♪わるならハイサワー♪博水社3代目社長 田中秀子さん
お酒をわるならハイサワー♪のテレビCMでおなじみ、お酒を割る各種飲料を製造販売する、東京・目黒の老舗飲料メーカー、株式会社博水社。その三代目女社長、田中秀子さんにお話を伺いました。
田中秀子さんプロフィール
出身地:東京都目黒区
活動地域:東京を中心に全国各地
経歴:1960年生まれ、小学校より家業を手伝う。1982年大学卒業と同時に入社。2008年4月博水社三代目代表取締役社長に就任。
現在の職業及び活動:博水社三代目社長。新商品を定期的に開発しながら、各種キャンペーンを企画するほか、ユニークな販促施策を展開。ライフワークとして保健所に収容された犬や猫の里親探しのボランティア活動もしている。
座右の銘:脇役に徹する
記者 よろしくお願いします。
田中秀子さん(以下、田中) よろしくお願いします。
時代が変わるときに、何ができるか
記者 博水社さんといえば『♪わ・る・な・ら・ハイサワー』ですよね。私もよくCMを見て歌っていました。
田中 実は、うちはもともとラムネを作っていたんですよ。戦前の祖父の代から作っていて、終戦後もやっていました。
敗戦とともに海外の大手メーカーが参入し、他のメーカーもどんどん清涼飲料を作るようになり、ラムネ製造だけでは苦しくなりました。当時、東京都だけでも220件くらいラムネの町工場があったのですが、今では一桁も工場が残っていないんです。そのくらい当時は斜陽になっていました。
会社が変わらないと、このままだとつぶれてしまう。特に、冬が暇だったんです。そこでラムネが売れない冬は、みんなは何を飲んでいるだろう?と考えました。
すると、冬でもみんなお酒は飲んでいる。忘年会などね。だからお酒を造れたらいいなと考えました。
とはいえお酒を造る免許はない。そこで当時としては珍しいノンアルコールビールを開発していたのですが、結局頓挫したんです。
ちょうどそのころ行ったアメリカ旅行でロサンゼルスに行くと、なんと清涼飲料水がお酒を割るものとして使われていました。カクテルの文化を目の当たりにしたんです。
それで日本に帰り、お酒を造れないなら、お酒を割るものを作ろうと開発を始めました。ラムネ屋さんをやっていたので、飲み物を瓶に入れて殺菌し蓋をしてお届けする技術が、当社にはありました。
そんな中、日本初のお酒の割り材として発売したのが『ハイサワー』なんです。サワーが簡単につくれる。
実は1980年代当時、日本にはお酒を割る文化がなかったんですよ。今では、サワーとか何々ハイとかいっぱいあるじゃないですか。
でも当時は全くなかった。しかも焼酎をレモン果汁や炭酸と割って作る、新しいドリンクだなんて論外という時代だったんです。
記者 そうだったんですね!驚きました!
時代を先取りするためのヒントは現場に
記者 新製品の開発や発売は、どのようにして決められるんですか?
田中 お客さまが飲みたがっているもののヒントを、居酒屋さんに直接聞きに行きます。居酒屋さんが先生なんです。
たとえば今、女性でもお酒を飲まれる方が増えています。スナックで働く女性から、「毎晩飲むから、少しでもダイエットになるものを何か作れないか?」と聞かれて開発したのが『ダイエットハイサワー』です。
発売当初は、何でお酒の割り材なのにダイエット?と認められなかった。時代が変わり、今では男性までも生活習慣病対策やメタボ対策として、カロリーを気にする時代になりました。そうすると問合せが増えたんですよ。
時代って自分の力じゃ作れないですよね。メタボ対策の時代は、私が作ろうとしても作れない。でも自分の宝箱のなかに、その時代にどうですかと言えるものをいつも持っていることが大切だと思います。
それは、敗戦によってラムネが売れなくなったけれど、次の時代の商品を作ろうと『ハイサワー』をこの世に出せたことと共通していますね。
記者 田中さんは居酒屋さんなどでの対話を通して、人間を深く見るからこそ、時代を先取りできるのではないかと思いました。
人の中に、実は時代がある。人ひとりに深く接することによって、その時代も見えてくるということなのだと、感じました。
田中 そうですね、 人の生き様には、必ずその背景があるものですよね。
Q:どんな心のあり方を大切にされていますか?
田中 相手の目線に立つことが大切だと思っています。相手とは、ハイサワーを飲んでくださっているお客さんです。
ついついメーカーは作る側の立場で商品開発してしまう。自分たちがとても美味しいと思ったからと、その価値観で商品を出してしまうんです。
そうではなくて、とにかく相手の立場に立って、物事を組み立てて行く。もしかしたら、自分の方からの組み立てとはまったく違うかもしれない。そしたら潔く自分が引いて、相手目線で1からバラして、考え方をガラリと変えていかないとと思っています。
相手が自分に対し何を一番求めているのかと考えていった方が、結果的にスムーズな気がするんです。
Q:これからのAIが活躍する時代に必要とされるニーズは何だと思いますか?
田中 AI などが加速度的な勢いで進化すると、ちょっと人間の方が落ちこぼれちゃうと思うんですよ。ついていける速さは人によって違うと思います。たとえば、おじいちゃんおばあちゃんがスマホを使えないみたいに。
やはり私たちは機械ではないし人間なので、そういう付いていけない時こそ思いやりが必要になってくると思います。
私はAI を作る業界ではないので、便利に使わせていただく側の人間。そこを居酒屋さんやお会いした方との話を聞いて、何ができるのかなと考えるのが私のポジションだと考えています。
いつかは時代が変わり慣れていくんだろうけれど、やはり人間の為の人間の社会なので人間をケアしたいと思っています。
Q:どんな美しい時代をつくりたいですか?
田中 日本でも、価値観が多様化する時代ですよね。今、日本も、外国人が多くなっていたり、高齢者も増え生活様式も本当にバラバラじゃないですか。年齢、職業、働く時間帯も多種多様。
これからさらに多様化するからこそ、ちょっとしたコミュニケーションや気配りができるように、日本全体で考えていかないといけないと思っています。
私は人が集う居酒屋さんをいつも見ているなかで、人は繋がってないと生きていけない生き物だと思っています。どうでもいいことでさえも、誰かに聞いてもらいたいこともある。
ゆるっと思いやるぐらいがちょうどいいのかもしれない。頑張りすぎず、細く長く続けられる関係がいい。
記者 AI の最先端の時代だからこそ、人間を大切にする視点がとても必要になってくると感じました。本日はありがごうございました。
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田中秀子さんに関する情報はこちら
株式会社博水社
http://www.hakusui-sha.co.jp/
【編集後記】
インタビューを担当した、稲垣、若林、目黒 です。
田中さんがとても気さくで明るく、笑顔があふれるインタビューとなりました。田中さんの人を大切にするあり方に感激し、思わず途中で涙ぐむ場面も。素敵な時間を本当にありがとうございました。