地域を愛し、地域を生かす不動明王(ゴールキーパー) 小澤酒造会長 小澤 順一郎さん
奥多摩という東京とは思えない自然豊かな地で、代々酒造りを営んできた澤乃井-小澤酒蔵。豊かな名水が沢となって流れる「沢井」という地名から名付けられた澤乃井ブランドは、地元で知らない人はいません。地域活性化になくてはならない地元名士小澤順一郎さんにお話をお伺いしました。
小澤順一郎さんのプロフィール
活動地域:東京都
経歴:元禄15年(1702)年創業で300年以上続く酒蔵22代目当主として東京都青梅市沢井に生まれる。1992年に父の跡を継ぎ社長に就任。2018年に会長に就任。
現在の職業及び活動:小澤酒造株式会社 取締役会長。東京都青梅商工会議所 会頭。酒蔵の見学と併せて、澤乃井園(売店、軽食)、 飲食店「まゝごと屋」「いもうとや」「豆らく」「きき酒処」、「櫛かんざし美術館」「玉堂美術館」、バーベキュー場「煉瓦堂朱とんぼ」など、地元の人気観光スポットを運営している。
座右の銘:君子危うきに近寄らず
森林(やま)は都市を支えている
Q 今、どのような夢・ビジョンをお持ちですか?
小澤順一郎さん(以下、敬称略):
私は、森林(やま)を生かし、活用することで、地域を発展させたいと思っています。昔の林業のイメージとは違います。また、「観光」ということでもなく、もし自分が今の時代の都市生活者だったならば、青梅・奥多摩にどうあってほしいかという視点・イメージを持ちながら、この土地をどう生かしていくのかを考え、試行錯誤しています。
この地域は、江戸時代から既に大都市江戸を生かすために存在している、そういう役割・機能がありました。西多摩中のものがすべて一旦青梅に集められて、市(いち)で整理されて、青梅街道を通って江戸へ運ばれていました。また、明治初期には神奈川県だったこの地域が、飲用水として「多摩川」の水利を東京府が求めたことから、東京の一部になったという背景もあります。大都市にとってなくてはならない、身内にしておかないと困る、そういう場なのです。
田舎における発展を再定義する
Q 夢ビジョンを具現化するために、どんな計画をお持ちなんですか?
小澤:東京都の「自然公園ビジョン」、そしてJRが、青梅ー奥多摩間を「アドベンチャーライン」と命名したこと、この二つがこの地域の未来に向けての方向性を示しています。この地域を、大都市東京の自然資産として存在させていくという方向性です。
これまでは、地の利や水という、私たちが直接触れるられるもの、目に見えるものが主に必要とされてきましたが、これからは、空気やフィールドなど自然そのものが都市生活者に必要なものになってきています。
都会の高層ビルの中で仕事をし、生活する人たちに必要なものは何でしょうか。都市が発展すればするほど、田舎の必要性も増してくるのです。
一言で発展と言っても、いろんな発展の仕方があります。都市部の発展のイメージは誰もができますが、田舎は田舎で、どういうことが発展なのかを考える必要があります。マンションができたり、立派なお店ができたりというようなことではないでしょう。この地域における発展とは、都会的でないこと、上手に寂(さび)れることだったりするかもしれない。本当に寂れてしまっては困るのですが。
変化の波を捉えて変化の中に入る
Q計画の実現のために、どんな活動をされていらっしゃいますか?
小澤:東京都とJRが提示してくれたもの。これらのイメージにふさわしい地域になっていこうじゃないかという機運が地域の中に生まれつつあります。大きな動きの中に入って、将来的に我々の地域が光輝くものになるようなチャンス、機会ととらえて参画していこうと考えています。
自分の都合だけで意見をいうのではなく、ここで生活をしている一人の人間として、全体を生かしていくという視点から意見を伝えて、都市と周辺地域の両者が共に未来を創り上げていく。そういう認識を持つ必要がありますね。
自分たちで何かを変えるというよりは、変化の波はすでに始まっているので、その中に入っていくことが重要かと思います。変化を自然体で受けとめて、その中に存在する。機関車の先頭で石炭をどんどん燃やすっていうことではなくて、ある意味見守るようなイメージを持っています。
都市は、単独では持続不可能
Q 活動の背景には何があったのですか?
小澤:森林(やま)がなければ、東京は、ただの大都市です。新宿や渋谷といった都市部の発展は、単独で成り立つものではなく、それを支える自然資源とその活用システム・インフラを、大都市東京が自ら所有し、なおかつ管理もしています。それが東京の面白いところです。行政組織としてはそのことを認識して、管理する必要性を理解してこれまで取り組んできています。しかし、それが都民が認識できているのかといえば甚だ心許ないところです。
かつて大ローマ帝国は、燃料として周りの樹を全部切って資源が無くなって滅んでしまったという話があります。大都市東京が発展し続けるために必要なものと認識して守っていかないと、健全な発展はできないでしょう。
ということで、ここは東京が存在し続けるためになくてはならない地域です。都市と地域が両方で創り上げていくイメージでしょうか。この地域の存在の重要性を、東京都民全体に認識していただくことが、大変重要なことだと考えています。
地域活性化という血液循環の心臓となる
Q現在の課題はどんなことなんですか?
小澤:都市部と違って、周辺部は人口減少の問題があります。人口が減ることは、すなわち経済の縮小ですから、今までやっていたことができなくなるという厳しい一面もあります。社会現象だと思って受け止めながらも、地域が少しずつ沈んでいく感覚はあります。
現象としては受け入れるけれど、それによって地域社会がダメになることは良しとはしていません。常にエネルギーを注入し続けることが重要ですね。
実際に沈んでいるのかどうかはわからないけれど、皆が笑って生活できるような地域社会をつくるためには、そこに住んでいる人たちが前を向いていけるような心理状態になっていないといけない。住んでいる人たちの気持ちを調整していくっていうのはとても大切です。毎年10月には蔵開き、2月には節分の豆まきなど、お祭り的なものもやりながら気分を盛り上げて、地域社会全体にポンプで血液を送っていくようなことを続けていきます。
記者:小澤さんがこの地域の酒蔵メーカーに生まれ、覚悟を決め、この地域を愛しながら、周りのみんなを奮い立たせていこうとする心意気を感じました。 今日は、お話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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小澤順一郎さんに関する情報はこちらです
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【小澤酒造株式会社HP】
http://www.sawanoi-sake.com/
【小澤さんのブログ】
http://www.sawanoi-sake.com/ceo
【編集後記】
取材を担当させていただいた大場と三上です。都会と周辺地域、人間と自然環境が、お互いに役割を全うして健全な関係性を保つことが、全体の持続可能な発展を成立させる必要条件だということがわかりました。そのことを理解した上で、変化し続ける社会環境の逆境を受け入れながら、酒蔵メーカー22代目当主として、命がけですべてを生かしてみんなで発展させ続けようとする姿に、和心、日本の精神の響きを感じました。
ご一緒に日本を目覚めさせていきたいです!