。また、野外保育「まめのめ」の保育責任者も兼任。子どもや子育て中の人と共に日々格闘中
座右の銘:「Difference gives us something wonderful」(違いは何か素敵なものを私たちに与えてくれる。)
子どもが子どものままで居られる社会をつくりたい
Q:中川さんは、どの様な夢やビジョンを持たれていますか?
中川ひろみさん(以下、中川 敬称略):子どもが子どもで居られることができる社会をつくっていきたいです。今は「早く社会の役に立つ立派な大人になって」という大人の言う事を聞いて、子どものままで過ごせる時間がどんどん少なくなっている様な気がしています。子どもは「子ども時代」をしっかり生きるから大人になれるもの。子どもの時代を急がせないで欲しいです。
そして、子どもが伸び伸び遊べる環境も時間も仲間もどんどん減って、育ち合える仲間も今は競争相手の様になっていないでしょうか。人が育っていくには気持ちに共感してもらったり、気持ちをぶつけ合うことができる仲間が必要です。大人にとっては、仲良く遊んでくれる方がありがたいことかもしれないですが、仲良くなる前には沢山ぶつかりあうことも必要です。「あの子はこれが嫌なんだなぁ」そして相手が泣いてしまって初めて相手の気持ちに気づくことができるのです。たっぷりとした「子どもの時間」と「育ちあう仲間」、そして「自由に過ごせる環境」この3つを見守る温かい大人のまなざしの中で、子どもは子どものままで「子ども時代」を過ごすことができるのです。
子どもの自殺や引きこもり、社会の不適合者に対して、子どもに生きる力をと言っています。けれど、子どもは本来生まれたときから生きる力にあふれた存在なはずです。その子どもを追い込んでいるのは、大人なのです。大人が「子ども時代」を保障しなければならない時代になっていると思います。
お母さんたちの声から始まった
“居場所づくり”
Q:中川さんのこれからの目標や計画、現在の活動内容はどのようなものですか?
中川:10年前からプレーパーク「なかだの森で遊ぼう!」を毎週1回金曜日と第二、第三土曜日の月6回開催しています。お母さんたちの声から始まり一緒に運営しているので、お母さん達が人を連れてきてくれています。
最初はイベントなどを企画しないと人が来ないかなと思ったので、どろんこ遊びや焚き火でホットドックづくりなどを企画していたのですが、何回か開催してみると、どうやらイベントがあるから来ているんじゃないなと思いました。何かで呼ぶよりも「いつも開いているよ。大丈夫だよおいで。」というのが大切だと感じました。そこで「毎週やっていますよ、来てみませんか?」というスタイルで乳幼児のお母さんと一緒に継続してきました。
プレーパークと同じ頃に始めた野外保育「まめのめ」は、通年で月曜日〜金曜日に活動しています。
なかだの森ではお母さんたちが場づくりをするので、お母さん同士が話し合い、私はその間、 子ども達と遊んでいるから大丈夫ですよというスタイルでいました。するとお母さん達から幼稚園、保育園には行かずに「野外保育」をやってみよう!という声が。野外保育という建物がないスタイルの保育が始まったのも、お母さんたちの「そういう場が必要だ」という声から始まりました。「何か余計なものを教えるのではなくて、たっぷり遊ぶ時間が必要なんです。ひろみさんやってください!」とお母さん達に言われたことがきっかけでした。
私自身は文京区の出身なので、野外体験が豊富な方ではないのですが、子どもたちと過ごすうちに、1年中外に居る生活にはまってしまいました。実家に帰るとビルとビルの間で空がとっても狭く感じます。
子どもたちと川で遊んでいると、ずっと空が広がっていてなんて幸せなんだろうと感じます。
記者:野外保育「まめのめ」は何歳のお子さんが対象なのですか?
中川:1才~5才です。プレーパークの方は年齢に制限がありません。“居場所づくり”がテーマなので保育として預かるだけではなく、大きくなってもずっと繋がっていて安心して帰って来れる場所です。「まめのめ」も幼児教育の場というよりは、“居場所”でありたいと思っています。
今、幼稚園・保育園も塀の中で子ども達が過ごしています。「まめのめ」の子ども達はリュックを背負って外に出て行きます。そうすると汚いことも危ないことも、うるさいことも沢山します。でも子どもは本来そういうものなのだと、地域の人にも思い出してもらいたいです。幼稚園の様に大人が決めたカリキュラムをこなすのではなくて、子どもが自由に外に飛び回って行って、秘密基地を作ったり穴を掘ってみたりして遊んでいます。
そしてもうひとつの活動が、「あそべ!子どもたち!事業」です。
「まめのめ」の子どもたちは、いっぱい山や川に行っていますが、それには経験とノウハウが必要です。でも、川で遊ぶのはこの子たちだけじゃ勿体ないと思う様になりました。今は、小学生の行動範囲が狭くなっていて、学区内を出て遊ぶことも少なくなってきています。もっと面白いところがあるよ、遊びに行ったら面白かったよ、ということを伝えたくて始めました。
近隣の学校や幼稚園に行っている子ども達と、とことん外で遊びます。すでに、親御さん自身が川や山で遊んだことがないので、「案外怖がらなくて大丈夫だよ」「こんなに面白いよ」、ということを子どもの姿を通じてお伝えしたいです。夏はもちろんですが、冬だって子どもは風の子で、近くの山や林に出かけています。小学校4年生以上になると電車ではなくて自分たちの足で、自転車でどこまで行けるかやってみようと一緒に計画を立て、昨年は羽田まで行って来ました。
違いをありのまま受け入れられる“居場所”をみんなでつくりたい
Q:活動の中で大切にされている事は何ですか?
中川:“居場所”がキーワードです。居場所は居る場所ではなく、その人がそのまま受け入れられる場をみんなで作り出すということです。大人も一緒に関わってつくっていくことが大事だと思っています。人と関わらずに、自分だけが勝手にしていては居心地がいい場所にならないですし、お互いを感じながら、でもルールありきではなく、困ったときにどうしようか?と時間を重ねながらみんなでつくっていく場所です。
実は、ここには生きづらさを抱えた人も集まってきます。中には、室内の居場所だと物の取りっこを謝ってばかり、元気すぎると言われ肩身がせまかったり。自分の中のこだわりと世の中の折り合いが難しい方もいます。
でも「こだわる」のは大事なことだと思います。「あなたはそれを大事にしたいのね」と受けとめています。みんな同じにはならないのです。なかだ鍋もダシも何でもいい人と自然素材じゃないと嫌な人がいて、それぞれの違いを大事にしたい思いがあるので、「あなたの気持ちを大事にするよ」と伝えます。同じにはならないけど、こういう工夫ができそうね。と、それぞれをありのまま受け入れられる居場所づくりをしています。
記者:プレーパークには、いろんな年代の方がいらっしゃいますね。
中川:ふらりと子どもたちとあそびに来るおじいさんやボランティアで薪作りなどをしてくれる方もいます。最初の頃に私が薪づくりで、のこぎりを一生懸命引いていたら、「もう中川さんは何もできないんだからぁー」といつも来てくれていたおじいさんがいます。でも、明らかに町で会ったら怖い感じの、ペットボトル持ってるけど中身は日本酒みたいな、そんなイメージの人です。悪態をついたりしますが機嫌はよく、「貸してみな」と言って薪割りをしてくれました。
ある日「子どもが石を投げてきた」と言っていたので子どもたちに事情を聞いたところ、節分の頃で、子どもたちに鬼のお面を配っていたそうですが、数がたりなくなって、「ボクにだけくれなかった。だから悲しかった」とのこと。もらえなかったから怒ったそうです。あげるならみんなの分がないと、「もうないよ」と言われるのは悲しくなっちゃう。何も持ってこなくて大丈夫。と話したことを思い出します。
その様に、地域の色んな方が来ます。生きづらさを抱えた人も来ています。排除するのはなく、誰でも来ていいよという居場所でありたいと思っています。
記者:本当になかだの森が、色んな人の“居場所”になっているんですね。
中川:そうですね。子どもは遊ぶことで成長します。子どものままで居られる日常をどう保障するか。子どもはほっといても遊びます。「子ども時代」の遊びが保障される環境をつくりたいです。
そして、環境とは見守る大人の姿勢そのものです。自分のやりたいように応援してもらったり、自分でやりとげたことを味わって欲しいです。なかだの森では子どもたちの泣き声もよく聞こえます。泣かないのよというのではなくて、イヤだったら気持ちを受けとめてもらうことが大切だと思います。住宅事情で部屋の中だと大きな声で泣かすのも難しいようです。やはり外ではないとできない事もあると思います。
なかだの森は子どもが「子どもの時間」をたっぷり過ごせる。やりたいことがたっぷりできる場所です。やってみたいことの全てが遊びなので、大人の都合でこれは汚いから、これはうるさいから、危ないからと取り上げるのではなくて、子どものやってみたいを応援していきたいですね。
40年間閉ざされた、蚕糸試験場跡地の公園で活動をスタート
Q:中川さんが活動を始めたきっかけは何ですか?
中川:活動を始める前は、行政の子供家庭支援センターの地域支援担当で、お母さん達の自主グループを応援して支える役でした。広場に来るお母さんたちと話していると、「子育て広場は沢山できたけど外が遊びにくい、公園にいてもわが子を怒ってばかりになってしまう。誰かに迷惑かけてないかしら、それはやめなさい、これはやめなさい、取りっこはしないでねと気を使い、すごく疲れてしまう。」という声を沢山聞いて、子育て当事者の声から活動を始めました。
日野市の次世代行動育成計画の中で、市民のワーキンググループの公募があり、「今、日野市にはない子どもにとって必要な居場所づくりとは?」というテーマで話し合いを重ねました。そこで外が遊びにくいというお母さん達の声を届け、ニーズ調査という形で毎週1回金曜日に遊び場を開いてみようということになったのです。当時この場所は完全に塀に囲まれた場所でした。なかだの森は国の蚕糸試験場跡地で、蚕室だった古い建物が残り、40年閉ざされたままの廃墟の森でした。夏の間だけ行政がキャンプができる場所として開けていました。水道もトイレもなくて、本当にこんなところに人が来るのかなと思っていました。当時はもっと緑が鬱蒼としていたんです。
現在は、都市公園として整備され、さらに、たくさんの人が来てくれるようになりました。
孤独な子育ての経験があるからこそ、子育てには仲間が必要
Q:中川さんご自身の子育ての経験も、今の活動に通じている点があるのでしょうか?
中川:私は第一子が4か月の時に日野市に引っ越して来ました。周りは知らない人ばかりで、また主人の両親との同居だったものですから色々と厳しいこともありました。やはり子育ての仲間がいないとだめだなと、とても実感があります。子育てグループを作り、我が子2人の子育てで、7〜8年あまりサークル活動をしていました。そこで沢山の失敗を経験しました。以前保育士をしていたので、先生の様になってしまい、気づいたらひとりぼっちでした。一人で頑張りすぎてしまった人ですね。本当はみんなで楽しめば良かったんだなと気付いたのです。そんな経験があったので、それまでは全くの専業主婦でしたが、下の子が小学校に入ったくらいから、子ども家庭支援センターで勤めることになりました。
実は、娘が幼い頃におままごとのエプロンを付けてお買いものに行こうとするので、「それはお家であそぶものです!置いていきなさい!!!」とすごく怒ってしまう自分がいました。今思えば何故そんなことで怒ったんだろうと思いますが、当時はささいな事でイライラしていたのでしょう。やはり一人で子育てをしてはダメだと思います。「嫌になっちゃうよね」と言える人が周りにいないと、絵に描いた様なお母さんで居たくても、そういう訳にはいかないです。そんな経験から、今の活動をやっていると思います。ここに来るお母さんたちにも「いいよいいよ。一人じゃできないもんね」と話しています。
Q:最後に、今子育て中のお母さんたちへのメッセージをお願いします。
中川:子育ては一人でしないのよ。子育ては一人では無理だから、子どもも、そして親だって一緒に育っていこうね。
子供の存在こそが明るい希望なので、子どもたちからいっぱいエネルギーをもらえます。我が子だけだと難しいので、他の子も見ながら取替えっこするぐらいの気持ちがちょうどいいのかも。小学校・中学校になったら今度は、「行っておいで」と背中を押してあげて、大人が見てないところの方がいいこともいっぱいあります。プレーパークには、中学生が学校の帰りに寄ってくれます。ここでは家で見せない顔をしていると思うのです。我が子もそうでしたが、親には言えないことが出てくると思います。「家出できる地域」と言っているのですが、帰って来なくても安心して「きっとあそこに行っているな」と思える地域を作って行きたい思っています。
記者:なかだの森が地域の人たちを繋ぐ“居場所”になることで、そんな安心できる地域づくりに繋がっていると感じました。
本日は、貴重なお話をありがとうございました。
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中川 ひろみさんの情報はこちらから
NPO法人 子どもへのまなざし
http://www.manazashi2009.org/
プレーパーク なかだの森であそぼう!
http://www.manazashi2009.org/nakadanomori_new.html
その他の活動も、上記ホームページからご覧ください。
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【編集後記】
今回、記者を担当しました久保、善家、菱谷です。
実際に仲田の森でインタビューさせて頂き、プレーパークの場が子どもやお母さん達の居場所になり、そして地域の方にも開かれた居場所となっている事をとても感じました。それも、一人一人の心の声に寄り添い、違いをありのまま受け入れる中川さんの温かいお人柄によって、この“居場所”が作られていると感じました。中川さんのこれからのご活躍を心から応援しています。
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