「”農業と観光”を融合した新しい地域モデルにチャレンジする美瑛農業経営者」佐藤 仁昭さん

美瑛は丘のような傾斜地帯。そこで農業ができれば、世界のどこにいっても通用する技術を得ることができると言われる。その美瑛で自分が終わったら終わる、やったらやっただけ結果が出るとアスリート感覚の姿勢で作物と向き合い、さらに「美瑛の農業を知ってもらう農業ガイド」を企画することを通して新しい地域モデルにチャレンジする農業経営者、佐藤仁昭さんにお話を伺いました。

プロフィール
出身地:北海道美瑛町
活動地域:北海道美瑛町
経歴:高校卒業後、デザイン系の専門学校を得て会社員などを経験し、 富良野緑峰高校農業特別専攻科を経て24歳春から実家就農
現在の職業と活動:
農業経営7年目、経営面積 60ha 主な生産作物 小麦・馬鈴薯・ 豆類・スイートコーン・アスパラビート(甜菜)
JA美瑛組合員 美瑛農民連盟執行役員 種豆生産部会理事等の各種役員
獲得した主な賞:
2015.2016年 美瑛町麦作生産部会共励会 春小麦 品種名 春よ恋 個人の部 最優秀
2017 カルビーポテト 高反収部門受賞       
座右の銘:自分の能力を他人の為に使ってこそ自分の価値


「美瑛の景色は、農家が膨大な時間とお金と技術を投入して維持している景色なのです」

Q. どんな心の在り方や認識の変化が今の活躍に繋がっていますか?

私は、美瑛で60ha(横10km・縦6km)の土地を、3代目として親から譲り受け、農業経営7年目になります。美瑛は丘のような傾斜地帯です。ここで農業ができれば、世界のどこでも通用する技術を得ることができると言われています。ここ数年は農業に集中することができ、カルビーポテト 高反収部門受賞含め様々な賞を頂きました。

私が子供の頃の農業の世界は、子供も労働力として手伝うことが当たり前の環境でした。だから、収穫時には遊ぶことができなくて、農業は手伝わなくてないけない悪いイメージがありました。でも、長男なのでいつかは農業をやらないととは思っていましたが、違う世界を見たいと思い高校卒業後全く関係のないデザイン関係やスノーボードの世界に触れました。色んな経験を通して、今は人が生きる大前提を支える仕事、食物を作り、国土を守る職業が農業なのだと考えています

「哲学の木」をご存知ですか。今まで積極的にお話していなかったのですが、美瑛で以前観光客に人気のあったポプラの老木で、先祖代々ご神木として私の畑にあったのです。写真を通して有名になり、たくさんの観光客の方が訪れるようになりました。見るだけならいいのですが、農地に不法侵入されることが度々起きるようになりました。農業にとって土はとても大切です。天候に左右される農業の世界は、排水・保水の力がある土であれば作物を守ってくれるし助けてくれるのです。逆に、細菌などが畑の土に侵入してしまうと、作物がだめになってしまい、全ての苦労が一瞬にして水の泡になってしまうのです。なので、その土を守る為に看板を立てたりやロープを張ったりしました。しかしそれを越えて入ってきてしまう観光客がいます。楽しむために美瑛に来られていると分かっているのですが、農業者としては注意をしなければいけません。そのストレスと葛藤が、どんどん積み重なっていきました

美瑛の景色は自然にできた景色と思われやすいのですが、そうではありません。農家が膨大な時間とお金と技術を投入して、維持している景色なのです。「哲学の木」を通した葛藤から気づいたことがあります。もし農業が無くなれば土地は荒れ、獣も増え、さらに外国資本の買収が加速します。
農業という職業は、国土を守る仕事なのだと気がついたのです。なぜなら、人が生きる上で必ず必要な食物を作り、景観を守りながら、土地を維持しているからです。これ以上魅力のある仕事はありません。

苦渋の決断でしたが、家族と相談をして哲学の木を切ることにしました。切った後も葛藤はありましたが、農作物を作ることに集中できるようになりました。サポートしてくれる方々の応援もあり、賞を獲得できるほどの品質と実績を作ることができました。

また、農業経営者の成功は後継者を作ることです。その為に今までにない魅力を作ることが必要なのです。
美瑛のような傾斜地帯の農地は、農業をするには不利と言われています。でもそこで生きていく為、農業経営を続けていく為に、日々試行錯誤をしながら技術を身につけてきました。
それによって美瑛の美しい景観が生まれています。長年耕作して当たり前に見てきたので、美瑛の景色の魅力に気がつかずに、観光は農業の敵としか思っていませんでした。しかし、新しい外の情報を積極的に取り入れる中で、農家が観光に関わることによって農業を守る道が見えたのです。
農業を守るために「農業と観光」を融合した新しい成功例を作りたいという夢を描き、取り組んでいます。


「辛さの感覚を得られるのは人間の特権」

Qこれからは AIが活躍する時代と言われていますが、AIが活躍する時代に必要とされるニーズは何だと思いますか?

AIはどんどん入ってくると思います。ただ、AIは人間の辛い感覚がわかりません。辛さの感覚を得られるのは人間の特権であり、そこがAIと人間の差だと思います。苦労は買ってでもしろと言われるように、辛いことがわかるからこそ、何がいいことなのかがよくみえますし、良くしようとも思う。さらに辛いがあるからこそ、いいことが一層幸せを感じることができます。農家としての経験からそう思います。


「世の中は常に動いているので、自ら新しいチャレンジをし続けます」

Q どんな美しい時代をつくっていきたいですか?

「哲学の木」のことがなかったらただの農家だったけれど、たまたま観光地として有名になったことで、相互理解の大切さに気がつきました。農業と観光の融合の問題は、観光地として呼びたい人と農家との立場の違いからくる、価値観の違いの問題だったのです。お互いが何があれば良くて、何があると困るのかを相互に理解する必要があります。相互理解があれば、手を繋いでやっていくことができます。
その為に「農業ガイド」を企画しています。
この企画は私自身がガイドを育てたり、観光客の方に直接お話ししたりもしますが、色んな方のご協力をいただきながら法人化も含め、進める動きをしています。

農業ガイドを通して、私は土の大事さを伝えたいのです。観光は「見る観光」から実体験を伴う「知る観光」にニーズが移行しているので、農家自らが、直接畑で観光客の方と関われば、土の大事さをわかってくれると確信しています。
観光客に向けてお話することで、私たち農業者と消費者との距離を近づけることもできますし、消費者も誰が作ったものかが分かれば安心感につながると考えています。
農業者として作物を作ることに全力で取り組むと同時に、さらにやりたいことがあります。それは、不利とされてきた美瑛の土地で、作物を作っている農業行為そのものをブランド化することです。これまで様々な業種の人や様々な立場の人と出会うことで、自分たちだけではわからない美瑛の魅力を教えてもらいました。夕日が真っ赤に燃える姿、そこに広がる一面の畑とトラクターが走る景色。僕たちはいつも見ている景色だから気づきにくいのです。そんな景色もドローンを使って撮影することで、農業を知ってもらうきっかけになるのですね。こういった活動を通して、1人でも多くの方に農業を知っていただきたいと思っています。

ただ、農業と観光を融合した成功例は決して1人ではできません。だから、皆さんと「どうやったらできるだろう?」と知恵を出し合いながら作りたいと思っています。

世の中は常に動いているのでそこに合わせながら、魅力ある未来を描きたいのです。現状維持は後退になるので、自ら新しいチャレンジをし続けます。

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佐藤仁昭さんの活動、連絡についてはこちらまで⬇︎
Facebook: https://www.facebook.com/sato.hiroaki.10

【編集後記】
インタビュー記事を担当した、赤尾・原田です。
傾いている様子が考えているようだと名付けられた「哲学の木」。切られることで、目に見える存在はなくなりなりました。しかし、目に見える存在がなくなることで、「そこに当たり前のように存在していることはどういうことなのか?」という哲学的な問いを私たちに与えてくれたんだと、佐藤さんのお話を伺いながら感じました。
佐藤さんが哲学の木を切ったという選択は、個人の選択というより、美瑛という街や今の時代を象徴するような選択だったように感じてなりません。
1つの時代が終わって、新しい時代が始まる。佐藤さんという存在からは、今の時代を生きる使命感を感じてなりませんでした。

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