パズル遊びで楽しく学ぶ学習支援と福祉/パズル療法士 細田 和幸さん
東京都日野市を中心に、パズルやゲームを通して楽しくソーシャルスキルトレーニングができる場を広げるパズル療法士 細田 和幸さんにお話を伺いました。
細田 和幸さんのプロフィール
出身地:東京都日野市
活動地域:東京都日野市
経歴:放課後等デイサービスでの支援
認知症予防や子どもの知育に使えるパズル作成
視覚障害者でも楽しめるパズルの企画制作
「脳いきいき!楽しい介護レク パズル遊び」著者
現在の職歴および活動:放課後等デイサービス 児童指導員
座右の銘:「あぺぺぺぺ」
パズルやゲームを通して人との関わりや振る舞いを学べる場所を広げたい
Q:細田さんのこれからの夢やビジョンを教えてください。
細田 和幸さん(以下細田 敬称略):福祉活動のひとつとして、自分が出来ることを広げて行きたいと思っています。現在は、放課後等デイサービスという主に障害がある子どもを対象とした学童での活動を行っています。
個人差があるので、子ども達との信頼関係を作りながら個別の支援計画を立て、次に取り組む学習や日常生活で必要なことを少しずつ働きかけています。
自分が出来る得意分野として、パズルやゲームを活用しています。遊びながら学習が出来ることと、ソーシャルスキルトレーニングと呼ばれる、日常生活での人との関わりや振る舞いを育てるプログラムを行っています。それは、ガチガチにやろうとすると上手くいかず、子どもにとっても辛くなってしまう場合があるので、遊びを通して自然に学べる様な環境づくりをしています。
子どもの世界に入り信頼関係を築くことから始める
Q:細田さんのこれからの目標や、現在実践されている活動について聞かせてください。
細田:現在は、放課後等デイサービスの活動が主になります。放課後等デイサービスにも色々な種類があり、学習に力を入れるところもあれば、ボルダリングなど体を動かすことをメインにしているところもあります。私が行っているのはプログラムのひとつとして、アナログゲームを取り入れ、みんなで顔をつき合わせながら、順番やルールを守ることを働きかけながら遊んでいます。いわゆるボードゲーム・カードゲームを使い、おもちゃと近いもので重さが変わると片方が崩れるなど、感覚に刺激を与える様なおもちゃを使っています。最初はみんなでやるのが難しければ、個別にパズルを使うことも多いです。
もうひとつの活動としては、日野市の事業で生活困窮家庭の無料塾が必要なご家庭を対象に、学習支援の活動をしています。それもいきなり学習というのは辛く感じるお子さんも居るので、子どもたちも来たいと思える様な関わりとして、遊びを通した学習を提案しています。
学習そのものも大事だと思いますが、勉強となると拒否反応を示すお子さんもいるので、最初は子どもとの関係性の方が大事です。どんなにすごいことを話しても関係性がないと聞いてもらえないと思います。
子どもの世界に入ってから自分を出すということを、心がけています。子どもがどんなことが好きなのか、どんな世界を見ているのかというところに、あえて入るんです。子どもが何を言っているか分からないではなく、そこに乗っかって会話をします。そして子どもに「この人は仲間だ」「この人には話していいかも」と思ってもらえたら、そこからまず信頼関係を築いていきます。子どもの「これ知ってる?」という投げかけに「知ってる!」と言うと話しやすくなります。全部を詳しく知るのは難しいので、それとなく子どもが関心がありそうなことを知っておくことも心がけています。
そして今後の活動としては、ソフトウエア・アプリ制作事業をメインとした会社を弟と設立しました。弟はウェブ関係の仕事をしており、私はコンテンツのアイディアを考える担当をしています。障害のある子どもにも強いツールになり、平仮名が書けない子もフリック入力はできたりするのでタブレットは使えます。何らかの形でソフトウエアの福祉もできる可能性があると思っています。今後、プログラミングが必修になることもあり、子ども向けのプログラミングや、ボードゲームもあります。パズルを完成させる道のりでプログラミングを組んだり、回路を作るようなパズルもあります。実際に顔をつき合わせることと、画面上でのやり取りも便利になるので、コミュニケーションのツールとして今後開発して行きたいと思っています。
失敗体験をさせない工夫
Q:細田さんが、子どもたちに関わる時に大切にされていることは何ですか?
細田:ゲームやパズルを通して失敗体験をしやすいので、「失敗した」と思われるのではなく、「何かできたな」と思ってもらえるように、失敗させない工夫をしています。
世の中に面白くていいパズルはありますが、難しいからこそ面白かったり、パズルが好きだからこそ面白いというものもあります。しかし、そういうものが得意ではない高齢の方や、子どもには失敗体験を味わうだけのものになりやすいのです。私が作って来たものは失敗体験になりにくい、段階のゴールをつくっています。まず、ここまで出来たらゴールだよという段階を作り、これにも挑戦できるかもしれないというワクワクするようなゴールを用意して行きます。「これ、できた人いないけどやってみる?」と、好きな子や慣れてきた子が挑戦できるように、段階を用意しています。
例えば、コースター型のパズルがあります。4つのL字のパズルに分かれるのですが、はめていけばできるような気がしませんか?「ひとつ出来た!」でも元々どうだったかと言うと、市松模様に並んでいました。合体もできて、一回り大きい鍋敷きサイズにもなります。この様に段階的なゴールを考えています。
記者:「出来た!」を蓄積していって、どんどん楽しくなりますね。
細田:失敗しない、させないということは考えています。自分が「出来たんだ!」という実感が大事です。パズルが好きな人からするとすごく簡単ですが、すごく簡単な方がいい場合もあります。
福祉的に使えば、手が動かしずらい方にも手に触りやすいもの。色が付いているのは表だけで、回転させるのが大変な方もいるので、目の前に見えている面で完成できることがやりやすい。表と裏があると、LもJになってしまうけどJだと入らない。これが両面色が付いていると難しい訳です。それをあえて、ただ外して元に戻せばいい様に作っています。返すという動きは違う筋肉が必要なので、遊びやすさは考えますね。
記者:このパズルは、ご自身で考えて作られたのですか?
細田:そうなんです。手作りで作っています。
記者:普通はゲームに勝ち負けがあるので、負けたという体験をしやすいですが、どの様に取り入れていますか?
細田:先に子どもに伝える時もあります。「この子はとても強いから3枚取ったらすごいよ」するとその子にとっての目標ができます。どうやっても勝てないぐらい強い相手でも、「相手が10枚でも20枚でも取ろうと、自分が3枚取れたら奇跡的なすごさだよ」と言うとそれを目指すようになります。逆に強い子には、「こんなハンデがあっても勝てたらすごいじゃん」と言うと、「じゃあそれで勝ってやるよ」という気持ちになります。そうするとみんなハッピーになります。
カードゲームをやっても1人がずっと負けるのは辛い時間になるので、そうならないように。戦略も面白いけど、最後は運で勝ったり負けたりするゲームを選んでいます。
子どもに向けて何を提供するか、仲介役の大人が見ている中で、子ども達ができるだけルールを守り合うように働きかけることも大事かなと思います。
ゲームやパズルは世代を越えてコミュニケーションができるツール
Q:細田さんが、ゲームを通して子ども達に関わるきっかけは何だったのでしょうか?
細田:一番大きなきっかけは、福祉の学校に行き始めたことです。高齢の方と接した時に、何かを話したいのにお互い何も話せないことがありました。自己紹介したところで、それ以上話題が出てこない。その方の世代の話をすれば少しは話をできますが、その時代を全て知っている訳でもないので、世代を越えて出来るものがあれば強いなと思いました。そういう時に物がひとつあると、触ったり話したりすることができるので、コミュニケーションやバリアを越える瞬間に何か物がひとつあると強いんです。最初は家に置いてあった昔のパズルやおもちゃを持って行ったのですが、パズルだと難しすぎて失敗体験をするだけみたいなことが起きてしまうので、これではダメなんだなと思いました。もう少し、遊びやすいパズルだったら手に持ちやすいとか、一緒に完成した時の「出来た!」という喜びを分かち合えるものを作りたいと思い、始めたのがきっかけでした。
もっと遡れば、私自身が幼い頃からゲームが好きで遊んでいたということもあります。自分で作ったパズルやゲームは、小さい頃の自分が欲しかったものでもあります。こんな物があったら素敵だな、これはハマっていたかもなと思いながら作っています。
記者:細田さんは、なぜ福祉の学校に行こうと思われたのですか?
細田:長年塾の講師をしており、個別の塾で勉強が苦手な子どもにいかに勉強を楽しく分かってもらうかを考えていました。そこに来る子どもは、発達障害や通級に通っている子どもも少なくなかったのです。そこで、私は難しいことを進めるよりは、勉強が苦手な子どもをどう救ってあげるのかということを考えていたので、その方面に進みたいと思いました。
それから塾の仕事を辞めて、障害を持っている子どもの学童に勤めるチャンスがありました。その時は気持ちはあったかもしれないですが、どういう風に子どもに接したらいいかが分からないままで、上手く行きませんでした。
そこで私自身が、実際にこういう風にうまくいかないんだということを体験した上で辞めた時に、福祉の学校で高齢の方のケアの中で自分が出来る事があるんじゃないか、福祉全般として子どものことも知る機会もあるだろうという思いがありました。
塾の仕事は、辞めた後も細々と週一回で続けていました。その間に自分自身で体験して分かったこともあれば、教科書的にこういうものなんだと分かったこともありました。イベントや実習に行くと違う知識を持っている方がいるので、そういう方から刺激を受けました。そして自分で何が出来るのか、高齢者のケアも考えましたが塾の講師をやっている時から子どもが好きでしたし、何か学習支援や福祉に繋がるような学習と遊びができたらなというところで、今の放課後等デイサービスに繋がっています。
答えに辿り着くプロセスを全部話してあげる
Q:塾講師をやっていた時に、「勉強が苦手な子どもをどう救うのか」というところに関心を持つようになったのはなぜですか?
細田:私は算数・数学が一番好きなのですが、公式や便利なやり方が得意な子どもはジェンガの場合、穴開きの状態で高く積む、骨組みを最小限にして丈夫なものを作ります。しかし苦手な子どもは、土台の部分をガチガチに固めて行けば出来るんです。骨組みとして時間はかかるかもしれないし能力はあるんですが、骨組みをきちんと敷き詰めていけば、時間がかかるけど高いところまで作れます。
私は早いやり方を教えるよりは、そこに辿り着くまでのプロセスを全部話してあげます。こういう風に考えて行くと最終的にここに辿り着くというステップを必ず話します。
私自身も幼い頃は、「なんでちゃん」でした。「そんな説明じゃ俺は納得しないよ」と言う子どもでした。同じ様な子どもが来ると嬉しくて、幼い頃の自分が来たなと思い「全部話してあげるよ」と言います。足し算や引き算を覚えていく頭の中のプロセスがいくつかやり方があり、そういったものを全部知っていると、この子はこういうやり方をやるんだなと見ていると分かってきます。だから「君はそういうやり方をするなら、こういうやり方をすると間違えにくいよ」「実はこういうやり方があるけどチャレンジしてみる?」と、結果は同じでもプロセスの道筋が変わってきたり、道筋を太くすることも出来ます。ひとつのやり方しか出来ない子どもには、そういった事が大事になって行くと思います。それに気づいてあげないと、出来る先生はいきなり違う方法を教えようとします。「これでやりなよ、こっちの方が早いよ」と言っても、その子は自分のやり方しか出来ないのに、いきなり違う方法をやるということは辛い事です。だから、どうして辿り着くのかのプロセスを教えてあげることが、大事だと思います。そういったところを見たり気づいてあげることを大切にしています。
大人から見た、固定した観点からは見えないものはありますが、子どもの世界に入って関係性を作ることから始めること。それが難しいです。
Q:これからどんな美しい時代を創っていきたいですか?
細田:私としては、ハッピーなこと嬉しいこと、楽しいことで満ちていて、毎日が楽しいことが大切だと思います。
私自身も、今は仕事が楽しいので子どもたちに会いに行きたい気持ちで日々活動しています。ですが、それまでは結構辛い時期もありました。どうやって生きて行こうかと悩みもあった上で、その悩みが無くなった時に心が軽くなりました。そういう辛い気持ちの時こそ、手を差し伸べられること。自分自身が辛い時は助ける余裕がなかなか無いですが、自分が楽しい時は他の人も「もっと楽しくなろうよ」と、手を差し伸べたいと思います。
お互いに支え合い、手を差し伸べられる人が増えて行けばいいなと思います。それは楽しい、嬉しい気持ちがないと出来ないので、そういった人たちが沢山増えるていくことが美しい時代だと思います。日々ハッピーであることは大事です。
記者:本日は、貴重なお話しをありがとうございました。
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細田 和幸さんの情報はこちらから
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https://www.facebook.com/kazucharo
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【編集後記】
今回、記者を担当しました久保、善家、合原です。
細田さんの、ただ正解を押し付けるのではなく、まず子どもの世界に入って関係性を築くことから始めること。その大人から見た観点に固定しない在り方は、これからのAI時代の心の教育として必要な在り方だと感じました。細田さんのこれからのご活躍を心から応援しています。
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